【書籍・資料・文献】『ファミリーレストラン』(光文社新書)今柊二

被災地取材とチェーン店

 取材で地方を徘徊していると、その土地にしかない美味しい食べ物にありつくことができる。ドラマ化もされた人気マンガ『孤独のグルメ』でも、毎回、そんな話が出てきた。しかし、それも過去のものになっていくのかもしれない。

 地方都市は急速に個人営業の店が消えていっている。それは経営的にやっていけないという理由もあるが、なによりも最大の理由は後継者難だ。個人経営の店は、覚悟がないと経営が続かない。不安定な収入、休みのない日々。それは本人だけではなく、父母や妻、子供たちの理解も必要になるだろう。

 今般、チェーン系の店は溢れている。都市圏なら、必ず駅前にファミレスファストフードが営業している。地方都市でも、国道沿いにたくさんの店が軒を連ねる。むしろ、個人経営の店を探すほうが困難かもしれない。

 特に、自動車移動を強いられる地方取材では、チェーン系のファミレスの存在はありがたい。東日本大震災の被災地取材では、東京から延々と国道6号線を北上した。そのときにお世話になったのは、牛丼チェーンの「すき家」とラーメンチェーンの「幸楽苑」だった。特に、どこでもほぼ24時間で営業している「すき家」は重宝した。夜中に国道を走っていると、「すき家」の看板が見えてくる。それだけで、どこか安心感が生まれ、そして大して腹が減っていなくても入ってしまう。

 「すき家」も「幸楽苑」も食べ終わったら、すぐに店を出るのが暗黙のルール。だから、自動車を使っているときにしか立ち寄ることはなかった。なぜか? それは、長居することにそれなりの理由があるからだ。

ローカルチェーンというファミレス

 仙台と石巻を巡ったときは、東北・北関東を地盤にしているファミレス「まるまつ」をよく利用した。石巻駅裏の国道沿いの「まるまつ」は常に客が少なく、こちらが心配してしまうレベルだったが、構わずに長居した。

 「ガスト」や「サイゼリヤ」のような全国展開をしているファミレスに慣れてしまうと、「まるまつ」に入店するのも躊躇してしまうが、ドリンクバーなどは充実しており、全国チェーンでは見られないサービスやメニューがあったりして楽しい。

 九州を地盤にしている「ジョイフル」もローカルファミレスとしては有名だ。ここも取材先で見つけると、どうしても利用してしまいたくなる。時間的な事情から、後ろ髪を引く思いで断念したことは何度もある。

 「ガスト」の新業態でもあるハワイアン料理の「ラ・オハナ」にも行った。本牧方面に用事があり、そのついでに寄ったのだが、「ガスト」とは異なる味、そして店の雰囲気はなかなかよかった。チェーン系ファミレスと言っても、最近では店舗ごとに特色を出したり、多くの業態にしたりと工夫が凝らされている。

ファミレスの利点は長居

 長居ができるのはファミレスの利点でもあり、むしろ長居を目的にファミレスを選択することもある。なぜ、長居でファミレスを利用するのか? それは取材の時間調整で大いに役に立つからだ。

 寒い東北では、小一時間も外で突っ立ていると体が冷えてしまい、しんどい。ファミレスで時間を潰せるのは、非常にありがたかった。また、取材を終えて宿へ戻る際にもファミレスは大いに役に立った。

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