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ある参列者の手記 / ドレスコーズ 散花奏奏~Funeral Parade of Cherry Blossoms by the dresscodes

もの分かりの悪い参列者

式日散花を編み終えたドレスコーズの、散花奏奏。

参列者として用意された席に、モノトーンの服で座る。ドレスコーズがここで再演しようとしている「お別れ」への、自分なりの表敬、そして喪服のつもりだった。

自分自身の忘れ難い「別れ」には、式日散花を受け取ってある程度決着がついていたので、あくまで、ドレスコーズがそれを乗り越えてみせるショーを観にきたつもりだった。

同時に、初めて志磨遼平さんという人を目撃し、邂逅する公演でもあったので、2階センターの2D-24番席で、早くエンタメを頬張りたい気持ちをなだめていた。

言うなれば、志磨さんの傷がすっかり乾いて標本になった「『お別れ』へのお別れの会」にやってきたはずだった。葬儀は近親者のみで行われ、お世話になった人、社会的なお付き合いのあった人、ステージの虚像しか知らない人、ストレンジャーのための、きれいな笑顔の写真をしつらえた「お別れの会」、などではなかった。

志磨さんは静かに、あくまで簡潔に言葉を放つ。

「今夜は、たくさんのお別れのために歌います」
「ぼくもいつか消える日が来るでしょう。ぼくがいたことを、みなさんが忘れないように、覚えていてくれるように、歌います」

今、なんて言ったのだろう?
せっかくこの声を浴びられる瞬間がやって来たのに?

あまりにも短いステートメントを反芻する暇もなく、次の曲のカウントが始まる。

その人はステージの形をした生前葬を執り行おうとしていた。

01.ラブ、アゲイン

「しあわせになんか ならないで」「だれかのふしあわせに かなしむ きみを あいしていた」の二行が強烈なオープニング。

もっと胸を抉られるのが「英雄のなりそこねが きみで それを信じたばかが ぼく」。
もし別れ際の恋人にそんなふうに言われたら、立ち直れない。諦めた夢にあなたがこびりついて一生忘れられない。

冒頭から、さっそく忘れられない傷をつけられてしまった。司祭さんのような衣裳で、なんてひどい仕打ち。

ブレイクして「幼すぎた ぼくらの ラブ、アゲイン」。ずっと聞いてみたかったきれいな声が、丁寧な音が、肌に染みてくる。涙になって溢れてくる。

02.襲撃

@thedresscodesSTAFF

タイトなドラムが骨まで打ち込まれ、泣き出しそうな歌声が誰にも届かない手紙を書き始める。

先の記事でも引用しておきながら、この日志磨さんの歌声を聞くまで、誰が何に"襲撃"されているのか、理解があやふやなままだった。

受け取る人の数だけ正解があるのを前提として、あの泣き出したいような声、離れたくないとしがみつく、行き場のない、受け取る人のいない迷子の目、彼に挨拶もなく襲いかかり、引き裂く別れ…

そしてそれを目撃してしまった人間を襲う、何ができたというのか? どうすればよかったのか? という悔恨だろうか。

なぜって迷子の彼を抱きしめたとしても、彼が欲しいのはこの腕ではないのだから。そう分かっていても、いざという時、苦しむ人を抱ける人でいられたなら幸いだと思う。私がいつかそうして欲しかったように。

今なお不思議な、鏡のような歌です。

03.Lolita

客電が一気に入り、スタンディングフロアの熱気が弾ける。

襲撃の緊張感から解放されて、あまりにもあたたかくて、私も、隣のお兄さんも、泣いていた。まだ序盤なのに泣いてばっかりで、ブスになるじゃないか。

「すでに きみは正しいのだ」
「すすめ きみは美しい ロリータ」

きっとみんなが、大人の顔を捨てて子どものように抱きしめて欲しい時にこそ、信じられる人にそう言って欲しいんじゃないだろうか。

日常生活で言えることばなんて知れたもので、「間違ってないよ」「大丈夫だよ」なんてほにゃほにゃしてしまいがちだけど、Lolitaはやさしい命令形がいいんだ。やなせたかしさんの、やさしくつよいメルヘンの世界のようだから。

金色の衣裳を着た志磨さんは、長い腕を伸ばして、会場のみなさんを抱きしめているようだった。

04.聖者

2023年の夏、少年セゾンと同じぐらい聴いていた聖者だ! 嬉しくてクラップする手の痛みも遠のいていく。

「ぼくはきみの 駄目な天使」
手のひらを背中からぴこぴことさせて、羽根を見せびらかしている。飛べない羽根という欠点が可愛いのをわかってる、わるい天使だなぁ!

「きみとぼくが 今 光にとけてゆく
  これだけが ほんとにそうさ」
まだ客電が高かったので、歌を聴きながら正面から見つめてみた。目が眩んでとてもいい想い出になりました。そう、とても暑くて、長い長い夏だったなあ。

05.若葉のころ

@thedresscodesSTAFF

その節は大騒ぎさせて頂きありがとうございました。

式日散花の中でも、自分のグリーフケアに決着をつけられた曲であり、改めてイントロを聴いて嬉しく感じることが出来て、また泣いてしまった。

おそらくもうこれで大丈夫なんだと。
旅立ったきみと私は、スノードームの中、あの街のどこか、この歌のなか、新しい時間を生きているんだなと思えて、そのことによって癒されていくのを感じた。

するとなぜか、この歌そのものが自由な響きをしてみせる。違う文脈できいて、うたってもいいよ、と曲自身が言っているような。

お花を手入れして新しい顔や手触りに気づくように、ずっと聴いていたい。とても大切だから。

06.レモンツリー

雨に隠れてキスをする。爽やかな罪の香りがする。できるものならなるべく、人を傷つける恋はしたくない。そうタブーに思えば思うほど、ダメだと思えば思うほど、本気になってしまう。じゃあ何でもいいじゃんと思うようなクズにもなりたくない。やだやだ。誠実がいちばんさ。レモンツリーの花言葉は誠実な愛。

07.罪罪

「傷つけても ゆるされます」
「こんなにけがれて ぼくら ふたりだけで もうどこへ行こうか」
レモンツリーからの流れで、ようやくこの曲の色を理解した。

ラジオでOAされてから、そんなに潔癖にならなくても…そんなにけがれてないと思うけれど…とずっと思っていた。

式日の記事でも自問したように、しぶとく生きていくためには、「罪」と「罪悪"感"」を切り分けて後者を飲み下す必要があるのかもしれない。

"何が罪なのか?
何を償えば許されるのか?
直接尋ねられなければ、誰に問うのか?
なぜ、自分で掛けた鍵を外せないと信じているのか?"

08.Silly Song, Million Lights

@thedresscodesSTAFF

「今ぼくらは 偉大でくだらない 化石になる 化石になる」

志磨さんは「くだらない」という形容を、かなりドライな肯定として用いることが多い。その言葉選びは、私には無理のない重さに感じられて、心地好い。

「そして遠くない未来 きっとぼくはいない きみは思い出すかな ぼくとのことを」

私は忘れっぽいので、こうして今日も書いている。くだらない言葉で、素敵な記憶を刻み付けている。

09.ハーベスト

そら寂しさに呑まれそうになったところで、またあたたかい照明が降り注いでくる。天使さんの手のひらでころころされるのが楽しくなってきた。

「傷つかず生きれたからきっと ぼくらはわがままな天使だ」

私もひとりっ子なので、このフレーズがとてもお気に入り。うまく反抗できなくていまだにどこか拗ねてるけれど、本当はずっと愛されていたんだと分かっていたい。

「ハーベスト なにもないけれど 世界一幸せになろう 例えばそれは…」

同じ深さでそんなふうに想い合える瞬間があることは、本当にしあわせ。それが永遠ではなくても、永遠でないからこそ、今日のテーブルに花を飾ろう、そして愛していると…言える人はなるべく言ってください。

10.やりすぎた天使

「あの夏といえば やけに暑すぎたな」
この日は10月31日、季節外れの酷暑が続いていた。明るい調べの中で、夏が本当に終わってしまう気がして、こんなに寂しく聞こえるのかと胸がざわざわした。遊び尽くしてくたくたの夏休み、夕暮れが訪れて帰らなきゃいけなくなる、そんな寂しさがした。

「やりすぎたぼくの天使 ほんとにだめなぼくの天使」
「だめ」も、「くだらない」と同じぐらい、不思議なやさしさの言葉だなあ。もしも、言葉で雁字搦めになって苦しんでいる柔らかい魂のひとがいたら、どうか志磨さんのことばに出会えますようにと願いたくなった。

11.少年セゾン

@thedresscodesSTAFF

想い出の一曲! 七夕配信やなながつ事件、数多のラジオが走馬灯のように。今年のナンバーワンサマーチューンの名をほしいままにしたセゾンくん。

いぇいいぇい。みんなピースしてる。なんて素敵な景色なんだろう。志磨さんが可愛らしく囁いてる。終わらなければいいのに。こんなにきれいで、あたたかくて、楽しい時間が奪われなければいいのに。

駆け上がるベースを聴きながら、すっかり暗い気持ちになっていく。キューブラーロスの死の受容。怒らないから、取引してくれませんか、そこの天使さん。

12.コミック・ジェネレイション

忘れもしない、この夏Love musicで観た、ドレスコーズ+西くんさんのコミック・ジェネレイション。予習しててよかったです。

「神様 なんかありがとー」
Love musicではカメラ目線ではにかむ志磨さんがはちゃめちゃにきゅーとでしたが、zeppでは天使さんが上司にお礼を言ってるように見えて楽しかった。

けれど夏の総括が終わってしまうのが怖くて、どんどん辛くなっていく…。

13.ビューティフル

ビューティフルに、生きて死ね!
ここはロックの教会のようで、司祭様の衣裳を盗んだ天使が、ちょっとかわいく思った人間にロックの神様の言葉について説教をしている。

もういつ式日で〆られるか不安で、素直に楽しめなかったのが心残り。なんか、普段の行いそのものだなぁと家に帰って考えた。

14.式日

@thedresscodesSTAFF

「ふいに 目が合った…」
一行目が聞こえた瞬間にほっとして、なんでほっとしたりなんかするんだ?と頭がごちゃごちゃ。

「わからせずに つたえもせずに きみを かなしませずに」
これが優しさだと思う。なのに、ひとりで早とちりして哀しくなっていては、世話もないなあ。でも、どちらが幸せなのだろうか? ずっと続くと思いながら、ある日突然去っていかれるのと、ありがとうさようならを言い合える時間があるのと。

それもきっと、しあわせの形を確かめておくのと同じで、愛する人とは話し合うべきなんだ。縁起でもないなんて言わないで。

自分が人を好きになる時に、老いたその人の下の世話ができるかを基準にしてきたのを思い出した。それと何も違いはしない。とにかく死に対して過敏な脳みそ。

15.最低なともだち

「春の日 ふたりでまだいれたら」
季節が巡った。春になった。

実は、式日でこの公演を締めくくることは間違いないだろうけれど、最低なともだちの春へと帰ってきてくれたら、生まれ変わってくれたら、少し救われるのにと考えていた。

死の予感に釘付けになっていた脳みそが、輪廻を感じてとても安らいで、また泣いてしまった。桜へ打ちつける雨はこんなにも冷たいのに、なぜかほっとしてしまった。

「ずっと このままにしてて」
桜はまた咲く。桜はまた散る。葉は死んで落ちる。枝は人知れず蕾をつける。姿を変えても、営みの輪廻だけはこのまま変わらない。

16.愛に気をつけてね

@thedresscodesSTAFF

セレモニーが終われば、お馴染みのナンバーだ。こうしてぼくらは日常へ帰っていく。来る日も来る日も喪に服すのではなく、式日を切り取り線として、服を着替え、ご飯を食べ、働きに行く。

初めて観に行ったはずなのに、ライブ映像で馴染みがあったせいか、心底ほっとした。永遠に10月31日に囚われてしまうところだった。それはそれでしあわせかもしれませんが…。

愛したから、引き裂かれる度に痛く哀しくなる。
愛さなければ、ずっとずっとうすら寂しい。
でも愛そうか、どうしようか?なんて問は本来無力だ。
わたしたちはそんなに立派じゃないから。

畏れ多くも志磨さんへ中指を立てることができなかったので、次回リベンジします。

ずっと、このままにしてて

「式日」から「最低なともだち」へと、巡る季節の予感のおかげで、しずかであたたかい気持ちで会場をあとにしました。興奮ともショックとも違う感覚。

志磨さんの素顔なんて何も知らないのに、大切な式に参列させてもらえたような気がしました。

なんとなく、帰り道でこんなフレーズを思い出していました。

百万人に愛されて、映画の中でも何度も死んだ。そう、何度も死んだ。
おまけに映画の外までも酔っぱらって、自動車事故で死にました。
死に方はぜんぶまちまちで、それぞれべつの名前がついていた​──
すてきね、何度も死ねる人は、何度も生きられるんですものね。

毛皮のマリー(戯曲デジタルアーカイブ https://playtextdigitalarchive.com/drama/detail/516 より)

戯曲「毛皮のマリー」で下男がある女優の美貌を妬んで発する科白ですが、なぜ彼女は「何度も死ぬ」のでしょうか。

彼女の才能を求める人がいるから。彼らの渇望は、彼女の唯一の死によってすべてが満たされることは無いから、スクリーンで何度も死んでは生きる。

生き物であるライブや舞台も、唯一の公演ですべての渇望を満たすことはできないから、演目を変え場所を変え、何度も何度も上演される。

演者が先に倒れるかもしれないし、昨日が最後の体験になった観客もいるかもしれない、つまり場にまつわる何もかもが最後=襲い掛かる別れ、「死」かもしれない。

2023年10月31日という日はもう死んで、花散るセレモニーも終わってしまった。
けれど、きっと私たちが求め合う限り、また違う日を生きることができる。
死角から襲い掛かろうとする別れの気配を、注意深く見きわめて、また覚悟することで。

そんなことをもの分かりよく書きつけて、散花奏奏に参列した私の本音は、「ずっとドレスコーズ(さん)をこのままにしてて」、この一言に尽きます。

どうか、何度でもさようならをして、何度でもまた会えてうれしいですと、そんな日を重ねて行けますようにと、心から祈ります。

もの分かりの悪いあやめ

サンタさんいたもん!

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