【書籍・資料・文献】『群青にサイレン』(マーガレットコミックス)桃栗みかん

野球はマンガの素材になりやすい国民的スポーツ

 国民的スポーツの代名詞ともいえる野球。その花形は、なんと言ってもピッチャーだろう。夏の甲子園でも、マスコミが注目するのは投手であり、2018年の夏の甲子園大会で金足農業の投手が注目されたことは記憶に新しい。

 野球の花形は、投手。それを否定するつもりはないし、ピッチャー次第で試合の行方は大きく変わる。

キャッチャーの視点から描かれる貴重な野球マンガ

 もうひとつ、唯一無二のポジションがある。それがキャッチャーだ。今年の日本シリーズでは、福岡ソフトバンクホークスの甲斐拓也捕手の送球に注目が集まった。

 捕手の見せ場は、送球だけではない。配球もクロスプレーも、そしてバッテリー間の信頼関係も捕手の資質によるところが大きい。

 これまでの野球マンガでは、とりわけピッチャーに光が当たってきた。ピッチャーは確かに特別な存在ではあるけれども、替えのきくポジションでもある。

 守備の巧拙といった問題もあるが、なによりバッテリーの信頼関係が多くを左右するのだから、捕手はそう簡単には替えがきかない。その捕手に焦点をあてた野球マンガは珍しい。

 キャッチャーは、ほかの8人とは異なり攻め側である打者との距離が近い。そのうえ、守備につく8人とは逆の方向を向く。キャッチャーが唯一無二の存在であると言われるゆえんは、ココにある。

野球は9人で戦うスポーツではない? 

 野球は9人で戦うスポーツだから、控えの選手や監督・コーチ、さらにカネージャーなどを含めれば、その人数はさらに増える。戦っているという意味では、応援団吹奏楽部チアダンス部、そして保護者会OB会も含まれるかもしれない。

 近年、野球をはじめスポーツを取り巻く環境は大きく変化した。以前なら、監督や指導者の指示は絶対。先輩の言いつけは守る。上意下達がスポーツ界の掟でもあった。

 また、根性や努力といった精神面に立脚した言説も多く存在した。こうした精神論の多くは合理性を欠くものばかりだが、それが幅をきかせてきた。そうした時代も終わりつつある。

 一方、スポーツマンガにも変化が見られる。野球マンガではスポ根を謳う内容は鳴りをひそめ、勝利至上主義も薄らぐ。必殺技めいた魔球や打法も消えつつある。


サポートしていただいた浄財は、記事の充実のために活用させていただきます。よろしくお願いいたします