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NPO法人「おはなしころりん」をテーマにドラッカー5つの質問を考える - 「産学官地域課題研究会」第4回レポート

こんにちわ!
2023年2月2日(木)に産学官地域課題研究会の第4回を行いました。
そしてこれを投稿するのが2月28日…振り返り記事を書くのに1ヶ月かかってしまいました😭

さて、第3回に引き続き、NPO法人おはなしころりんの江刺由紀子さんにお越しいただきました。前回出た様々なアイデアを元に、今回取り組むことは、

自分たちの事業のどこに焦点を当てるのか

ということです!

今回も座長である、明治大学サービス創新研究所の阪井和男所長に、実践的な内容をご教授いただきます。

江刺さんからのご挨拶

まずはテーマを提供してくださった江刺さんからご挨拶から始まりました。前回を振り返り、「活動資金をどうやって獲得していくか」という悩みに対して「自分自身が気づかなかった」「外から見たおはなしころりん」を踏まえたたくさんのアイデアを知れたという江刺さん。

そして、出てきたアイデアの中から早速一つ着手しているそうです!行動がとにかく早い!

現在進めているのは、おはなしころりんのロゴのキャラクターたちを使ったケセン語のLINEスタンプだそうです。かわいいキャラクター達のコテコテのケセン語、使い所が多そうで楽しみです!

アイデアに押しつぶされないために

前回は結晶化ワールドカフェというワークショップを実施し、江刺さんの事業の悩みをもとに参加者の方々から様々なアイデアが出ました。

ワールドカフェは多くの人から効率よく多様な意見を収集できます。一方で、現実にはお金の面でも人でもリソースには限りがあります。すべてのアイデアを実行できるわけではないので、たくさんのアイデアの中から何を実行すればよいのか、ということを考える必要が出てくるのです。

このように、アイデア出しという第1の壁を乗り越えた後も、出てきたアイデアの中から有効な打ち手を絞り込む、という第2の壁を超える必要があります。ここの軸をしっかりと持っておかなければ、たくさんのアイデアによって逆に方向性を見失ってしまうことにもなりかねません。

このときの評価の軸となるのが、今回取り組むドラッカー5つの質問です。ドラッカーの5つの質問について詳細は、研究会の第2回もご覧ください!

下準備

模造紙からアイデアを抽出

前回参加者と新参加者がまじり、各テーブルで前回のワールドカフェの成果である模造紙からアイデアを付箋に抽出していきます。前回参加者は模造紙を元に、新しい参加者にどういう議論がされたかを説明していきます。

ここで、前回行った結晶化という作業が効いてきます。前回は各テーブルで話し合ったことの中からキーワードを選び、さらにキーワードをもとにストーリーとしてまとめました。ストーリーは記憶に残りやすい(想起しやすい)ので、前回から1ヶ月ぶりの開催だったわけですが、キーワードから議論の内容を再構成するのは思いの外スムーズだったのではないかと思います。

抽出したアイデアを5つの質問に当てはめる

次に、抽出したアイデア(=付箋)を5つの質問に当てはめていきます。ここで、ドラッカーの5つの質問についておさらいです。

ドラッカー5つの質問は次のように構成されます。

  1. 「われわれのミッションは何か」

  2. 「われわれの顧客は誰か」

  3. 「顧客にとっての価値は何か」

  4. 「われわれにとっての成果は何か」

  5. 「われわれの計画は何か」

これらの本質的な問いを順番に考えていくことで、本当に焦点を当てなければならない部分が浮かび上がってきます。ところが、5つの質問をうまく実践するのは非常に難しいという問題がありました。

そこで、阪井教授は5つの質問を次のように整理します。

出典:阪井和男『ドラッカーの5つの質問による 企画セッションの方向性の検討』

5つの質問を顧客側の柱われわれ側の柱、そして2つの柱に支えられてミッションが成り立っている、という捉え方です。

この図式に、さきほど抽出したアイデアを貼り付けていきます。貼り付けた結果がこちら!

「アイデアを話し合うと計画が上がりやすい」という傾向があるというのが前回の話でした。今回も一番多いのは「計画」ですが、各アイデアがまんべんなく分かれているようにも見えます。要因はいくつか考えられますが、前回の大船渡温泉の参加者がいたことや、参加者の多くがNPO法人や社会福祉法人で活動されている方で、ミッション、顧客、成果といったことを考える場面が多いということもありそうです。

さて、これで下準備は終了です!抽出されたアイデアをもとに、いよいよドラッカーの5つの質問を考えていきます。

ドラッカーの5つの質問

Step1. 計画はどんな顧客の価値につながっているか

まず最初にやることは、第5の質問「計画」のアイデアの中から見いだせる「顧客の価値」は何かということです。この第3の質問が今回のワークショップで一番注目する部分になります。

ここで、第2の質問の「顧客は誰か」をスキップしていきなり「顧客の価値」にいったことに注意です。阪井先生は「顧客は誰か」ということを見定めるのはプロのコンサルタントが行うような難度の高い作業と言います。この「顧客は誰か」という問いは、顧客の価値を見定めていく中で、価値と紐づく顧客として自ずと絞られていくことになります。

ここでの作業は列挙された計画の中で「その計画はどんな顧客の価値につながるのか」というものを考えていくことです。検討していく中で新しい気付きがあれば新たに付箋で貼り出します。ここでは「顧客の価値」という視点から、今あるアイデアを深めたり、新しく生み出される顧客の価値があるかについて注意を注ぐことになります。

ここもいわゆる拡散的思考で、「どのような価値があるのか」についてアイデア出しをしていくフェーズと言えます。

Step2. 顧客に一番刺さる価値は何か

step1の作業で、それぞれのテーブルで様々な顧客の価値を「発見」していきました。次に考えることは、何が一番顧客に「刺さる」価値なのか、ということです。発散させたアイデアを収束させる段階です。

各テーブルで「様々な価値の中でもこれが大事だと思う」というものを2~3個選んでもらいます。ここも各グループでなぜ自分はそれを選んだか、何が価値なのかについて、深く議論している様子でした。

各グループで選び終えたら、それぞれのグループで何を選んだのかを発表してもらいました。

江刺さんが参加していたグループは「情操教育」「心を育む」「読書好きになってほしい」といったキーワードが挙げられました。これらはおはなしころりんの原点とも言える価値に見えますね。

別のグループでは「子供が豊かに育つ」や「親のちょっとした自由時間」が挙げられました。やはり子どもが価値の中心にあるのと同時に、親が少しだけ自由になる、という点にも価値があるのではないかという視点です。このグループは父親、母親、そして保育士経験のある30代という構成で、子育てに関わるプレイヤーたちがバランス良く参加していたグループでもありました。

もう一つのグループも「子供が楽しい」「親が『楽』」という視点で価値を見出しています。やはり子どもと同時に親の側にも価値を見出しているのが特徴かと思います。

Step3. 価値から浮かび上がってくるミッションはなにか

ここで各グループで顧客に一番刺さる価値というものを考えました。次に考えることは第1の質問「ミッション」です。

ミッションは使命・目的であるという説明がよくされます。「なぜわれわれが存在していて、どのような世界を目指しているのか」という部分がミッションだと言えます。

「ミッション」とは、その組織の存在理由である。存在する目的である。この質問は「何のために存在しているのだろう」という根源的な問いである。

「われわれのミッションは何か」 - Drucker Studies

最初の質問に設定されていることからわかるように、ミッションを定めることは経営者が「第一に成すべきこと」であり、ミッションを正確に理解することが求められます。

ミッションは非常に重要なので「熟考を要する」ことであり、やはりスラスラと進められるような作業ではありません。しかし、いま私達は「顧客の価値」を見定めたので、ここからミッションの輪郭が浮かび上がってくることになります。

「顧客の価値をもとに浮かび上がってくるミッションは何か」について、さらに各グループで考えてもらいます。

それぞれ事前に設定した価値から、次のようなミッションを見出しました。

  • 価値: 「情操教育」「心を育む」「読書好きになってほしい」→ミッション: 「子どもを育てやすい地域、住む人達のことを考えて、本やものを通じて地域の子供達が心豊かに育つ」「人と人、人と街がつながる

  • 価値:「子供が豊かに育つ」「親のちょっとした自由時間」→ミッション:「子育てを精神面から支援する

  • 価値:「子供が楽しい」「親が『楽』」→ミッション: 「子育てに余白を作る

それぞれ比較的共通したミッションが出てきたのではないでしょうか。

Step4. どんな「成果」があればミッションが達成されたと言えるのか

次は顧客側の柱から、「われわれ」側の柱に戻って、第4の質問「成果」を考えていきます。ここでいう成果とは「それを見ればミッションが達成されたということがわかるもの」という意味になります。


「子育てを精神面から支援する」というミッションはいくつかの成果が挙げられました。

  • 親がやりたいことをイキイキできる

  • 子どもと向き合う時間が増える

  • 親子の会話量が増える

  • ころりんのまわりに子どもがいて、それを見守る大人たちがいる、という「継続的な状態」

定性的な成果と定量的な成果が挙げられています。阪井先生からも「行動の変化というのをある程度可視化することが可能」というコメントを頂きました。

「子育てに余白を作る」というミッションからは「怒る回数が減る」という成果が挙げられました。これはユニークで面白い視点ですが、確かに余白がない・余裕がない状態というのは子どもについ当たってしまいがち、という経験から得られています。余白がどれだけあるかを示す指標としては本質的ですし、阪井先生も「非常にわかりやすい成果」とおっしゃっていました。

 「子どもを育てやすい地域、住む人達のことを考えて、本やものを通じて地域の子供達が心豊かに育つ」「人と人、人と街がつながる」というミッションからは、グループで話し合った結果「あまり成果が思いつかなかった」ということでした。「心が豊かになる」ということは「成果が出しにくい」というところから議論が始まり、江刺さんも入っていることもあって「年度末にどのように数字化して出すのか」という部分も思考に入ってきたのだと思います。

このことについて、阪井先生は「もう一段、具体的な行動につながるミッションを想像しなければならないことを意味している」と述べていました。前段階のミッションがまだ抽象的であり、成果をできるチェックになりきっていないということだそうです。この場合は一度ミッションに立ち返って考えていく必要があるようでした。

Step5. 成果につながらない「計画」を外す

最後に大量に貼られている計画から、今出した「成果」につながらないものを外していきます。

この作業によって、結晶化ワールドカフェで出したたくさんのアイデアの中から、ミッション、顧客、顧客の価値、成果と密接につながった計画のみに絞ることができます。

時間の関係上、今あるものを外すだけになりましたが、この段階で成果を踏まえてさらに計画を考えつくこともあるでしょう。5つの質問は一度考えて終わりではなく、このように繰り返し繰り返し思考を巡らせるものになります。

※ここで進行上の反省なのですが、今までグループ別に進んでいたものが、ここで一つのホワイトボードでの作業となり、付箋を外すに外しづらいという状況になっていました。最後の締めの部分だったので、気をつけたいですね…。

まとめ

江刺さん「自分がわかっているようでわかっていないものを並べることができた」

テーマを提供していただいた江刺さんから感想をいただきました。

江刺さんによると、江刺さんの事業の立て方はつぎのようなものだそうです。

  • 「漠然とこの地域の課題っていうのはこういうものだろうな、日々目にしててこういうものが必要なんだろうな、ということでまずミッションを作る」

  • 「ミッションを達成するための計画をすぐ立てる」

  • 「実行に移す」

  • 「反省点を挙げて、もう一度揉んで計画を立てる」

ここが江刺さんのスピード感を生み出しているんでしょうね。

そして今回の気付きとして「対象となる市民の方たちから価値というものが、言語化して付箋に書くとなるとすんなり書けない」ということも仰っていました。確かに上のフローにはない「価値」という側面が強調されているのがドラッカーの5つの質問の特徴でもあります。

付箋に書き出すことで「自分がわかっているようでわかっていないものを並べることができた」とわかりやすく総括してくださいました。言語化する、視覚化する、空間に配置する。これらのことで、見落としがちなところにも気づくことができるようになるワークショップだったと思います。

阪井教授「振り返ることができる成果を可視化する」

阪井先生からも次のようにまとめてくださいました。

「色んな活動(企業、大学、教育の現場、我々の生活もそう)を見ていて思うのは、何を振り返ってそこから学べばよいのか、ということが抜け落ちている場合がある」

「うまくいかない、苦しいというときは、実は振り返るポイントがずれている

振り返ることができる成果というのが、ちゃんとミッションとつながっていたり、顧客の価値とつながっているということを踏まえてはじめて、行動した結果を修正していける」

「我々が学び続ける存在であるためには成果が可視化できていることが重要、それによって振り返りができる」

今回の手法はまさにこの振り返ることのできる成果をどうやって作るかというものでした。そして、ドラッカーの5つの質問は一度答えたら終わりというものではなく、常に考え続けなければならないものです。だからこそ「学び続ける」必要があります。

今回のドラッカーの5つの質問の取り組み方を、参加いただいた方が持ち帰ってそれぞれの分野に活用していただければ幸いです。

テーマを提供してくださった江刺さん、参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。

第5回のご案内

さて、第5回の産学官地域課題研究会のご案内です。

次回の内容は、第1回・第2回の大船渡温泉、第3回・第4回のおはなしころりんの内容を踏まえた、座長の阪井教授主導での令和4年度産学官地域課題研究会の振り返りを予定しています。

阪井教授から4回の活動を総括していただきながら、阪井先生の視点での気づきをシェアしていただきます。さらに参加者それぞれが自分の状況でどう舵取りをしていくのか、について気づきが得られるような内容を予定しています。

令和4年度 産学官地域課題研究会 第5回
日付: 2023年3月16日(木)
時間: 13:00-15:00
場所: 大船渡商工会議所
参加費: 無料
主催: 地域活性化総合研究所
後援:大船渡市

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