ラリーで物の名しましょう 相田奈緒×睦月都ラリー競詠

ということでまたやります。

前回の物の名競詠はこちら

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(前回同様、相田と睦月のLINE上の会話を基に再構成しています。)

☆2017/07/12(水)
相田▼ お題をもらって、できたら歌と一緒に題を出すので、睦月さんが打ち返す、みたいなのでどうでしょう🐈
睦月◆ ラリーだ!!やります🐙🌠🌠🌠
じゃあ最初は相田さんから、物の名は私が今日食べた「すいか」で!

☆2017/07/13(木)
物の名 すいか
  猛暑日の私を生かすいかさまに気付いてもいいんですけど、渚/相田奈緒

→お題 渚

相田▼ 三文字のお題なので、「すい・か」か「す・いか」の二択ですね。
後者で、動詞の「す」にしよう、と決めてから、「いか」を色々と考えました。以下、異界、遺憾……。
うしろの「いか」を考えていたら、手前の「生かす」が出てきた感じです。
睦月◆ 「すいか」そのものが出てきてるわけじゃないけど、「猛暑日」や「渚」という夏の縁語が登場して、意味の裏で季節感が響いている。二・三句目の「生かす」「いかさま」の韻がメトロノームのようにテンポをかちっと決めていて、なのにそこから「気付いてもいいんですけど」の大きな句跨がり、「、」を置いて「渚」、とリズムを崩す方向に働いていて、そのリズム感が面白いです。
「私を生かすいかさま」が何なのか読み取れなかったのと、「気づいてもいいんですけど」って投げやりに言って「、渚」と〆るのはやや安直に流れてしまっているけど、猛暑日、炎天下のイライラ感が出てる歌だと思います。
お題頂戴しました。道中お気をつけて!

物の名 渚(なぎさ)
  この家(や)にも夏来にけらしくるひ鳴き小夜のごむまり追ひまはす猫/睦月都

→お題 百日紅

睦月◆ 三文字、短くてちょっとむずかしかった……。パターンとしては「〜な」末の語(皆、腕などの名詞や否定命令文、形容動詞の"な"等)+「きさ」(兆し、階、如月……)とするか、「なき」(無き、亡き、泣き、鳴き……)+「さ」とするか。
相田▼ わーい待ってました。猫の歌だ!
三文字、難しかったですか?わたしは選択肢がまず二択になるので、結構考えやすかったのですが。
睦月◆ "これしか置けない"っていう単語がないので、自由度が高い反面イメージを作りにくいな……と。うんうん唸っていたところ、部屋に飼い猫が入ってきて遊びはじめたので、結局それをそのまま歌にしました(笑)。
相田▼ どういうお題がやりやすいか、人によって違うのかも。おもしろいですね。
夏来にけらし、は持統天皇の歌がすぐ思い浮かぶのですが、同じ夏の始まりとは思えないほどイメージが離れてますね。屋内で、夜で。
爽やかな初夏って感じではなさそう。夜に「夏だな」って感じるということは、もう少し蒸し暑い感じがします。
個人的に、「飼い猫が入ってきて遊びはじめたので」という作り方に嫉妬をおぼえました(笑)。

☆2017/07/14(金)
物の名 百日紅(さるすべり)
  ここにいる助手を消し去る術、林檎一つ持たせて箱にしまって/相田奈緒

→お題 アイスクリーム (長すぎかな…?)

相田▼ 「さ・るす・べり」という切り方を最初考えていました。
「〜〜さ(呼びかけ)」「留守」「ベリーの〜〜」とか。
でもそうすると、「留守」が孤立しちゃうので断念。
睦月◆ この歌、マジシャンとその助手なんですね。「術」「助手」「消す」あたりで、サイコな科学者が怪しげな薬を助手に投与するのかなと思っちゃった。
科学者だとすると林檎は「知恵の実」的な連想でつきすぎかなと思ってたのですが、マジックの練習だとしたらほどよく滑稽な風景にはっきりとした赤が真ん中に一点色に浮かんで、画の構成力を感じます。
ホームズとワトソンみたいに、偏屈で圧倒的な天才とそれを支える(迷惑をこうむる?)常識人、という組み合わせは王道ですけど、この歌の主体と助手の関係もそういう感じなのかな、と想像しました。
結句の「しまって」が、例えば「閉じる」、とかじゃなくてそこが良いです。「閉じる」は人の動作なので、何かその行為にニュアンスが出てしまう、動作主の手だったり扉が閉じられる音だったりを想起させるけど、「しまう」はもっと純粋にモノの位置をAからBに変化させることを言っている。その、より事務的で日常語の「しまって」のチョイスが、このマジシャンと助手の権力的な非対称性を言外に示唆していると思います。
相田▼ マジシャンのイメージでした!助手は二度と戻ってこないような気がします。
睦月◆ 「助手は二度と戻ってこない気がする」ってとてもわかります。上の構造と合わせて、何かその後にかすかな喪失感を漂わせている気がする。
相田▼ 「しまって」の非対称性、なるほどです(睦月さんの読みがかっこいい……)。

物の名 アイスクリーム(あいすくりーむ/あいすくりいむ)
  草陰に夏鳥の藍 すぐり忌むごとく愛しむごとく食せり/睦月都

→お題 海水浴(明日江の島に海水浴に行くので!)

睦月◆ うまくできた( ・`ω・´)!もののなたのしい!
相田▼ おおおー、すごい!7音が見事に処理されているー!
草陰に夏の鳥がいる。具体的には何という鳥かわからないですが、羽に藍色が入っているきれいな小鳥が、すぐりをついばんでいる情景ですね。
「忌むごとく愛しむごとく」で、それを観察している主体の食への価値観がぐっと出てくるんですけど、絶妙に食を表していてよいなあ、と思いました。食の対象は、砕かれて飲み込まれて目の前から消えるもので、生きるために食べることの罪の意識みたいなものが「忌むごとく」なのかなと。
睦月◆ この歌は「すぐり忌む」が先に出てきて。最近、近所のお庭にスグリやベリーの類がたくさん生ってて素敵なんですが、その光景から浮かびました。
物の名楽しいですね!なんか、つくってて絶対にずらせない地点みたいなのが出てきますね。
相田▼ はい、動かない場所ができてから、まわりをどうにかする、みたいな。
睦月◆ ね、そうなりますね。そういう意味では題詠より自由度高いかも。
余談ですが「すぐり」はうちの飼い猫の名前でもあります。
相田▼ 飼い猫の名!そうだったのか。

睦月◆ すぐりさんです
相田▼ ねこー!すぐりさん、はじめまして。相田です。
睦月◆ 挨拶したΣ(・ω・ノ)ノ!
相田▼ 挨拶はだいじ。
睦月◆ だいじだね。えらい

☆2017/07/15(土)
物の名 海水浴(かいすいよく)
  帰り道たばこ買い吸い 翌週の予定を聞きながら駅の前/相田奈緒

→お題 江の島(睦月さんが遊びにいくというので)

相田▼ けっこう難しかったー!
「〜〜か」「椅子」「意欲」なども考えたけど、やはり途中に名詞いっこぽつんとなるのは成立しないなあ、と。「〜かい(よびかけ)」とか、やってみたかったんですけど、うまくいかず。
まあ「買い吸い」もかなり無理が…ありますが……。
その後は、「すい」が「吸い」しか思いつかなかったので、たばこかなって。
わたしはたばこ吸わないんですけどね。
睦月◆ 「帰り道」というところから、市街地ではない、閑散とした駅の夜の喫煙スペースを思い浮かべました。そこでLINEとかをして、顔の見えない相手の「翌週の予定」を聞いている。もしかしたら絵文字とかも使ってる。でも現実的に主体は真顔で、煙草も吸ってる。肉体的な体感だと煙草のほうが強いから、相手に「翌週の予定を聞」くのは煙草のついで感が出ますよね。でも連絡の相手はそんなこと知る由もなく、文字の様子だけでこちらを見ていて、主体は”私”の状態を隠すことができる。そのうらぶれた感じ、不穏さ、みたいなものに薄くほの暗く覆われています。
名詞の孤立感の問題ありますね。題が長いとそっちが出てきますねー……。相田さんのこの歌では動詞・動詞の組み合わせでうまく処理できてるんじゃないかなと思いました。
江の島、りょーかいです!( ´ ▽ ` )ノ楽しんできます!

☆2017/07/16(日)
物の名 江の島(えのしま)
  油絵の縞馬の目の暗くありつひにわたしを振り向かずゆく/睦月都

→お題 しらす丼(さっき江の島のお店で食べておいしかった)

相田▼ 油絵のシマウマ、よいですね。こっち見てない目なんですね。
睦月◆ 島→縞→シマウマ、という発想がまずあって、江ノ→絵の……シマウマの絵ってあるのかな?って考えてGoogleで画像検索したら、ジョージ・スタッブスという画家の「縞馬」という絵が出てきて。
[Google画像検索リンク]
相田▼ (検索してみて)わ、いいな。
睦月◆ この絵、いいですよね。1763年の絵で、縞馬はまだぜんぜんポピュラーじゃなくて、王室などでわずかに飼われていた頃らしいです。
相田▼ いまWiki読んでたんですけど、馬の絵を沢山書いた人なんですね。へー。
この歌、絵の中のシマウマなので、ずっと見ていても目が合ったりするはずがないんですけど、主体はなぜか絵の前で立ち尽くしている、という感じがしますね。「つひに」に、その時間経過と変な期待感があっておもしろいです。
そしてシマウマは行ってしまうので、これも白昼夢的な歌ですね。
睦月◆ ……が、すみません「絵」は「ゑ」でした、不覚……。とりあえずこれはこのままで……
相田▼ ゑ…!なるほど…
睦月◆ 仮名の失敗こわい…!

物の名 しらす丼(しらすどん)
  親不知どんな生え方 青になるまでにすっかり聞いてしまいたい/相田奈緒

→お題 手持ち花火(花火したい!)

相田▼ やってみて気付いたんですが、「ん」の処理はかなり限定されるなあ。幸い今回はその手前が「ど」だったので、「どんな」がするっと出てきました。ほかの可能性としては、んで終わる名詞とか、「どんどん」みたいな副詞とかかな。「親不知どんどん生えろ」とかだと、全く違う歌になったかも。

睦月◆ お題、りょーかいです!花火しましょう!
「親知らずどんどん生えろ」って「全く違う歌になった”かも”」とかいうレベルじゃないですよ、怖いよ(笑)。
で、「どんどん生えろ」を切り捨てて選択された「親不知どんな生え方」、このフレーズはすごくいいですね……。全体的に静謐な印象の文体に「どんな」って三音のしゃべり言葉をぶっこんでくるの、手法としてはあるけど、上手くやられてるの見るとやっぱり心動かされますね。
「この秋は何で年よる雲に鳥 芭蕉」という句を先日谷川(由里子)さんから教わって、いまこの構文にちょっと感度が高いです。
「青になる」も、すこし考えて信号かなとわかる、抽象から現実にワンステップで行けるから無理がないんだけど、読者がそのステップを踏む前に、視界にふわぁっと青の水彩が広がるのがとてもいいです。
相田▼ その芭蕉の句、よいですね……。何でって言われても、どうしようもなくて、せつない。
睦月◆ この句、いいですよね…死を前提とした生のうちの一回の秋、というのを感じます。
相田▼ 死を前提とした生、わかる。いまちょっと調べたら、この句の少し後で芭蕉は亡くなったそうです。うう、具合悪かったんだな。
睦月◆ ああ、やっぱりそうなんだ……。
相田▼ 「雲に鳥」で、鳥が遠くに飛んでいく景が命が消えていくのと重なって、でもそれは自然で仕方のないこと、悲しい事じゃない、みたいなところがあって……。
睦月◆ ね……。それと「何で」でやや上ずる、涙声のようなものが交じるんですよね。「何で」という発声でこの句は急激に上昇して、その上向いたまま、雲と鳥が出てくるという。かけがえのない感じ……
相田▼ やー教えてもらってよかったなあ。

☆2017/07/17(月)
物の名 手持ち花火(てもちはなび)
  屋上に充ちくる曙光 さても血は靡きやまざり立つわれの背に/睦月都

→お題 麦わら帽子(夏の必須アイテム)

睦月◆ 手持ち花火ちょっとむずかしかったです!複合語で要素が多いからかな?手+持ち+花火、で。元の語が短くぷつぷつ切れちゃうから、音を包括する単語が出てきにくい。
相田▼ おお、靡く、が出てきたのすごいですね!
血がなびいて止まない、その立ち姿、背中、光、かっこいいですね。
この血が熱い感じ、ちょっと怖いくらいです。
睦月◆ ありがとうございます!背に靡く……のは前回のシマウマのイメージを引きずってますね……。「さても血は靡きやまざり」から出来てきたので、ちょっとかっこつけすぎかなと思って焦ってました……
相田▼ 血が靡く、というの、体感があってわたしはとてもよいとおもいます。ざわざわする。
睦月◆ ふふふ、物の名たのしー!( ´ ▽ ` )ノ次ちょっと長めですがよろしくおねがいします!

☆2017/07/18(火)
物の名 麦わら帽子(むぎわらぼうし)
  名医一人鼻に住む奇話 ラボ後ろ駐輪場に語り継がれて/相田奈緒

→お題 飛行機(明日東京もどります。飛行機やだな。)

相田▼ く、くるしい…、7文字恐ろしい!ぶつぶつ切れるのをできるだけ避けようとしたらこんな結果に……。う、うう。
睦月◆ あはははは!いや笑っちゃいけない。あすはわが身……!
やっぱり単語の中の節?が多いと、途端に作り難くなる感じがします。今回だと麦/藁/帽子、で長めの塊がない……
相田▼ でもこれ、けっこう気に入った。がんばったと思いません?(笑)
睦月◆ よくわかんないけどなんか物語みたいなのを感じます(笑)。……相田さん、変な名医とか変なマジシャンとか好きですね。
相田▼ 大学の研究室棟の裏に駐輪場があるんですよ、多分……。
睦月◆ ナイスファイトありがとうございました(笑)。飛行機、りょうかいです!( ´ ▽ ` )ノ

物の名 飛行機 (ひかうき)
  憂ひとはわれの海馬にけぶる火か雨季なかなかに了(を)へぬこの頃/睦月都

→お題 夕立ち(今日の東京すごい雨だったんですよ)

相田▼ 海馬にけぶる火!かっこいい
睦月◆ わーい!飛行機はつくりやすかったです!
相田▼ 上句の「憂ひとは」「海馬にけぶる火」という把握、一読ですっと入ってきました。感情は脳で発生している電気信号とか化学物質だというような話、聞きますよね。そう考えたときに、この「海馬」という場所が実景的に見えてきます。自分の脳内にある小さな、でも実際に存在する部分。その場所に火がけぶる。火なのでそれなりに激しさがあるのですが、燃えさかる火ではなく「けぶる火」であることに、時間の長さと鈍い痛みのようなものを感じます。まさに憂いとしか言えないですね。
そしてそれを「か」という末尾で閉じていることで、憂鬱なときの、体に断言する力のない状態を感じさせます。
ある感情(この歌の場合「憂ひ」)を何かにたとえる構文はよく見かける気もしますが、わたしはこの歌は、そんな感じで体感を持って読めました。好きです。
下句は、梅雨明けしないという今年の夏の事実ではあるんですけど、他でもよかったかなあ。 「なかなかに了へぬ」は、ちょっと感情のニュアンスがこもり過ぎてる気がしますね。 上句のかっこよさで押し切ってほしかった!
睦月◆ ありがとうございます。そうそう、「火か」+「雨季/憂き」がまず出てきて、それで「憂い」って何だろうと考えて。
海馬は記憶の形成に関わりの深い部位なんですが、ストレスに弱くて、うつ病患者ではこの部位に萎縮が見られることでも知られています。
下句はまあそのまま、今のことなんですけど、やっぱり最初に浮かんだ「雨季/憂き」のイメージを切り離せなかった感じがあるかなあ……。個人的にはいままででいちばんイメージがすっと出てた歌で、気に入ってます!

☆2017/07/19(水)
物の名 夕立ち(ゆうだち)
  真昼間の蛮勇 立葵ならば鮮やかなまま立っていられた/相田奈緒


相田▼ 先に「ねえ、YOU達、」っていう初句を思いついたんですけど、使いこなせませんでした。無念。
睦月◆「ねえ、YOU達、」が初句の歌に言えること何もないわ(笑)。
立葵、季節ですね。タチアオイは背の高い夏の花で、一本の茎を真っ直ぐに伸ばして花をつける。紅色の花が一般的かな。夏の青空を背景に見るとはっとする鮮やかさがあって、そのイメージが重ねられている。
歌としては「真昼間の蛮勇」のフレーズが勝ちすぎちゃってて、意味が置いてけぼりになってるところがあります。物の名の処理でこうなっている、という留保はありつつ、かっこいいけど意味に結びつかないフレーズが私はどうしても苦手なのでここは取れないんですけど、ただ続く「立葵ならば」が反実仮想だから、向こう見ずに立ち向かっても現実の〈私〉は「鮮やかなまま立っていら」れなかった、倒れてしまったんだということがわかって、それが「蛮勇」というあらあらしい言葉と響き合ってくる感じ。
話逸れるんですけどムクゲとフヨウとタチアオイって似すぎじゃないですか?タチアオイはまだしも、ムクゲとフヨウがいまだに全く見分けられないです……。



相田▼ 物の名楽しかった!私の夏休みにお付き合いいただきありがとうございました!!明日から仕事です〜〜😢

睦月◆ うお〜〜おつかれさまでした!!物の名たのしかった!!終わってしまってさびしいです😢
12日からの約1週間で、私5首、相田さん6首の制作で終わりましたね。思ったよりテンポよくいったなあ。またやりましょう!

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