【毎週月曜日更新】「うまいこと」言えないままのひとでいたい。


「ものをつくること」以外の仕事として、ひとつに「伝えること」がある。

商品を仕入れて売るひと、ほかには雑誌とか広告とかもそちらに分けられると思います。

そういう分け方では、私たちも伝えるほうですね。


コピーライターの糸井重里さんが、以前「コピーの考えかた」について聞かれたときに

「いいコピーを探してるんじゃなく、本当のことを探していて、それをコピーにしているだけです」とおっしゃっていた。

それまでは「伝えること」は、ひらたくしてしまうと「うまいこと言うこと」だと思っていたし、そういう「ないものをあるように言う」仕事にすくなからず違和感をもったこともあった。


実を言うと、「妙におしゃれなもの」がずっと苦手だった。

パッケージがきれいにデザインされたお菓子とか、たいていちょっと高いやつ。

子どものころは「妙なところ」なんてわからないから、お願いして、買ってもらえることもあった。

でも、そういうのに限ってあんまりおいしくなかったり、量がびっくりするくらい少なかったりする。

裕福でもなかったので、せっかく買ってもらったのにという申し訳なさとか、よくわからない敵にだまされたような気持ちになったりしてた。

だから、もうそういうのよりも「ポテトチップス」がいいし、「アルフォート」がいい。

ずっと昔からあるし、みんな買ってるから安心だし、値段もやすい。


ある程度そのあたりのことがわかってくると、「妙なもの」とそうでないものが区別できるようになってくるので、ちゃんと「本当のこと」を伝えてくれてるものを選べるようになってくるのですが、「おしゃれなものにがっかりする」経験を子どものころにしてしまうのはすごくまずいことだったと思う。


なんとなく、「妙におしゃれなものを信用できない気持ち」ってあると思う。

本当にこの商品にこの値段はあってるのか。「伝えるひと」は本当のことをいってくれてるのか。

子どものときに、そのときの自分としては「損」をしてしまったので、
今でも心のどこかで、そういうことについてすごく厳しい目でみてしまう。


「うまいこと言う」んじゃなくて、「本当のこと」を伝えたい。

そもそも「うまいこと言う」のも得意じゃないのですが、本当のことを言うよりは、うまいこと言うほうがずっと楽ちんなんですよね。

嘘はときには必要なのかもしれませんが、「伝えること」を仕事にしている以上、「うまいこと」言えないままのひとでいたい。



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