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Ogen/blik Vol.3 出品者インタビュー第一回 : 大久保雅基(後編)

大久保さんのインタビュー後編です。
(聞き手:牛島安希子)


ー大久保さんの作品は現代音楽の歴史を意識しつつも、現代の日本に生きている作家としての視点も作品に反映されています。この二つの視点を両方持ってバランスを取っている作家って日本の音楽分野ではまだ少ないように感じていますが、ご自身ではどうですか。

 現代社会によって生まれた文化には鮮度があると考えています。過去の時点では想像でしかありませんし、5年後にやったら時代遅れになります。ですから現代の文化を題材にすることは現代に生きる作家の特権ですし、多くの人が共感できるので積極的に取り入れた方が良いと思っています。
 現代音楽の歴史を意識しているのは、そういう場所で発表するからです。僕はサイト・スペシフィック、メディウム・スペシフィックを意識して作っています。発表機会が得られたとして、その時点で会場、楽器、機材は大体決まってるので、フォーマットが固定されており、その中でできることを考えなくてはなりません。そして新しいものを提示するためには、文脈を元にして拡張する必要があると考えています。ポリリズムを取り入れたダブステップを作ったとして、ダブステップとしては新しくて面白いかもしれませんが、それを現代音楽コンサートの場で発表しても場違いにしかならず、その新規性が正当に評価されません。なので現代音楽コンサートで発表する作品だから、現代音楽の文脈をベースにする必要があります。

ー話が変わりますが、大久保さんのインスタグラムに時々、近所の寂れた看板とか、トイレの張り紙の写真がアップしてあるんですが、あれは何なのでしょうか。

主に手作り感溢れる街の看板やポスターを撮影してアップロードしています。僕たちクリエイターって洗練されたデザインが好きな人ばかりで、市民センターに置いてある手作り感のあるチラシをバカにするような人が多いと感じています。それってスノビズムだと思うんですよね。手作りチラシには洗練されたデザインにはない、いわゆる温かみがあり、庶民感覚ではそちらの方が好まれたりします。僕がInstagramを始めた2016年頃は「インスタ映え」や「フォトジェニック」などが流行り始めて、洗練されたデザイン側の投稿が多かったと思ったので、そのアンチとして庶民的なデザインを投稿していました。現在はほぼ可愛い猫を見るアカウントとして使っています。

ー大久保さんはストイックに芸術に対峙していらっしゃるのですが、その庶民的なデザインを集める感覚が音楽作品にも反映されていて、結果、とてもオリジナルな作品群が生まれているという印象です。

 ありがとうございます。音大生のころ同世代の作曲家が同時代の表現をせずに、先生に習った古い表現をしていることに違和感を持っていました。保守的というか、クラシックの世界で正解とされることをやっているような印象がありました。僕たちは小さい頃からクラシック音楽だけでなく、ドラえもんやクレヨンしんちゃんを観て、スマブラをやって、ミスチルを耳にして育ってきました。それらの面白さを知っているはずなのに蓋をした表現ばかりしている印象でした。そのような違和感が、エンターテインメントの感覚を融合させようとする方向に動かしてくれたのかもしれません。そして洗足時代の師匠・松尾祐孝先生が、もっとやれと後押ししてくださったのも良い影響になったと思います。
 商業音楽の売上が落ち、文化事業に対する助成金も減っている現代は、音楽に関心を持つ人も減っていっていると考えています。そのような状況で現代音楽の文脈に収まる表現をし続けることは、間口を狭め、結果自分の首を締めることになると思います。だからこそ庶民的な感覚を作品に取り入れ、共通言語を増やす必要はあると考えています。

ーでは、今回Ogen/blik vol.3 で発表する作品について教えてください。

 「vl.mod.live」は、映像と2丁のヴァイオリンによる作品です。ヴァイオリンはステージ上で吊るされ、映像内で演奏された通りに発音します。2つの映像はスキップされたり短いループなどの編集が行われるので、生演奏では不可能な演奏が、生のヴァイオリンから聞こえてきます。これは映像と2台のスネアドラムによる旧作「sd.mod.live」と同じ手法で、ヴァイオリンに振動スピーカーが取り付けられています。
 ヴァイオリンは、弦を弓で擦ることにより振動させ、その振動に胴体が共鳴することで音色が作られます。また、弦を指で弾いたり、胴体を指の関節でノックすることによって発音される音もヴァイオリンの音です。それらの音を録音し胴体に直接再生することで、サンプリング音楽の手法で生楽器を演奏できるようになります。またその音は短いループやスキップによって生じるグリッチ音によって電子音と融合されていきます。

これは先程述べた生楽器とテクノロジーの融合であり、生楽器を電子音楽的に演奏する作品です。ヴァイオリンが誕生してから400年以上の歴史を経て、現代の音響技術と結びつけることにより、ヴァイオリンの響きをアップデートします。

ースネアドラムのsd.mod.liveが印象的な作品だったので、ヴァイオリンによる「vl.mod.live」も楽しみですね。

ありがとうございました!

*出品者インタビュー第二回は映像作家の丸山達也さん、6月中旬に掲載予定です!


*コンサート情報

Ogen/blik vol.3  -眺める音、聴き分ける空間-
ウェブサイト:https://ogenblik.cargocollective.com

日時:2019年6月30日(日)15:30開演 (15:00開場)
場所:両国門天ホール
チケット:2,500円(当日3,000円)
*コンサート終了後、アフタートーク (17:30開始予定)
ゲスト:安野太郎(作曲家)  

■ ■ プログラム ■ ■

福島諭 : 新作初演 (尺八とエレクトロニクスのための)
牛島安希子 : 新作初演 (ヴァイオリンとエレクトロニクスのための)
山田亮・丸山達也 : 新作初演 (ピアノと映像)
野口桃江 : 新作初演(ピアノとエレクトロニクス)
大久保雅基 : vl.mod.live (ヴァイオリンとエレクトロニクスのための)
Donnacha Dennehy : Overstrung (ヴァイオリンとサウンドトラックのための)

演奏:福島麗秋(尺八)佐藤友香(ヴァイオリン)

最近、オペラ”The Last Hotel”が収録されたCDをリリースしたばかりのアイルランドの作曲家 Donnacha Dennehy の作品もプログラムしました(日本初演)

フライヤーデザイン:篠田知哉

主催:Ogen/blik
共催:一般社団法人もんてん(両国門天ホール)
後援:日本電子音楽協会(JSEM)
先端芸術音楽創作学会 (JSSA)
オランダ王国大使館



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