「性犯罪の起訴のハードルは下がっている」は本当なのか。

※書きたいことはだいたい無料部分で書いてますが、途中から有料記事です。

ツイッター上で性暴力関連、それも主に被害者側の視点からの発信をしてくださるらめーん先生のことは応援しているのですが、下記の文春オンラインの記事についてはあまり納得感がありませんでした。

テキーラで泥酔させられた女性と……性犯罪で不可解な無罪判決が相次ぐのはなぜか(文春オンライン/2019年4月4日)

「以前なら、警察が捜査せず、検察が起訴しないようなケースであっても、最近は警察が動き、検察が起訴することが増えているのではないか」などに違和感を覚えています。

前提として。

3月で3件、4月に入って1件、性犯罪の無罪判決が報じられ、大きな話題となりました(らめーん先生の記事で扱われているのは3月に報じられた3件まで。判決自体は4件とも3月)。

H29の司法統計を見ると、「わいせつ、強制性交及び重婚の罪」で起訴された1308件のうち7件で無罪判決が出ています。たしかに、2年前には(重婚罪を含めても)年に7件しかなかった無罪判決が、今年の3月だけで4件続いているのは、多いように感じます。

ただ、2017年の性犯罪刑法の改正や、昨年から話題となっている不起訴についての報道により、世論の注目・関心が高まっている→無罪判決への注目度が上がり、報道が目立っているということもあるのではないかと思います。

「以前なら、警察が捜査せず、検察が起訴しないようなケースであっても、最近は警察が動き、検察が起訴することが増えているのではないか」というのはらめーん先生の推測ですが、裏付けるためにはまず、刑法改正前後で性犯罪の起訴率が上がっている数字が必要だと思います。報道ベースでは、みなさんもご存知の通り、性犯罪の不起訴が相次いで報じられ疑問の声が噴出している状況です。

また、無罪判決の報道が目立っているのは確かですが、無罪判決が実際に「増えているかどうか」は、現段階ではまだ確定的とは言えないと思います。3月は年度末で、判決自体が多いと言われています。

ここ最近は無罪判決が出るたびにツイッターがどよめきますが、H29年(2017年)の無罪判決7件のうち1件でも報道を覚えている人はあまりいないのではないかと思います。すべてが報道されているかどうかもわかりません。

ちなみに、昨年の、こちらの報道を記憶している人は、どのぐらいいるでしょうか。養子わいせつ男性は無罪 地裁郡山「養子の供述、信用難しい」(2018年9月21日/福島民友)
支援関係者の中で、大変残念な判決と話題になった事件です。知的障害者が性被害に遭いやすいこと、その証言が軽視されやすいこと、子どもの性犯罪事件の聞き取りは大変難しく、それが証言の信用度に大きく影響してしまうこと、司法面接がまだ発展途上であること、性虐待が行われた事実があったとしても行われた日時の特定が間違っていた場合は無罪になること、日常的に繰り返される虐待の場合、日時の特定が困難であること。そういった前提の知識を持っている人と、そうでない人とでは記事から受ける印象は異なると思います。

私自身は、無罪判決を疑問とするこの世論の高まりを非常に嬉しく思っています。(「素人が意見を言うな」と言いたげなツイートを行う一部の法曹関係者は積極的に無視していきたいと思っています)

ただ、らめーん先生の仰る、以前よりも逮捕・起訴に至るケースが増え、過渡期だから無罪判決が増えているという説には疑問です。逮捕・起訴に至るハードルが本当に下がっているなら喜ばしいのですが、少なくともこの4件のケースからそれを判断するのはまだ早いのではないかと感じています。

まず4件の無罪判決のうち、3月28日の静岡地裁判決(実父から12歳の娘への強姦事件。強姦が行われたこと自体が認められず無罪)については、刑法改正の影響というよりは、今年に入ってからも繰り返し報じられていた大阪の強姦冤罪事件の影響があったと考えるほうがわかりやすいように思います。
※詳しく追っている人はおわかりのことと思いますが、4件のうち、この事件だけが強姦の行為自体がなかったと判断されています。ほかの3件は、行為自体は認定されています。

「以前なら、警察が捜査せず、検察が起訴しないようなケースであっても、最近は警察が動き、検察が起訴することが増えているのではないか」(引用)
「2017年の刑法改正の際の議論が、捜査実務に影響を与えたのではないか」(引用)

これが一番疑問なのですが、4件のうち2件は、刑法改正前に逮捕・起訴が行われています。刑法改正後ならまだしも、刑法改正前の議論が、まだ議論である段階で捜査実務にそこまで影響を与えるものなのか疑問です。

「「暴行脅迫」「抗拒不能」の認定について、警察官、検察官及び裁判官に、「性犯罪に直面した被害者の心理等についての研修を行うこと」」(引用)という附帯決議は確かにつきましたが、この附帯決議はもちろん改正後に出たものです。

ただ、有料部分前に書いておきますが、らめーん先生の記事の中で「従来、「被害者の同意」が争われるケースは、相当苛烈な暴行脅迫がないと、警察は捜査を開始してくれず、検察官も起訴してくれなかった。」という部分は完全に同意です。この暴行脅迫要件に阻まれた被害者が、どれだけいたか。起訴されず、捜査もされず、刑事事件の「被害者」になれなかった人たちの声を、私は聞いてきました。被害者支援に携わったことのない法曹関係者には見えていない部分なのではないかと思います。

1件の無罪判決の背後には、起訴されなかった数々の事件、捜査すらされなかった数々の事件があります。

とある弁護士の方が「【性被害を受けている17歳以下の子ども達へ】 性被害を受けてるならすぐに警察に行きましょう。」とツイートされていましたが、被害者支援をやったことのある人なら、警察に行けなんて簡単に言えないですよ。警察を動かすのは簡単なことじゃないし、二次被害に遭うことも多いから。私なら、被害者が未成年の場合は特に、警察より前に児相や被害者支援センター、ワンストップセンターで支援を受けることを勧めます。

意地悪な言い方になって申し訳ないですが、「子ども達に必要なのは、こういう情報の提供であって」と言いながら、この弁護士さんが「#8103」を案内していないのはなぜなのでしょうね。警察庁の性犯罪被害相談専門ダイヤル「#8103」(2017年夏から開設)を知らなかったのかな。わざわざ専門ダイヤルを設けるのは、その必要があるからなのですが。

以下は、4件の無罪判決のまとめ。(1)~(3)が、らめーん先生の記事で取り上げられている判決。(4)は3月の判決ですが、報道が出たのは4月に入ってからでした。
(1)3月12日、準強姦事件の無罪判決(久留米地裁)
→毎日新聞が同日に報道。2017年2月5日(刑法改正前)の事件
(2)3月19日、強制性交致傷の無罪判決(静岡地裁浜松支部)
→3月20日に各社が報道。2018年9月(刑法改正後)の事件。
(3)3月28日、12歳実子への強姦罪の無罪判決(静岡地裁)
→同日に各社が報道。2017年6月(刑法改正前)の事件。
(4)3月26日、19歳実子への準強制性交等罪の無罪判決(名古屋地裁岡崎支部)
→4月4日に共同通信が報じ、5日から各社が続く。2017年8月、9月(刑法改正後)の事件。

(以下、有料です。ここまでで大体書きたいことは書いているので、すごく読みたい!と思う人だけ購入したらいいと思います)

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Tamaka Ogawa

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Tamaka Ogawa

ヤフーニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/

「性」と「性暴力」の話

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