【書籍・資料・文献】『ウォーター・ビジネス』(岩波新書)中村靖彦

水道法の改正で、日本の飲用水はどう変わる?

 先般、国会では水道法の改正が議論されていた。その法改正は、水道民営化とも評されたが、あまり議論されることもなく可決成立した。

 海外に足を運ぶとすぐに気づくが、水道から出てくる水を飲用として用いる国は少ない。

 全土で安心して水道水を飲用できるのは日本だけと言っても過言ではないだろう。

 諸外国で水が飲用に適さないのは、水道技術が未発達ゆえの衛生的な要因もある。きちんと衛生管理された水道水もあるが、硬度の関係で飲用には適さない。

 特にヨーロッパは硬度が高いため、大量に飲むのであれば問題ないものの、腹を下す原因になるので、飲用はお勧めできない。日本の水が軟水であることが、飲用水として水利用の幅を広げているのだ。

自治体が「水」を売り出す時代に突入

 数年前、東京都や横浜市が上水道技術を諸外国に輸出しようと計画を進めた。猪瀬直樹副知事肝いりの政策は、東京水道ということで注目を浴びた。

 大阪市でも、平松市政時に水道水のおいしさをPRする目的で、水道水をペットボトルに充填したミネラルウォーターを販売していた。

 一昔前の日本なら、わざわざ金を払って水を買うなどということは信じられなかったことだろう。お茶でさえ、金を出して店で買う”商品”ではなかった。

 それだけ時代が変わったということでもあるが、諸外国では水に金を出すことは当たり前の話で、だから水道技術を諸外国に売り込むという発想が出てくるのは理解できる。

 しかし、水道技術を諸外国に売り込んで導入まで漕ぎつけても、硬度の問題があるから、結局は飲用水に供することはできない。

 だから日本はボトルウォーターとして輸出するしか術がないのだが、これは欧米企業がすでにマーケットを切り開いており、日本企業の新規参入は難しい。ボルビック(軟水)やエビアン(硬水)を相手に、ヨーロッパ諸国でボトルウォーターのシェアを大幅に奪うことは夢物語に近い。

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