【連載第11回 みんなの公園】公園で稼ぐことが街を衰退させる

消滅可能性都市で揺れた豊島区の苦悩

 ビジネスジャーナルに寄稿した”東京・豊島区、消滅危機から蘇りの起点は「南池袋公園の整備」?全国から注目浴びる”では、豊島区が取り組む新しい公園づくりを紹介した。

 増田寛也さんが発表した“消滅可能性都市”は、人口減少に直面する地方都市に大きな衝撃を与えた。しかし、それ以上に大きな動揺が走ったのは東京23区で唯一、リストアップされた豊島区だった。

 豊島区は、池袋駅という巨大なターミナル駅を抱える。土日祝日はショッピングなどで多くの人出があり、平日もオフィスワーカーが駅前を闊歩する。早朝・深夜という時間帯でも、人の行き来が絶えない。眠らない街でもある。そんな池袋を擁する豊島区でも消滅する可能性があるという発表だったのだから、地方都市は危機におののいたことだろう。

 増田寛也さんが率いる日本創生会議の発表に対して、怒りを露にする職員も少なくなかった。「どうして、豊島区が消滅するのか?」と。

 豊島区職員の全員が豊島区に居住しているわけではない。また、豊島区出身でもない。なのに、消滅可能性都市として名前が挙がると、とたんに愛郷心が燃え滾り、怒りの矛先を向ける。

 これが、単なるシンクタンクのレポートだったら、豊島区職員たちも笑って済ませたかもしれない。しかし、増田寛也さんは元総務大臣。いわば、地方自治体を所管する省庁のトップを務めた人物でもある。それだけに、消滅可能性都市には真実味がある。だから無視できない。元総務大臣が発表したこともあり、報道陣も消滅可能性都市には食いついた。そして、これが大々的に報じられる。こうして、豊島区は23区唯一の消滅可能性を秘めた自治体として有名になってしまう。

 これを理由に豊島区へ引っ越しを考えている人たちを遠ざけてしまう可能性だって出てきた。また、豊島区の職員とっては自分たちが取り組んできた施策を全否定されたように感じたかもしれない。増田さんの発表を機に、豊島区は大いに揺れることになった。

活性化の起爆剤 公園をどう使い倒すか?

 消滅可能性都市の発表を受け、豊島区は憤懣やるかたない気持ちに覆われていた。しかし、時間の経過とともに冷静さを取り戻す。そして、情報の分析に走る。そこで、見えてきたのは豊島区という自治体が若い女性、特に出産適齢期とされる20代から30代の女性に不人気ということだった。

地方自治体が若い女性からの人気を得ようとする理由は、何よりも人口政策に直結するからだ。特に、出産適齢期の女性を呼び込みたいし、繋ぎ止めたい。子供を生むだけでは意味がない。生んだ後に、区内で子育てをしてもらわなければならない。そうしなければ、人口は減り、区の活力は失われる。

 豊島区は、決して子育て支援に手を抜いていたわけではない。それなのに、なぜ20代―30代の女性から不人気なのか? 豊島区は手探りながら、若い女性に魅力あるまちづくりを目指そうとした。

 最初に着手したのは、”女性にやさしいまちづくり課”という、漠然としたイメージの部署を新設したことだった。部署名を聞いただけでも、かなり手探り感があることは否めない。そして、当課の課長には民間企業から女性が抜擢される。従来の区役所勤めの人だったら、ここに配置されただけでお手上げだっただろう。

 しかし、民間出身者だったことが奏功し、官庁だったら出てこない発想で新施策を繰り出す。女性にやさしいまちづくり課が、最初に取り組んだのは”コミュニティ”の再生だった。コミュニティの再生といっても漠然としているが、具体的に言えば集まれる場づくりということになるだろうか。

 女性にやさしいまちづくり課は、井戸端会議のような、道路端で気軽に集まれるような場をつくることを理想としていたようだ。しかし、いきなりそれはハードルが高い。道路端にコミュニティスペースをつくっても、住民たちは使い方がわからない。それでは、単なる公共空間の無駄遣いになってしまう。

 そこで、公共空間の代名詞的な存在でもある公園に着目。池袋駅から近く、そして区庁舎からも近い南池袋公園を住民が集まれる場として整備した。

南池袋公園の芝生広場に寝ころびながら談笑するカップルや家族連れの姿も

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