ものは考えよう-大学でATGを学んではどうか

ATGって何だ?アマゾンとツイッターとグーグルのことだと思うかもしれない。でも、実は「明るく楽しく元気よく」のことである。私のモットーだ。

企業の研究所から大学に転職したのが12年前。研究はまあプロなんだけど、教育になるとからっきしダメで、そこで考えたのがこのATGだった。大学のときの家庭教師で、与えられた問題を解きながらつまらなそうにしている生徒を前に、自分自身もつまらなくて辞めてしまったというトラウマがあるからだろう。

学生は何を欲しているか。もともとヒューマンセンタードデザインの研究をやっているので、学生の声に耳を傾けると・・・そう、多くの学生は勉強よりも就職を優先している。電通のインターンシップ説明会に出席したいので、学期末試験の再試をやってほしいという学生がいた。「インターンシップって、そんなに大事なの?」と人事部に電話したら、「1/3の採用はそこで決まるかも」とのこと。結局、その学生は定期試験を受けなかった。ブラック企業と騒がれるずっと前のことなので、今はそんなことしていないと思うけど。

もっとも、今の学生に文句を言えた義理ではない。自分が大学にいたときは、ひたすら夏休みは九州、冬と春の休みは北海道で蒸気機関車を撮ることばかり考えていた。そのため勉強は二の次になるのはあたり前であるが、就職のことも頭になかった。

でも、そのおかげで大学時代に貴重な経験ができた。大学3年のとき、写真仲間と6人で写真展「Steam」を銀座ニコンサロンで開催したのだ。44年前の夏休み、気分だけでも涼しくなってもらおうと、寒さで凍えそうな銀世界を走る蒸気機関車の写真展である。

銀座ニコンサロンといえば、当時写真を志す人にとっては憧れの発表の場だった。審査委員のなかには反対の意見もあったようだが、子供たちに来てもらう夏休みイベントにもなるということで、運よくパスしてしまった。

お金がない学生なので作品制作は自前である。ひとりのメンバーの実家がある御殿場で合宿し、夜になるまで待ってから、引き伸ばし機から拡大して投影した像を壁に照射し、そこに貼り付けた大きな印画紙に焼き付ける。それをお風呂に持って行き酸性の定着液につけてから大量の水で洗い流す。大変な作業だし、暇がないとできない。まさに学生ならではだ。

冬の北海道で凍えながら写真を撮り、展示写真の選定を毎週のように皆で考え、苦労して作品を印画紙に焼き付け、憧れの場で発表したこと。これはかけがえのない学生時代の経験になった。実は、その経験が社会に出てからの自信につながった。

どんなことでも仲間と一緒に挑戦すれば成し遂げられる。

ということだ。そう考えると、何でもポジティブに楽観的にとらえることができるようになる。いわゆる自己肯定感だ。ときに落ち込むこともあるが、仕事でも生活でも多くの時間をATG(明るく楽しく元気よく)で過ごすことができるのだ。そしてATGで物事を考えることで、仕事や生活で困難なことがあっても、仲間と一緒に乗り越えることができる、と思えるようになる。

そんな単純な私が教員になって考えたのが、学生たちに大学でATGを学んでもらうことだ。勉強に限らず、仲間と一緒に何かに挑戦して欲しいと思っている。卒論でも同じ。誰かに与えられた課題で研究するのでなく、質も大事だけど、要は自分で考えたことをやり遂げること。そのサポートをするのが教員である私の役目だ。

スポーツには昔からいろんな大会があるが、現代はビジネスコンテストやハッカソンといったアイデアを競うイベントもある。2016年のグッドデザイン賞ベスト100に選ばれた「お弁当のデリ・サプリ」も学生たちのアイデアだ。学術的には学会や国際会議の発表があり、ベストペーパー賞やプレゼンテーション賞など、学生たちはいろんな賞を受賞している。もちろん、受賞しなくても、イベントに参加して発表するだけでも大きな自信になる。その自信は社会にでてから必ずATGにつながると思う。

何事か成し遂げるのは、才能ではなく性格である。

司馬遼太郎の言葉だけど、この性格はきっとATGだと思う。ちなみに、2018年9月13日から18日に、池袋で写真展「Steam Returns」を開催する。44年前と同じ6人展だ。44年も無事に過ごせたATGの証だと思う。

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小川克彦

大学を卒業しNTT研究所に29年、慶應義塾大学に12年つとめて、来年3月に定年。最終講義をやってよ、といろんな人から言われるけど、何を話そうか。今さら仕事の話はやめよう。私の好奇心をかきたてた趣味の実践話はどうか。「ものは考えよう」というタイトルで最終講義ノートを作ろう!
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