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新幹線がほしい!

 先週末から今週にかけて、NEWSポストセブンに新幹線の関連記事を3本書いた。

6月16日 配信分

”時速360キロ超の新型新幹線N700S 海外進出の可能性は”

6月22日 配信分

”「新幹線のお医者さん」ドクターイエロー引退説を追う”

6月23日 配信分

”JR東日本の次世代新幹線 ALFA-Xは飛行機に対抗できるか”(取材・文)

福井の牙城 米原駅 

 6月6日、JR東海は次世代新幹線N700Sの速度向上試験を報道公開した。その報道公開の取材に行ったのを機に、一連の新幹線3部作を書いたわけだが、実のところ鉄道関連の取材をしていても、新幹線に乗る機会はそんなに多くない。

 JR東海の試運転は旅客営業列車の終了後、つまり深夜に実施されている。今回の速度向上試験も、米原駅に22時40分集合というスケジュールだった。米原駅に新幹線が入線したのは23時を回っていた。米原駅発は23時41分。京都駅着は23時59分。京都駅に到着後は、担当者のカコミ取材があり、すべてが終了して報道陣が撤収したのは24時半前後だった。

 試運転報道公開の開始時間・終了時刻が、遅くなってしまうのは仕方がない。そして米原駅集合というのもやむを得ない事情がある。今回の試運転は、なによりもN700Sの時速360キロメートルへの速度向上という目的が第一義にある。時速360キロメートルを出したのは、わずか1分。距離にして、4キロメートルしかない。

 時速360キロメートルを超えるという当初の目的はきちんと達せられた。だからと言って、東海道新幹線の全区間で時速360キロメートルで運転ができるわけではない。JR東海が速度向上試験を報道公開するからには、確実に時速360キロメートルに達しなかればならない。失敗は許されない。そのためにも万全な態勢で臨んだことは想像に難くなく、そうした事情からもスピードを出しやすい米原駅―京都駅間を選んだ。そんなことが窺える。そうしたJR東海の思惑は別にして、米原駅というのは何とも微妙な駅だったりする。

 2015年、北陸新幹線金沢駅まで開業を果たした。それまで東京から北陸への動線は、上越新幹線越後湯沢駅まで行き特急に乗り換える、もしくは飛行機というのが大半だった。しかし、北陸新幹線が金沢駅まで開業したことにより、新幹線がシェアを大きく奪った。

 富山県や石川県までのアクセスは、新幹線が圧勝。一方、北陸3県のなかで、唯一、福井県は新幹線が未開業のままだ。今後、新幹線は金沢駅から西へと線路を延ばしていくが、福井県の敦賀駅まで一気に開業することが決まっている。その予定年は、2023年。金沢駅への延伸開業から8年ものタイムタグがある。

 福井の政財界からは、県都の玄関である福井駅は素通りして敦賀駅まで一気に開業させるのではなく、期間を前倒ししつつ、とりあえず福井駅までの暫定開業を要望する声が根強い。そうした福井政財界の気持ちは理解できなくもない。

 福井政財界の思惑はひとまずおくとして、現状では北陸3県で福井県だけ新幹線が走っていない。福井県職員が中央官庁などに陳情・交渉に赴く際は北陸本線で米原駅まで出て、そこから東海道新幹線を使うのが一般的。空の便を使う場合は、隣県の石川県にある小松空港を利用する。

 いずれにしても、福井から東京まで出るのは一苦労だ。そのため、福井県は東京事務所だけではなく、アンテナショップも銀座と青山、2店舗展開をしている。そして、青山のアンテナショップの2階は、東京事務所の補完するような事務所が設置されている。東京の拠点を多く持ち、たくさんの県職員を東京に常駐させる。そこからも福井県の東京への攻勢を感じられるが、一方で福井から東京までの出にくさを感じてしまう。

 福井県の政財界関係者から話を聞くと、異口同音にそうしたアクセスが不便な点に不満を抱いており、ゆえに福井駅までの新幹線延伸が強く望まれているわけだが、そこからも米原駅の拠点性をもっと向上できないか?という印象もを強くする。

 福井県政財界が東京へと足を運ぶ際、北陸本線の特急列車で米原駅まで行き、そこから東海道新幹線に乗り換える。しかし、米原駅は新幹線の最速列車「のぞみ」が停車しない。そのため、福井政財界関係者は「ひかり」に乗車する。急いでいれば、名古屋駅から「のぞみ」に乗り換えることになるだろうが、乗り換えの手間がかかり面倒であることは言うまでもない。

 行くことも面倒だが、帰りにも同じ面倒がかかる。疲れているから、新幹線で寝たいという思いもあるだろうが、少しでも早く帰るなら「のぞみ」に乗車し、名古屋で乗り換えなければならないから居眠りもおちおちできない。

 乗り換えの手間もさることながら、乗換駅となる米原駅がまったく不便だという点も福井県の政財界関係者の間には強くある。

米原駅 3時間の攻防

 北陸本線と東海道本線が交差する米原駅は、文字通り交通の要衝地である。だから、1964年に東海道新幹線開業と同時に駅が設置された。新幹線駅としては長い歴史を持つものの、駅前開発は進まなかった。駅前に広大な機関区があったことも一因だろうが、それにしても駅前は閑散とし過ぎている。とても新幹線の停車駅とは思えない。

 米原駅には東海道新幹線と在来線の東海道本線、北陸本線が停車するほか、近江鉄道も発着する。鉄道路線は充実しているものの、東口も西口も閑散としている。立派な駅前広場とロータリーが整備されているものの、日が暮れてしまえば周囲は暗くなり、物寂しい雰囲気が漂う。

 米原駅は鉄道の要衝地ではあるものの、地元利用者を除けば乗り換え需要がほとんどなのだろう。西口の駅前にビジネスホテルが1軒、そして少し歩いた場所にもう一軒あった。その離れたホテルの1階は、居酒屋になっていた。

 速度向上試験で22時半過ぎに米原駅集合というスケジュールだったのだが、せっかく滋賀県まで行くなら速度向上試験だけを取材するのは、もったいない。貧乏性な気質から、私は昼に東京を出て、名古屋駅大垣駅に寄り道した。名古屋駅は駅前にちょこっと滞在したぐらいだが、大垣では東海道本線美濃赤坂支線に乗って、終着の美濃赤坂駅周辺を歩いたり、大垣駅の北口・南口を歩き回り、写真を撮って回った。

 日が暮れてから米原駅を目指したが、報道受付開始時間まで約3時間もあった。。時間を持て余してしまった私は、駅前をぶらぶらしようと考えた。以前にも米原駅前を徘徊したことがある。その時は、何もなく愕然としたが、それから10年近く経っている。

さすがにファミレスやカフェぐらいあるだろうと思いきや、まったく見当たらない。見つけられたのはビジネスホテルの一階にあった居酒屋ぐらい。まさか、これから取材だというのに、酒をを飲むわけにもいかない。そんなわけで、スマホの地図を頼りにコンビニまで歩き、夕食を買い込み、何もない駅前広場のベンチに座って時間を潰すしかなかった。

 新幹線駅なのに、駅前は何もない。そんな感じでdisられる駅の代表格といえば、岐阜羽島駅がある。岐阜羽島駅はJRの在来線もなく、鉄道の場合は名鉄でアクセスするしかない。岐阜県民の新幹線利用者の多くは、名古屋まで出る。そして、「のぞみ」に乗るだろう。

 そんな岐阜羽島駅の陰に隠れた形になっているが、滋賀県の米原駅もなかなかである。新幹線が停車するというだけで、周辺が発展することはないし、地域活性化するわけではない。

 京都駅―米原駅間に、滋賀県はびわこ栗東駅という新幹線の単独駅を新設しようとしたが挫折した。米原駅の現状を見るに、計画を中止したのは賢明な判断だったと思う。むしろ、滋賀県はリソースを米原駅に振りわけて、米原駅の拠点性を高める必要性を強く感じた。

山形新幹線が見出した鉄道より飛行機という潜在需要

 JR東日本が開発を進める次世代新幹線のALFA-Xは、最高時速400キロメートルで走行することが可能だという。実際の営業運転は400キロメートルではなく、時速360キロメートル前後になるということだが、それでも東海道新幹線のN700Sが目指している最高時速と同じだから、驚異的なスピードといえるだろう。

 今般、高速鉄道のスピード競争は一段落している。効率的な運行を目指すなら時速280キロメートル前後というのが鉄道業界では支配的な意見になりつつある。

 それでも、JR東日本が時速360キロメートルに挑むのは北海道新幹線が札幌駅延伸を果たした際に、飛行機とのシェア争いを意識しているという点にある。

 時間だけ見れば、最高時速400キロメートルで走っても新幹線に勝ち目はない。それでも新幹線が開業すれば、飛行機のシェアを多く奪えるとJR東日本は踏んでいるのだろう。

 飛行機の場合、なによりも荒天になると、すぐに欠航もしくは遅延が発生する。冬の北海道は降雪が多いので、冬の北海道便はアテにならない。だから、空が荒れたときに新幹線に勝機がある、という意見はよく聞く。

 しかし、私は荒天に限らず新幹線が有利になるのではないかと読んでいる。というのも、山形新幹線が同じような状況にあったからだ。

 それまで東京へと出てくる際、山形県からは飛行機を利用するのが一般的だった。しかし、山形新幹線が開業すると状況は一変。山形駅発着の山形新幹線は、飛行機に比べてはるかに便利な移動手段だった。なぜなら、天気に左右されることが少なく、時間が読めるからだ。

 時間が読めるという点は、所要時間に比べると意外と評価されていない。しかし、山形新幹線を使う山形政財界の人たちは、時間が読める新幹線の利用にウエイトを置いている。例えば、来週に東京出張が入ったとする。来週の天気がどうなるかわからないが、とにかくチケットを手配しなければならない。ビジネスだから、荒天で遅れるわけにはいかない。だったら、飛行機よりも新幹線を使おうとなる。好天だろうと荒天だろうと関係ない。飛行機ではなく、とりあえず新幹線を選択する。。もう飛行機を考える余地はそこになく、新幹線が先に選択肢として浮上する。

北海道でも起きる地殻変動

 山形新幹線が新庄駅まで延伸したことで、山形県庄内エリアの二大都市である酒田市鶴岡市の需要を取り込んだ。それだけではなく、秋田県の横手市や湯沢市といった県南などからも山形新幹線利用者を呼び込んだ。

 こうした現象は秋田新幹線でも起き、「天気がわからない2週間後の出張は、とりあえず飛行機ではなく新幹線で」という機運が強くなった。それは、間違いなく北海道新幹線でも起きるだろう。

 数週間先の東京出張のチケット手配は、飛行機か新幹線か。これまでだったら飛行機一択だったのに、第2の選択肢として新幹線が生まれる。いや、新幹線優先になっているかもしれない。

北海道最南端の新幹線駅である木古内駅あたりでは飛行機から新幹線へのシフトが起きていてもおかしくない。

 これから時速360キロメートルで走る新幹線が登場し、新青森駅―仙台駅―大宮駅―東京駅ぐらいしか停車しない、ダイヤが設定されれば、飛行機から新幹線への流れは強まるだろう。

 ネックは青函トンネルでは時速を落とさなければならないことと、運転本数を増やせないこと、だろうか。そこも、何かしらの改善策は考えられ、それが実現したあかつきには北海道新幹線は、飛行機にかなり脅威な存在になるだろう。

 


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