自分の人生を_見つめ直したくなる

『シャボン玉』乃南アサ

「諦めたら、人生なんかやり直せん。どげん若くても」。

読後、自分の人生を見つめ直したくなります。

今回は乃南アサさんの『シャボン玉』読了。ベストセラー小説で、映画化もされたみたいですね。レビューも多く、評価も高いです。

*あらすじ*

女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、自暴自棄な逃避行を続けていた伊豆見翔人は、宮崎県の山深い村で、老婆と出会った。翔人を彼女の孫と勘違いした村人たちは、あれこれと世話を焼き、山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが…。【「BOOK」データベースより】

*感想*

珍しく小説で泣きました。主人公の翔人は親の離婚、DVを目にして心が荒み、ひったくりを繰り返す毎日。逃亡するためにヒッチハイクするも、宮崎の山奥で降ろされます(捨てられる)。

そして、ある1人の老婆との出会いで、彼は変わっていきます。老婆の住む村で、翔人は優しく大らかな人々と関わり、今まで感じたことのない感情を覚えます。初めて人に認めてもらい、褒めてもらい、優しさを知る翔人。救いのなかった彼の気持ちが、前向きに更生していく姿に感動しました。

自分はシャボン玉。誰にも存在を認めてもらえず、漂うように、誰の記憶にも残らず、シャボン玉みたいにパチンと消えてしまう存在だと感じていた翔人。帰る家も、心配する人間もいない。そして、どんどん自暴自棄になる。でも、人の出会いで人は変わるんだと実感。

シゲ爺やおばあちゃんの言葉は名言です。シンプルで心に深く突き刺さります。

「関係ないもんには、どうじゃってええけんど、自分で大事にしたいと思うもんにはの、嘘はいかんとよ」

この言葉で、翔人は自分の行いについて考えます。大事な人にこそ、正直にならないと信頼関係は築けませんよね。

「何でんかんでん血筋のせいにするっちいうとも、な。いちばんの問題は、そいつの、ここ(心)じゃろうが」

私はバッタモン家族で育ちました。暴力的で人の気持ちが分からない人間の血が自分にも流れてると怖くなったこともありました。でも酷いことをするのは血筋が関係するのではなく、心が関係しているんですね。

「自分のことでいっぱいじゃけえ、人のことまで考えられん。弱いけえ、暴れるわけばい。それに、自分のことだけのや奴は、人の心が分からんと。」
「自分の生き方についちゃあ、しょうがねえって諦めたら、そこで終わりばい。諦めたら、人生なんかやり直せん。どげん若くても」

シゲ爺の言葉は心にズシッとのしかかってくる。私自身の経験に重ねて読んだので、ジーンと来ました。

人生経験が豊富なお年寄りの人たち。多くを聞かない、語らない村人たちの優しさ、信じる気持ちに翔人は救われたはず。私にも80歳のお友達がいますが、彼らと話すと温かい気持ちになります。若者の話に耳を傾けてくれて、未熟な私からも学ぼう、知ろうとする姿勢が見えてくるんです。私も、そんな風に年を重ねたい。


この小説は、心がほっこりしました。乃南アサさんの他の作品もまた読んでみたいと思います。

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