グレッチ駅とローヌ氷河

ものは考えようーローヌ氷河に京浜急行!?

色気たっぷりのローヌ氷河に誘惑されてしまった!

遠くから白く見えるが、氷河が溶けて流れる水は灰色がかった緑と青の中間色で、トルコ石の色に近いのでターコイズブルーと呼ばれるそうだ。このローヌ氷河を水源とするのがローヌ川で、レマン湖を経てリヨンを通り遠く地中海まで約800kmの旅を続ける。そんな感慨に浸りながら氷河を眺めたのが、初めて海外を訪れた1980年のことだった。

もっとも氷河を見るためにスイスに行った訳ではない。「氷河急行」の写真を撮るためだ。今でこそスイス観光のシンボルとなったこの列車名はローヌ氷河に由来する。氷河急行はマッターホルンで有名なツェルマット駅と、ウィンタースポーツのメッカであるサンモリッツ駅を結ぶ列車だ。その真ん中にローヌ氷河が位置する。当時の鉄道会社でいうと、ブリーク-フィスプ-ツェルマット鉄道(BVZ)とフルカ・オーバーアルプ鉄道(FO)とレーティッシュ鉄道(RhB)の3つの鉄道会社にまたがって運行されていた。

スイス鉄道が趣味というと、氷河急行からの眺めは?乗り心地は?斜めグラスはこぼれないか?とよく聞かれる。しかし、自慢ではないが氷河急行にはまだ乗ったことがない。もっぱら氷河急行が走っている姿を撮るだけだ。「乗るか」「撮るか」苦渋の選択だが、短い海外旅行では撮るになってしまうのが、撮り鉄ちゃんの宿命といえる。

氷河急行を撮るなら氷河近くがふさわしいと降り立ったのが、FOにあったグレッチ駅だ。駅からの眺めは言葉にならぬほど美しかった。真っ青な空のもと、遠く万年雪を頂くアルプスの山々。中腹から巨大なローヌ氷河が顔をのぞかせ、そこを源として流れ出るターコイズブルーのローヌ川。そして赤と白の可愛い列車たち。トリコロールとターコイズブルーのシンプルな色のハーモニーに魅了されてしまったのだ。

スイスの列車には赤と白がよく使われる。国旗が赤と白だからかもしれない。横浜の自宅に帰り、氷河急行の写真を母に見せたところ、「あなた、赤と白の電車なら京浜急行を撮ればいいじゃない!」ときた。鉄道を道具と思っている人にはそんな印象かもしれない。これが巨大なローヌ氷河だよと自慢しても、その迫力は写真だけでは味わえないものだ。

この写真はNゲージの鉄道模型だ。橋の上には京浜急行の快速特急が走り、その下をスイスの氷河急行が走る。もちろん現実にはない光景だけど、確かに両方とも赤と白の塗装である。母の意見もまんざらではない!

グレッチ駅から氷河を求めてローヌ川をのぼった。いつまで行ってもターコイズブルーの美しさは変わらない。氷河の水に浸りながら、スーパーで買ったハムとチーズとパンでシンケンサンド(ドイツ風ハムサンド)を作って食べる。スイス旅行、最高の瞬間だった。

ところで、コート・デュ・ローヌをご存じだろうか。ローヌ氷河から数百㎞下流のローヌ川沿いで作られる美味しくてお手軽なワインのことだ。レストランに行くと赤か白かと聞かれる。もちろん列車の色でなくワインのことだけど、私はいつも白で乾杯する。あの白い氷河が流れて生まれたワインを飲むたびに、今は亡き無邪気な母のことを思い出すからだ。

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小川克彦

大学を卒業しNTT研究所に29年、慶應義塾大学に12年つとめて、来年3月に定年。最終講義をやってよ、といろんな人から言われるけど、何を話そうか。今さら仕事の話はやめよう。私の好奇心をかきたてた趣味の実践話はどうか。「ものは考えよう」というタイトルで最終講義ノートを作ろう!
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