絶対王者・京都が取り組む交流人口増という長期的な観光戦略

一縷の望みは外国人観光客

 ビジネスジャーナルに寄稿した“京都、あえてインバウンドを狙わない巧妙な観光戦略…移住者獲得を狙う長期的視野”では、外国人観光客に溢れる京都が取り組む観光戦略の新潮流を取り上げた。

 今般、日本の観光業界はどこもかしこも外国人観光客の誘致に腐心している。特に、ターゲットにしているのは中国人観光客だ。その理由はいたって明快で、東アジア・東南アジア系外国人観光客の中で、中国人がもっとも高所得だからだ。端的に言ってしまえば、中国人観光客がもっとも金を落としてくれるから、ということになる。

 それはあくまでも東アジア・東南アジアに限定した場合に過ぎない。多くの観光関係者たちから話を聞けば、やはり客単価は日本人観光客の方が高いという。

 しかし、日本人観光客は一人当たりの単価が高いものの、絶対数が少ない。対して、中国人観光客は絶対数が多い。稼働率を上げることを考えれば、どうしても中国人観光客にターゲットを定めざるを得ない。そんな苦しい事情がある。

観光業界共通の悩み 繁忙期と閑散期の落差 

 観光業界は、繁忙期閑散期の差が激しい。東京や大阪といった大都市はそれほどでもないが、地方に行くとその差は歴然としている。平日、がらんとした観光地やホテル、土産物屋は日常風景にさえなっている。

 中国人観光客を取り込もうとするのは、日本と暦が異なり休みが重なっていないという事情がある。日本なら夏休みみ・年末年始が観光需要が増大する期間だが、中国は春節の2月初旬前後がピークになる。スキー場を擁するリゾート地ならともかく、2月は閑散期になっている観光地は少なくない。

 しかし、中国人観光客を呼ぶことができれば、少しでも閑散期間を減らすことができる。観光需要の均一化は、正規雇用の創出にもつながる。これまでの観光業界は需要の高い夏休み・年末年始に臨時アルバイトを雇うなどして凌いできた。

 外国人観光客を呼び込めば、需要を均すことになり、それは非正規雇用を正規雇用に切り替えることになる。つまり、雇用の安定化が図られる。雇用の安定化は、スタッフをつなぎ留める作用をもたらし、それは観光業界のスキル維持にもつながる。観光業界にとって、需要の均一化は大きなメリットがあるのだ。

 また、最近ではタイからの観光客を誘致する動きもある。それは、タイの旧正月・ソンクラーンが日本とも中国とも重なっていない。そのため、タイのソンクラーンにおける需要を取り込めれば、さらに観光需要を均すことができる。

 観光業界が外国人観光客の誘致に力を入れるのは、単に日本人観光客が金を使わなくなったという理由だけではなく、観光需要の均一化による正規雇用の促進といった面もあるのだ。

外国人観光客が押し掛ける京都にもあるウィークポイント 

 そうした外国人観光客卯取り込みに躍起になる地方自治体が多い中、京都府はそうした観光戦略に与しない。古の都・京都は、外国人観光客の誘致に力を入れなくても自然に外国人観光客が溢れてしまうからだ。とはいえ、それは京都市内の話。もしくは、もう少し範囲を広くとり、宇治あたりも外国人観光客が自然に集まる観光地といえる。

 一方、日本海を擁する丹後地方はどうか? 京都の丹後地方と言えば、軍港舞鶴日本三景天橋立を擁する宮津などが観光名所として人気が高い。しかし、京都に点在する神社仏閣と比較すると訴求力は弱い。しかも、丹後地方は京都市内から遠く、丹後に足を伸ばすなら奈良や大阪に行く方が短時間で移動できてしまう。そうした事情もあって、京都の丹後地方は観光客をうまく取り込めないでいた。

 近年、京都府は丹後への観光客誘致を積極的に推進している。丹後地方は日本海側と接するため、京都らしからぬ海の幸が豊富に獲れる。関西で日本海で獲れる海の幸といえば、蟹がすぐに思い浮かぶだろう。丹後地方では、冬の味覚として間人蟹(タンザガニ)が通の間では知られている。

 間人蟹はメジャーな存在になっていないが、地元の市町村などで構成するDMOは間人蟹をここでしか味わえないと猛プッシュしている。

 京都府やDMOが狙うのは外国人観光客ではなく、あくまでも日本人観光客だ。丹後地方は京都市一帯に比べると宿泊インフラが脆弱なため、中国人観光客が団体で押し寄せても受け入れることができない。そうした事情もあるが、なによりも京都の場合は観光を交流人口増の一手法として見ていることが大きい。

長期的な視野で取り組む、交流人口増という京都の観光戦略 

 いまや、日本全体で人口減少のひずみが現出している。外国人観光客を呼び込み、そこで利益をあげることも一策ではある。しかし、それはあくまでもその場凌ぎにしかならない。

 幸運にも、京都は何もしなくても外国人観光客が次から次へとやって来る。だから、その場凌ぎの外国人観光客で稼ごうという考え方は薄い。

 外国人観光客で稼げるうちに、日本人観光客を増やす手段を模索し、そして日本人観光客に気に入られる地域づくりに取り組む。そうしたことで交流人口を増やそうという長期的視野で観光地づくりに取り組んでいる。

 いきなり移住者を増やすことは難しい。ならば、観光を通じて気に入ってもらおう、第2の故郷にしてもらおう。もしかしたら、ふるさと納税で応援してもらえるかもしれない。もう一回、旅行に来てくれるかもしれない。

 さらに惚れ込んでもらえたら、移住してもらおう。京都の観光戦略からは交流人口増を目指すという長期的な戦略が感じた。そうした腰を据えた取り組みができるのも、観光都市の絶対王者・京都ゆえなのかもしれない。




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