新しい季節に思うのは

 重岡大毅の笑顔が眩しい。去年の夏に出会ってからずっと眩しい。彼に出会ったのは夏休みの終わり頃で、娘2人を連れて熱海へ旅行に行った帰りのロマンスカーの車内でだった。もちろん、本人に直接出会うような話ではなく、画面の中で私が一方的に見つけたというだけだけれど。ちなみに私が直接出会った(と言うより目撃した)ことがあるのは、ボタンを押し間違えながらも真面目に赤坂の坂道を走る小瀧望だけ。画面で見る小瀧望が100%の小瀧望のだとしたら、肉眼で見る小瀧望は120%の小瀧望だった。

 ロマンスカーに話を戻すと、座席で眠り込む娘達の隣であてもなく眺めていたSNSにスーツ姿でダンスを踊る彼の動画が流れてきた。ドラマの宣伝用のアカウントだった。彼のトレードマークのいつもの笑顔でドラマの主題歌である「パロディ」を踊るその動画を私は繰り返し繰り返し見ていた。子どもとの旅行は本当に疲れる。言葉で言い表せないほどの疲労の中で、少しでもそれを癒したい一心で彼の笑顔に縋っていた。人生において何事もタイミングが重要だなと思う。これほどまで疲れていなかったらきっと、彼の笑顔に縋ることなく画面をスワイプしていただろうと思うから。動画投稿SNSで重岡大毅と検索すると、彼がWEST.(当時はジャニーズWESTだったが)というアイドルグループのセンターだという事が分かった。それまではずっと俳優だと思っていた。私がWEST.について知っていることと言えばヒルナンデスに出演していたふたりの顔くらいで、未知の世界だと言ってよかった。今ではディズニーランドに行く際はいつ淳太くんに遭遇してもいいようにと一番お気に入りの服を身に付けるようになったけれど。

 熱海旅行から自宅に戻っても彼の笑顔が忘れられず、育児の合間を縫ってYouTubeの彼らのチャンネルで公開されている動画を全て見た。翌週には洗濯物を干しながら膝銀座を口ずさむようになって、その翌週にはもぎたて関ジュースとbayじゃないかを聴きながら洗濯物を畳むようになった(もちろんREC!も)。その頃には重岡くんだけに留まらず、7人全員が魅力的だと思うようになっていた。そうやって人生で初めてアイドルの推しができた。
 SNSで彼らの事を検索すると、まるで異国を旅しているような気分になった。知らない用語を使ってそこで生活している人がいる。同じ事務所に所属する別のグループを応援している人同士の交流も少なくなく、WEST.の7人だけで終わらずもっと外側にアウトラインがある事が新鮮だった。
 最も慣れなかったのは、彼らの武器が応援歌であることだった。元々、ポジティブなロックがあまり得意ではなかったために彼らの楽曲にハマりきれずにいた。私は苦しみや葛藤の中にある美しさを眺めるのが好きなのだ。だけど、サマーソニックでパフォーマンスする彼らの映像を見た時、そんな気持ちも全部ひっくり返ってしまった。ふざけ合って騒いで笑って、うるさすぎるくらいの彼らが好きなんだ。真夏の熱気の中、全身全霊で青春の汗を流すその横顔は紛れもなく美しかった。

 つい先月、「ハート」という曲のミュージックビデオが公開された。この4月でちょうどデビュー10周年を迎える彼らのアニバーサリーシングルに収録される曲のひとつだった。夢を追いかける人の背中をグッと力強く押してくれるような真っ直ぐな応援ソング。「諦めたい夢なんてないよな」と7人に歌われると、無意識のうちに私はどんな夢を追いかけていたんだっけ?と柄にもなく考えてしまう。子どもの頃から「なりたいもの」が見つからなかった私は、そのうち考えるのをやめて今日まで生きた。夢とは無縁の人生だった。歌はのんちゃんに引き継がれて「涙って僕らの正直さなんだよ」と続いていく。子どもは、自分でやりたいことが出来ないと悔しくて泣く。毎日泣く。出来ないことがたくさんあるから。私が最後に悔しいって思ったのはいつだっただろう。なんでもできるようになったからじゃない。できないことにチャレンジしなくなったから悔しくないんだろう。そんなことを考えながら、夢とか悔しいとか今まで敬遠してきたものを手に取ってみようとしている自分に驚いていた。今更かもしれないけれど、夢を見つけてみたいとさえ思っていたし、悔しいって感情に憧れている自分もいた。もしそれが見つかったらきっと、彼らの応援歌がもっとぐっとくるんだろうと思う。4月。ちょうどいい季節がやってきた。

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