【書籍・資料・文献】『キャッチフレーズの戦後史』(岩波新書)深川英雄

 ネットニュース全盛期である。日々、スマホでネットニュースを読み、SNSに感想を述べる。これをライフスタイルと表現していいのかわからないが、そうした日常が定着しつつある。

 新聞は購読していない。雑誌も買わない。テレビを見る時間もない。そんな社会人さえいる。学生なら、友達との会話に共通テーマが必要になるが、仲間内で完結する話題でも問題ないので、ニュースに過敏になる必要はないかもしれない。

 しかし、社会人は違う。上司や部下や取引先に会う機会はあり、そのとき時事的な話題は常に口上にあがる。社会情勢を知っておかなければ、会話についていけなくなる。さすがにマズいと感じる人も多いだろう。例えば、安倍政権が終わる。そんなことを知らずに、大きな取り引きは難しい。社内で新たなプロジェクトを立ち上げることも、任せてもらうこともできなくなるだろう。

 現代社会において、情報は大事だ。しかし、情報源は新聞でもなく、テレビでもなく、ネットが強くなりつつある。一言で表現してしまえば、それは若者の活字離れ、となる。

 しかし、そう簡単に済ませられる問題でもない。なぜ、若者は活字から離れたのか? 実のところ、可処分所得の低下が新聞・雑誌を購入できなくしているのではないか?という疑問さえ沸く。

 とにかく、金を払ってでも新聞・雑誌を購入しようとする動機が生まれていないことは確かだろう。そのため、無料で、お手軽なネットニュースに行き着く。

炎上マーケティングは狙えません

 ネットニュースでPVを稼ごうとする手法のひとつに“炎上マーケティング”と呼ばれる手法がある。いや、「あった」と書く方が正確かもしれない。

 というのも、ネットニュースが隆盛を誇る昨今において、ネットニュースの賞味期限はどんどん短くなっている。ネットニュースの賞味期限は体感では、もって3日。通常なら半日で忘れられていく。

 テレビ、特にワイドショーで取り上げられるような話題を追随したような記事なら、たまに1週間ぐらい持つこともあるかもしれない。それも2の矢、3の矢を放ち続けなければ話題を維持できない。

 つまり初報・続報そして詳報といった具合に情報をそのつどアップデートしていく必要がある。書く側の立場としては、そんな半日で話題にすらしてもらえなくなる記事を書き続けるモチベーションを維持するのは難しい。

 新しい記事を生み出す労力に比べれば、続報・詳報にかかる労力は少ない。しかし、大局的な記事、例えば10年20年にわたる社会問題などを追求・提起してきた記事の場合、そんな簡単に続報・詳報が出てくることはない。

 要するに、ひとつのニュースをいかに読ませるか?というのがニュースのキモになってくる。これは、もちろんPV数だけで勝負しているネットニュースの話だが、新聞・雑誌など売り上げで成り立っている媒体にも似たような構造を抱える。

 特に、出版業界の腰を据えて長く売ることが難しくなっている現状を鑑みれば、その場しのぎの「今、売れる」本が求められるようになり、そして、それは「今、とにかく売る」体制を築くことになっていく。じっくり売るは、もはや神話の世界になりつつある。

 それが、結果として多くの耳目を引くようなキャッチーなタイトルがつく素地になっているのだが、これが記事を作成している現場のライターが思っている以上に効果が大きいと実感せられることも多い。

一時期、「炎上マーケティング」でPVを稼ぐなどとも揶揄されたネットニュースも、実のところ炎上マーケティングを狙っているわけではない。

 もちろん、炎上マーケティングを狙って書いているライターは存在するかもしれないが、狙って炎上マーケティングが成功するほど、ネットニュースの世界は甘くない。近年は多くの媒体がネットニュース市場に参入している。

 本来なら、新聞・雑誌といった紙媒体の一記事をネットで読ませ、続きを読みたければ購入という、いわばネットニュースは紙媒体の試読的な位置付けにあった。

 ネットニュース市場が成熟してくると、それも昔になる。いまや、ネットニュースだけを提供している媒体も多いが、それらの媒体が頼りにしているのが「ヤフー」「ライブドア」「ライン」「エキサイト」「インフォシーク」「ニフティ」といったポータルサイトへの転載だ。

 特に、日本国内では一強といわれるほど巨大な影響力を発揮するヤフーニュースに転載されれば、PVは予想以上に跳ね上がる。ここ数年は影響力が低下しているとはいえ、ヤフーニュースの影響力はいまだ絶大であることは疑いようがない。

 「ヤフーニュースに載らないニュースはニュースじゃない」「ヤフーニュースに乗らなければ、記事にする価値がない」とまで言われる。

 炎上マーケティングは主にツイッターによって火を点けることが狙いにあるといえるが、ツイッター民も多くはヤフーニュースから興味のある記事を取捨選択している。だから、炎上を意図的に狙った記事を書いても、ヤフーニュースの目立つところに表示されなければ炎上は起こらない。

 炎上が起こらなければPVは増えず、そしてPVが増えなければ単なる「変な記事」「奇をてらった記事」で終わってしまう。ネットニュースはアクセスさえすれば誰もが簡単に見ることができる。

 そのため、「広く見られている」「広く読まれる」と受け取られがちだが、競合が増えすぎたネットニュース界隈において、「広く見られている」という概念は、もはや非現実的になった。

 話題のトピックスを扱っても、競合他社も同様のテーマで記事を出してくるから、多くのニュースに埋没するだけである。「広く」見られることも、読まれることもない。

 「広く」見られる・読まれるには、先に挙げたようなニュースのポータルサイト、特にヤフーニュースに並べられるか否かにかかっている。それは、媒体にはどうしようもない。まして、記事を書いているライターがどうこうできる問題でもない。

ネットニュースはタイトルが9割!

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