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【第13話】しょーもない女と言われた日

2013年のクリスマス。私は、一刻も早く「バッタモン家族を卒業したい」と、遅まきながらサンタに願っていた。

*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

さて、何が起きたか。父とお金の話で争ったのだ。バッタモン家族もめ事ランキングにおいて、もはや殿堂入りのケンカネタである。原因は車のETC設置にかかる費用に関してだった。

※ETCカード:ETCカードとは、高速道路や有料道路の料金を現金ではなくクレジットカード払いにできるカードです。 ETC車載器に挿入すると、料金所をノンストップで通過することができるほか、料金の割引やスマートICの利用などさまざまなメリットがあります。(価格.comより抜粋)

当時私は、家の車を父とシェアして使っていた。仕事で車を使って遠出することが多かった父。それまでにも経費の分担について、少し腑に落ちない点があり、言い争うようなことは何度かあった。

そんな矢先、ある日突然こう言われた。

 「ETCカードを作ってくれへんか?お金は毎月きちんと払うから。」

反射的によぎる不安。ことお金のルーズさで、バッタモン家族代表の父の右に出る者はいない。最初だけ払ってあとは支払わないパターンに陥ることがすでに目に見えるかのようだった。正直なところ、申し出を受ける気はこれっぽっちも起きなかった。今まで、そんな言葉を信じて何度裏切られたことか…

…いやいや、あの父がいつになく誠実にお願い事をしてきている。ここは一つ大人になって、冷静に考えてみよう。私は県外にほとんど行くことがないからETCは必要ない。でも父は仕事で必要だと言う。色んな理由から、彼は(というより家族の中で私以外)クレジットカードが作れない。それはそれで仕事に支障をきたして困るだろう…

YESとNOの間を、頭の中で何度も何度も行き来して、最終的にはETCカードを作ることに同意した。もしも自分がその立場だったら同じく困るな、と思ったからだ。ただし、相手はバッタモン家族代表の父だ。念押しも忘れない。

 「しつこいようやけど、ほんまにちゃんと払ってな。私、自分の留学のお金を貯めてるから、代わりに払うようなことは出来ひん。払ってもらえんかったらETC止めることになるからな。」

もう一度そう伝えて、手続きをすることにした。父も快く約束してくれた様子だった。

ETCを設置して最初の月の請求が来た。金額は大体2万円。父は約束通り、自分で使った分をキッチリ支払ってくれた。その次も、その次も、彼は支払いをしてくれた。なんだ、(彼が聞く気がある時には)ちゃんと話せばわかるんじゃないか。疑ったりして、少し悪かったかも…そんな風に感じるほどだった。

そうして半年ほど過ぎた頃。届いた請求書の金額を見て少しぎょっとした。…5万円。

いくらちゃんと支払いをしてくれるとはいえ、一旦は私のクレジットカード経由でお金が落とされるのだ。さすがに予告なしにいつもの倍以上の請求がきてしまっては、私個人で困ることが出てきてしまう。

口の奥の方でじわり、と最初に申し出られた時の不安の味がする。すぐさま父を捕まえ、請求額の件を伝えた。
  
 「今月、ETCの請求が5万円も来てるんやけど、払える?正直、払ってもらわないと私もお金がキツイねん…。」
 「おお!そうか!すまんな。払うけど、もう少し待ってくれるか?」

と、穏やかな口調だった。払ってもらえるならそれでいいし、これまでの半年間彼は一度も支払いを欠かしたことはない。少しくらい信じてあげてもいいはずだ。私もその場は「わかった」とだけ伝えた。

結論から言えば、それからの1ヶ月弱、5万円の支払いはしてもらえなかった。

いつ父の気分がよくなって、私の銀行口座に空いた大きな穴を埋めてくれるのかと、毎日モヤモヤしていた。黙っていればとうとう支払われないままだろう。父の機嫌を伺いながら催促すると、「もう少し待って」の一点張り。あまり聞きすぎると「払うって言うてるやろが!しつこいな!」と跳ね返される。その度に、なんで私が怒られてるんやろう、とやるせない気持ちになっていた。

なかば諦めていた頃、父に呼び出される。

「これ、5万円のやつな。」

やっぱりちょっと遅れただけなんだ、と安堵したのもつかの間。私の手に渡されたのは、2万円だった。

「残りはもう少し待ってくれ。」

と、父は付け加えてその場を去った。

はて、いつから分割支払いに切り替わったのか。でも、無いよりマシかとその場は受け取ることにした。とは言え、そうこうしているうちに翌月の請求書がやってくる。私は待てても、請求書は待ってくれない。

翌月の請求額は2万円。先月の滞納分と合わせると、父の支払い額は5万円。これでまた払う分が増えたわけだが、父は払えるのだろうか。もしかして、このままうやむやになって、父が使った分を私が支払うことになるとかやめてよ…と心の中で、どんどん不安が膨らむ。

すぐさま父の所に行き、そこで最も聞きたくなかった言葉を聞かされた。

 「あの…今月のETC代が…」
 「悪いけど、建て替えといてくれへんか?」

 (あ~もう。絶対これから払わへんやつやん…)

 「…わかったけど、払える時は1万円でもいいから払ってほしい。私も留学資金貯めてるから余裕はないねん、最初に言ったとおり。」

と、ため息が出そうなのを堪えて言った。案の定だった。

それからというもの、父がETC代を払ってくれるのは本当に気まぐれだった。程度で言えば、3ヶ月か半年に1回くらい、その時に”払ってやってもいいか”と思われる額を渡される。滞納額は膨れ上がるばかり。私は使ってもない大金を払うのに刻々と嫌気がさしていく。すでに成人しているので、実家にいるとは言え少しは家にお金は入れていたし、留学費用も貯めたかった。車のガソリン代(もちろん父の分も含め)、使ってもないETC代、日々自分が使うお金。最終的には、実家暮らしのはずなのに、1人暮らしなみの金額が私の口座から飛んでは消えていっていた。

こんな調子で、ETC代の請求は、新たに私の心配の元になっていった。安心できるはずの実家で、なぜか腰の落ち着けどころのない、常にお金に追われている不安な感覚に襲われるようになった。

当時私は留学費用を貯めるため、朝8時から日付けが変わるまで仕事をかけもちして働いていた。寝る間を惜しんで働いても、自分以外のところにどんどんお金を削り取られていく…もう我慢の限界!

クリスマスの夜に仕事から帰って、意を決して父に物申した。今日こそ言ってやる。

 「お父さん、あのさ、マジでETC代ちゃんと払ってくれへん?私今、全く貯金できてないねんやんか。ETC作る時にちゃんと言ったやん。ほんまなら今頃目標額まで貯まってたはずやねん。お父さんもお母さんも、お金で大変なのは分かるけど、このままやとETC止めなアカンよ…!?」

もう泣きたい気持ちでいっぱいだった。父の表情はこわばっている。怖い、が、私も引き下がるわけにはいかないほど金銭的に厳しい状況だ。どうか、理解してくれますよーに!

…………

…………

…………

私の祈りは届かなかった。

 「ETC!ETC!って、そればっかりか!払う言うてるし、ちゃんと払ってるやろが!」
 「うん。3ヶ月に1回くらいで、請求額の半分くらいは、な。でもそれは、”ちゃんと”払ったうちに入らへんよ。」
 「親を助けようという気持ちはないんか!!」
 「助けようと思ってなかったら、まずETCを作らへんよな?どこに何しに行く為かも知らんのに!私も留学したいって言うてるのに、お金貯めさせてよ。そっちこそたまには、ほんまにちょっとくらいは、子供を助けようとしてくれてもいいんちゃう?」
 「お前は、ほんまに情けない!」
 「…は?」
 「親を助けようともせずに、金、金、金って言いやがって!ほんまにしょうもない女やな!」
 「またそれかよ!しょうーもないしか言えれへんのかよ!そのしょーもない娘作ったんそっちやろ!てか、なんで私が使ってもないETC代を払い続けなアカンわけ!?絶対、私の言い分は正しいわ!ETC、止めるから!もう払わへんし、無理!」
 「出て行け!アホ!実家に居座ってるだけのくせに、そのくらい払えや!」

と、言い逃げしていく父。その背中に向かって、「逆ギレすんなや!」とだけ浴びせた。こっちは、彼のETC代も支払うべく頑張った仕事で疲れて帰ってきてるのに、なぜ逆ギレされた上、”しょうもない女”と罵倒されなければならないのか。念の為言っておくが、彼は私の実の父である。ダメ彼氏の”駄々”と言っても納得できそうな言い草だが。

その後、気がおさまらない私は母に愚痴を言ってみたが、笑い事の他人事だった。私のお金や目標なんてどうでもいいと思われているようだ。もしかしたら彼女にしたら「私なんて毎日そんなんやで」と、何を今更なことだったのかもしれない。

まじで嫌。何なん、この家族。…頭のネジ何本か飛んでるわ。心はカラッカラや。

もちろん、ETCはすぐさま解約。私が親の力になれればと思っても、向こうはそれを”当然”と思っている。なら、こちらももう知ったことではない。

クリスマスが明け、とうとう私の元にサンタさんは来なかったらしかった。いくらいい子にしていても、「バッタモン家族からの卒業」は私の靴下には収まりきらない、大き過ぎるプレゼントだったということだろうか。


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