突然目が見えなくなりました記

2018年の2月、突然に目が見えなくなりました。まっ暗闇。約1ヶ月の入院の末、幸いにして今は視力が回復していますが、その記録をここに公開します。何か参考になれば投げ銭をお願いいたしまする。

目次

●前兆の頭痛

●昼なのに暗い!

●検査をしまくって緊急入院

●ステロイドパルス治療

●仕事? できるわけないだろ!

●副作用で太る&花粉症を感じない

●原因が判明する

●目が見えないと容姿で人を差別できない

●目が見えないと、ごはんが美味しい

●性欲がなくなる怪奇現象

●ライター・イン・ザ・ダーク

●目が見えなくてもスマホは使える(リンク)

※この原稿はBOOTHにて公開した「ライター・イン・ザ・ダーク 目が見えなくなると何が起こるか」と同一の内容です。

前兆の頭痛

 目の奥を中心に、軽い頭痛が1週間ほど続いていました。振り返れば、あれが前兆ですね。その時(1月の末)はインフルエンザが流行っていて、長男もインフルエンザにかかり、うつらないようにと別の部屋で寝ていたのですが、ついに頭痛が酷くなってきたので、かかりつけのお医者さんに行きました。熱は全然なかったのですが、インフルエンザ B 型診断され、処方された「イナビル」を帰り道で吸入し自宅で寝ていました。イナビル効くから2〜3日あれば復帰できるなと。

 ところが、それまでなかった熱がどんどん上がっていき、頭痛も頭が割れそうなほどひどくなってきます。まあインフルエンザだしと、寝床でスマホを見ながら暇つぶしをしていたんですが、Facebook なんかの文字が霞んで読めない。熱のせいかなーとそれほど気にもせず、枕元にスマホを放り投げひと眠り。そして、目が覚めてもう一度スマホを見ると、アイコンがぼやけてよく見えない。 そんな感じで3日ほど寝込んでいたのですが、とにかく頭痛がおさまらないんですよ。

昼なのに暗い!

 決定的だったのは、部屋の照明をつけても明るくならないこと。もちろん、電気が止められてるわけじゃなく、昼間で電気付いてるのに暗いまま。これは、ただ事じゃないなと、少し大きな病院に行きました。

 その時は、インフルエンザの影響が脳に及んでいるんじゃないかと思ってました。結果、視神経が炎症を起こしている視神経炎だろうと診断されます。ただ、その病院にはMRIがないので、さらに大きな大学病院に紹介状を書いてもらい、その日は帰宅しました。帰りのタクシーから見た風景は行きよりも暗く、モノクロの世界。そして、翌日には完全な暗闇の世界。目が見えないことを「めくら」と言いますが、差別用語となっているこの言葉も、なってみると納得です。目が暗い、ですから。しかも頭が割れるような頭痛。正確には、眼球が切られるような痛みです。

検査をしまくって緊急入院

 すぐに紹介状を書いてもらったT大学病院に行ければ良かったのですが、インフルエンザだったので、それが治るまでは診てもらえないとのこと。ほぼ失明してるのに、インフルごときと腹が立ちましたが、どこの病院でも感染症って入院させてくれないんですね。

 5日ほど自宅待機した後、ようやくT大学病院へ。もちろん、ひとりじゃどこへも行けませんから、妻の付き添いです。肩を借りてマンションの階段を降り、暗闇の世界をタクシーで走り病院に着くと、暗闇(自分にとっては)の病棟の中を連れ回されます。目にいろいろされて質問されるんですが、何をされているかもわからず、「わかりません」「見せません」を繰り返しました。

 そして一気に、MRI、CTスキャン、血液検査、骨髄液検査、レントゲン、脳波検査あたりを回り(ほかにもあっただろうけど忘れた)、果たして緊急入院ということに。空き部屋がなくて、追加料金のかかる個室に入れられました。広いらしいが見えないし意味はあまりありません。電話とかできるのは良かったかな。しかし、目が見えないとよちよち歩きになるので、空間は実際よりも広く感じられます。

ステロイドパルス治療

 翌日より治療が開始されます。ステロイドパルス療法といい、3日連続で点滴で高濃度のステロイドを投与、その後3日間は飲み薬、これを1クールとして、計3クール実施しました。

 入院前にいろいろな検査をしたのには理由があります。ステロイドは炎症を抑える効果があるのですが、免疫力を低下させ、癌や糖尿病、感染性の病気がある場合、それらを悪化させてしまうのです。幸いにして、そのあたりは健康体であったため、治療が開始できたというわけです。

 1クール目で頭の痛みがなくなり、光りが戻ってきました。モノクロ16階調ぐらいでものが見えるようになりました。人の顔まではわかりませんが、髪の毛の形はわかる程度。廊下や壁、窓なども判別できるので、病棟内での移動もできるようになりました。2クール目では、目立った改善がなく、精神的に落ち込みます。何より文字が読めなければ仕事ができませんから。

 入院生活は忙しいようなヒマなような。朝6時起床で、朝の診察があり、8時に朝食、12時に昼食、18時夕食、それらの間に各種の検査、1日3回の投薬、1日3〜5回の血糖値検査、夕食の前後にまた診察があります。診察は、2〜3人ぐらいの先生が担当するので、多いときには1日6回ぐらい。しかし、それ以外はやることもなくヒマです。ベッドでごろごろしてるか、ごはん食べてるか、トイレに入っているか(便秘気味だったので、何度もチャレンジしてた)。

 手術じゃないので治療に痛みはありません。点滴も1日、2時間ぐらいなので大したことない。何気に鬱陶しいのが、1日最大5回の血糖値測定でした。ステロイド治療では、血糖値が上がることにリスクがあるので、こまめに測られます。糖尿病の人はご存じでしょうが、ホッチキスみたいな器具で指に穴を開けて血を出して、デジタル体温計みたいな機械で数値を測ります。痛み自体は、強いデコピンや静電気ぐらいですが、定期的にやられるのはストレスでしたね。

 治療2クール目を終えても、それほど視力が回復せず、先生からは「若いから大丈夫でしょう3クール目行きましょう」と言われます。病院においては、40歳代は余裕で若い範疇です(笑)。3クールがマックスで、それ以上の治療はありません。

 その結果、大きめの文字はなんとか読めるようにまで回復しました。入院時は、先生も「これは、もうダメかもわからんね」状態(つまり失明したままかも)だと思われていたようで、素晴らしい回復だと言われました。とはいえ、紙に印刷されたような普通の文字はほとんど読めず、スマホではロック画面に表示されている時計ぐらいしか読めないレベルなのですが、神経の回復には数か月というスパンが必要だというのです。

仕事? できるわけないだろ!

 入院前後に注力したのは、仕事を断るという仕事でした。メールは読めないので、妻に読んでもらって返信してもらったり、電話できるところは電話で説明して、受注している仕事をキャンセル、もしくは延期、他のライターに肩代わりしてもらいました。その節はご迷惑をおかけしました>各位

 仕事については、入院時にお医者さんからも質問されます。

先生「お仕事は何を?」

ワイ「物書きを。雑誌の編集とか」

先生「ああ……」

 みたいな、微妙な空気感ただようやりとりになるのですが、どこにでも空気読めないというか関係ない人はいるもので、ある看護師さん(顔見えないので覚えてないけど)に「仕事はどうするんですか? 考えてるんですか?」って言われて、憮然とするやらじわじわ頭にくるやら。もしかしたら、親切心からなのかもしれませんが、妻も「あれなんなの!」って怒っておりました。

 実際、目が見えなくてもできる仕事なんてかなり限られてるでしょう。路上に出て乞食とか、目が見えない漫談とかちょっと考えましたね。結局は退院後に、パソコンの文字も大きくすれば見えることがわかり、徐々に仕事復帰できわたけですが。 

副作用で太る&花粉症を感じない

 ステロイドの副作用を調べるとやたらあるんですが、自分はそれほど影響なかったです。ただ、空腹感がかなり強くなり、退院後もお菓子を常に食べていました。入院中も食事ぐらいしか楽しみがないので、3食フルに食べてしまい(普段は1日2食)、入院前からは5キロぐらいは太りました。ムーンフェイスといって、顔が丸くむくむ現象も多少はありました。あと内臓脂肪がついたのか、お腹のぽっこりがすごかったです。地獄絵図に描かれている餓鬼みたいなスタイルです。退院後は、飲むステロイドの量を徐々に減らしていき、異様な食欲も落ち着き、ムーンフェイスも体重も元に戻りました。

 余談ですが、入院していた時期はスギ花粉の最盛期で、今年は花粉の飛散量が多く、花粉症の人は大変だったらしいですね。ですが、入院中も退院後も花粉で目や鼻がかゆくなる現象は皆無。1ミリも感じませんでした。そりゃ、強力なステロイドが体内にぶち込まれてますからね。花粉症でもらうステロイド薬の何倍でしょうか。

原因が判明する

 この話をすると、よく質問されるのが「原因は何だったの?」ですが、入院中はまだ特定されていませんでした。いろいろ検査するのですが、すべて陰性で、お医者さんも首をかしげていたのですが、視神経炎は原因が何であれ、治療方法はステロイドしかないらしく、やることは変わらないのです。

 ようやく原因が判明したのは、退院して1ヶ月ほど経ってから。別の大学病院に送っていた検体から「抗MOG抗体」が陽性だったと教えられました。ここ2〜3年ぐらいで発見された原因だそうです。視神経炎自体は女性の患者が多いのですが、この抗MOG抗体を原因とする視神経炎は、男性が多いそうです。特徴としては、ステロイドがはやく効く代わりに、再発率がほかの視神経炎に比べると高いとか。今のところ、まだ大丈夫ですが、なにぶんサンプル数が少ないので、何とも言いにくいらしいです。

目が見えないと容姿で人を差別できない

 さて、目が見えなくなることで、どんな身体的、精神的な変化があるのか、さらに記録していきましょう。

 人間はほとんどの情報を視覚から得ており、それを元に評価や判断を行っています。それをまず実感したのは、女性の外観です。入院した当初は、まったく見えないので、看護師さんの容姿も当然わかりません。会話していても、年齢さえも判別できないのです。声質はかなり個人差が大きく、20代かと思っても実際の年齢は40代ということがありました。

「人は見た目が9割」と言われるように、性別を問わず相手の容姿による印象は大きく、自分が気づかぬうちに話し方などの対応も変わってくるものです。しかし、視力が失われた状態では、見た目の評価がなくなります。看護師さんの場合は、食事を運んでくれた時の説明のていねいさ、車椅子で移動する際の気づかいなどが、視力がないぶん大きく感じられました。評価軸が変わったということですね。ただ、親切、ていねいな看護師さんがベストかというと、そうでもなく、雑で荒っぽいキャラクターの看護師さんの方が、点滴の針を刺すなどの処置では上手だったりします。面白いもんですね。

「偏見」という言葉には、「見る」という字が入っています。目が見える時の方が、見た目に惑わされることは多かったでしょう。ただし、人類から視力が失われたとして、偏見や差別がなくなるかは疑問です。声や肌触りなど、別の基準が人の優劣を付ける基準になるだけかもしれません。それだけ、偏見や差別は意識の低い部分にある根強い思考なのでしょう。

目が見えないと、ごはんが美味しい

 視力がなくなって起こった、もうひとつの大きな変化は、食事への感じ方です。出された病院食は、看護師さんから内容の説明はあるものの、よく見えません。よく、「見た目も料理のおいしさ」と言われますが、嘘だなと思いました。

 というのも、見た目の先入観なしに、直接口に入れて初めて味覚を感じる食べ方では、より食材のおいしさが感じられたからです。目が見えた場合は、「なんだ、野菜のおひたしか。味付けも薄そうだな」との意識が生じるところ、味覚のみに集中して食べることになったからです。もちろん、ステロイドによって食欲が高まっていた影響もあったでしょうけど。

 見た目の美しさやその背景を評価しながら食べることは、意識の高い行為でしょう。料理の文化も、その点で発展してきました。一方、味覚のみに集中するのは、モグラが土の中で見つけたエサを食べるようなもので、原始的な行為です(実際、自分をモグラみたいだと思っていました)。

 どちらがより食材の味を感じられたかというと、後者です。たとえ少々魚がパサついていようと、野菜の味付けが薄かろうと、味覚は鋭敏に働いたのです。食に対して意識の高い人たちが言うような「魚は○○産に限る」とか、「野菜はオーガニックでなければ」というような価値観からは開放されていました。もちろん、食べ比べればより評価の高い食材との違いはわかるでしょうけど、見た目や予備知識がないことで、素材そのものの味に集中することができたのです。

性欲がなくなる怪奇現象


 変な話ですが、発症してから退院するまでの1か月間、性欲はピクリとも起きませんでした。ピクリとも。今はどうか知りませんが、入院した男性にエロ本をお見舞い品として差入れする習慣がありましたけど、まあ見えませんしね。それ以前に性欲がないので、まったく必要性を感じないのです。

 これも原因はわかりませんが、視覚情報が激減したことが理由かもしれません。見えるようになってきてからは復活しましたから。性欲というのは、小さな刺激が蓄積されておこるのかもしれません。たとえば、普段生活していると、水着や下着姿の広告などはそこらじゅうにありますし、雑誌のグラビアなども目に入ってきます。もちろん、家を出れば、そこら中に女性がいるわけです。それらが無意識に微妙な「ムラッ」を蓄積し、ある量を超えると自分でも自覚される欲望となり、何らかの行動に結びつく。性欲サビリミナル仮説です(笑)。自分の性欲にお困りの男性は、とりあえず視界からセクシー系のビジュアルをなるべく排除すると良いかもしれません。さすがに、外を歩く女性にイスラムのようなヒジャブを頭からかぶれとは言えませんけど。

ライター・イン・ザ・ダーク

 以上、突然目が見えなくなって入院治療、どんな変化が自分の身に起こったかを思い出しながら書いてきました。退院から4ヶ月以上が経過し、続けてきた飲み薬のステロイドもなくなり、仕事量は入院前に復帰しています。忙しいと、過去のことはどんどん忘れていくので、思い出せるうちに記録しておこうと。

 目が見えなくなったことを話すと、よく「恐かったでしょう」と言われるのですが、目が見えないままの将来を想像しない限り、恐くはないです。目の前の現実として淡々と受け入れているつもりでした。自分でも驚くほど普通でした。

 でも、ここで白状しましょう。泣ける映画のサントラを聴きながら、病室でひとり涙を流す夜もありました。一番泣けたのは「インターステラー」のサントラです。主人公がブラックホールに吸い込まれて閉じ込められた4次元空間から、過去の正解にいる娘と更新しようとするシーンを、目が見えない自分と重ね合わせていました。ほかにも、「マトリックス レボリューションズ」などの目が見えなくなる映画を思い出していましたが、最後までサントラを聴く気にならなかったのは、ビヨーク主演の鬱映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」ですね。観た人はご存じでしょうが、さすがにあれはツライ。盲目の主人公が、本当に周りから酷い目に遭う映画なのですが、自分は家族や友人、そして医師に支えらていた、真逆の境遇でしたから。

 目が見えるって幸せですよ。退院後は実感してましたが、まあ忙しくなってくると辛さの方が高まってきて、その幸せは忘れがちですけどね。人間、そんなもんです。

目が見えなくてもスマホは使える(リンク)

 光が見えるとは言え、入院中はまだ視力が著しく低く、スマホの文字も読めませんでした。そこで使用していたのは、iOSの「VoiceOver」といって、音声を頼りに操作する視覚障がい者向けの機能を活用していました。あと、退院後は、パソコン(Mac)の表示を拡大することで仕事復帰できました。スマホやPCの文字を大きくする設定は、老眼や他の目の病気でも役立つかもしれません。もし、ご興味があれば、リンク先をご覧下さい。

「目が見えなくなったときの家電使いこなし術」(家電Watch)

第1回 スマホの音声機能に頼りきりだった入院生活

https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/kanhoo/1116289.html

第2回 ガクッと落ちた視力対策に役立った設定とあのアプリ

https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/kanhoo/1118790.html

第3回 生活家電のボタンにあるポッチは役に立つか?

https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/kanhoo/1121116.html

「おじさんに役立つiPhone・Macハック」(マイナビニュース)

第1回 iPhoneの文字を大きくする

https://news.mynavi.jp/article/20180530-iPhone_mac_hack/

第2回 目が見えにくくてもiPhoneは操作できる

https://news.mynavi.jp/article/20180620-iPhone_mac_hack/

第3回 Macの文字を大きくする

https://news.mynavi.jp/article/20180628-iPhone_mac_hack/

第4回 大事なアレを大きくする

https://news.mynavi.jp/article/20180711-iPhone_mac_hack/

著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。明治大学法学部卒業。雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆などを手がける。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。台湾メーカー大同の国民的家電「電鍋」を日本に持って帰る「逆爆買」を行い、テレビ、Webなどの台湾メディアに取り上げられる。著書に「ちょいバカ戦略 意識低い系マーケティングのすすめ」(新潮新書)など。「タスクビンゴ」考案者。AllAboutスマートフォンガイド。

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