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急性アル中だったかもしれない

私は下戸だ。

酒は一滴も飲めない。おいしくない。まずい。苦い。気持ち悪い。胸がばくばくする。呼吸がはあはあする。頭が痛くなる。くらくらする。ふらふらする。よろよろする。吐く。吐く。吐く。何度でも吐く。倒れる。そのままさようなら。

二十代の半ばで転職した際に、歓迎会で寿司屋に連れて行ってもらった。歓迎されるのは、私一人だった。寿司や刺身はうまい。世界で一番好きだ。上司がクエクエ言うので、ばくばく食べた。酒も少しばかり飲むように勧められた。私はまだ、自分が下戸だとは知らなかった。日本酒はどうかと言われて、一口くぴっと飲んでみた。

甘かった。何よ、甘いじゃん。飲めそう。自分を知らない私は飲んでしまった。上司が喜ぶ。飲めるのかお前、飲めるのか。いけるクチか。ほれほれ、もっと飲め。言われるままに、つい飲み続けてしまった。気づいたら、オチョウシ二本が空になっていた。

果たして、私は倒れたのであった。徐々に気持ちが悪くなり、息が非常に苦しくなり、顔はどうやら真っ赤になり、確実に心臓の鼓動が早くなってきた。そして、トイレへ駆け込んだ。嗚呼、刺身よ。寿司よ。全てが流れて消えていく。もったいない、高いのに(高い店だった、自分では行けないレベル)。座敷へ戻って、畳に倒れこんだ。

上司が必死に介抱してくれているが、ただそばにいるだけ以上のことはできない。横でいろんなことを呟いていたが、まったく覚えていない。心臓の鼓動がさらに強くなっていく。気持ち悪さに拍車がかかる。私は再びトイレへ駆け込んだ。嗚呼、胃液よ。腹がよじれる。本当に苦しい。冗談抜きで。私は大丈夫なのだろうか。まさかこのまま死ぬのか。今日死ぬのか。転職したばかりで、ようやく慣れてきていい感じなのに、今日死ぬのか。

歓迎会にいた年配の女性職員が、タクシーで自宅まで送ってくれた。タクシーでは後部座席を占領して伸びていた。その女性職員は助手席に乗っていた。とにかく寝てろと言われた。心臓が苦しい。息ができない。車の揺れが気持ち悪い。吐くかもしれない。タクシーで。一番嫌われる奴だ。幸い吐くことはなく、自宅までたどり着いた。

その後「この者には決して酒を飲ませてはならぬ」という、上司からの絶対の命令が各方面へ伝えられ、私はその職場に在籍している間は一切酒に手をつけずに済んだのだった。あのときの尋常でない苦しみを思い出しながら、自らが「真正の下戸」であることを確信することができた。まさに荒療治ではあったが、自分を発見するためには必要な時間であった。下手したら救急搬送だったかもしれないが。ていうか、なんで救急車呼ばなかったのよ、上司。

もしかしてあれ、急性アル中だったんじゃないの?


大人になりかけの社会人一年生よ。すでに二十歳を超えている人は自分が下戸かどうかわかっているかもしれないが、若い時分に確認できずに社会人になってしまう場合がある。

くれぐれも、急性アル中には気をつけろ。



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お題「寂寥の向こうに」
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岩代ゆい

複雑性PTSD、双極性障害2型。世界の片隅で、火を噴くようにものを書きます。読んでくれたあなた、ありがとう。あなたの作品を読みに行くよ。ご感想、お問い合わせはTwitterまでどうぞ(名前が違うからお気をつけて)。

エッセイ集

岩代ゆいのエッセイ集。特にテーマはなく雑多に。

コメント2件

同じく下戸です!
理解してくれない人が居たりすると困ります😓
おお、お仲間!!わかってくれないととてもつらいですよね!飲めない人は本当に飲めないのです……!
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