【書籍・資料・文献】『「ふるさと」の発想』(岩波新書)西川一誠

ふるさと納税が地方にもたらしたモノとは?

 ふるさと納税は、2008年度に創設された。制度開始から10年。もはや定着した制度と言えるだろう。制度が導入された背景には、地方から都市への人口流出が止まらない事情があった。人口流出は過疎化を招き、地方の疲弊感を強めた。人口減少が都市を疲弊させることは言うまでもないが、なによりも若者の流出が大きい。

 18歳を機に、進学・就職で若者は地方から出ていく。就職だけだったら、まだ地元から通う、広大な土地を企業に提供して工場などを誘致するという選択肢がある。しかし、進学を食い止めることは難しい。大学生が通学用の自動車を購入することは経済的に難しいし、購入できても維持することができない。

 また、地方の大学で勉学に励むよりも東京・大阪といった大都市で学ぶほうが刺激も多く、得るものもある。希望に満ちた都会生活を送っているうちに、やがて就職となるわけだが、その就職時にわざわざ地元に戻る若者は少ない。

 そんな事情から、地方でも大学設立が盛んになったこともあった。とはいえ、やはり東京圏・大阪圏の大学に人気が集中する。そこで、地方都市が採った戦略が、私立大学の公立化だった。公設民営方式で運営される大学は、学費が安くて済むという経済的メリットがある。今般、大学進学時に奨学金を借り、それが負担になって満足な社会人生活を送れない若者も少なくない。

 また、社会人生活を送っていても奨学金の返済が負担になり、結婚できないという事態も招いている。奨学金だけが原因ではないだろうが、その返済によって晩婚化が進むことは社会全体の損失にもなるだろう。

 地方私立大学の公立化は、若者を地方にとどまらせるという一定の役割を担う。それだけに、地方自治体が私立大学に税を投入してまで公立化することは地元の経済面にもプラスに作用するから、批判的な意見は出にくかった。こうした地方私立大学の公立化は地方活性化の一策ではあるものの、そもそも大学を設立できるほどの資力がない地方自治体だってある。

 18歳まで地元で育った若者を都会に奪われる。それだけの存在になり下がった自治体は座して死を待つしかないのか? 育ててもらった地元に、若者が恩返しできるような制度は創設できないか? そんな背景から生み出されたのが、ふるさと納税だった。

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