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泣きながら山を歩いたあの頃のわたしへ

いやだ!帰りたい!

わたしの初めての山歩きは、とても暗いものだった。

〜〜〜

日本には三角の形をした山が沢山ある。その山容から別名“〇〇富士”と呼ばれることが多い。私の地元、淡路島にもそれは存在していて、洲本市にある先山(センザン)は、“淡路富士”とも呼ばれている。


物心つく前、確か2歳か3歳くらい。親戚と淡路富士に登った。山頂にお寺があり、法事の時は山からおにぎりを投げるのが地元の風習だ。

車でもお寺にアクセスできるけど、その時は下の駐車場からお寺まで歩くことになったようだ。法事の黒い服を着て山を歩く。視界は薄暗く、時よりカラスの鳴き声が聞こえる。

「こわい!いやだ!おうちに帰りたい!歩きたくない!」

当時のわたしはそう駄々をこねて、おんぶを強請った。あまり記憶はないけど、薄暗い森とカラスの鳴き声、嫌だと強く思った感情は覚えている。

思い返せば、これが初めて山を歩いた時のことだった。


そのあと時は経ち、中学1年の夏、同じ淡路富士に登った。友人の家でお泊まり会をして、ホラー映画を見たあと、変なテンションで山に登ろうとなった。部活のジャージと運動靴で歩く。あまり寝ていなかったのもあって疲れが溜まる。車がないので2時間半ほど歩いた。

その時はしんどいという気持ちしかなく、山頂の景色は全く記憶にない。
ただ唯一、山頂付近の小屋で食べた田楽が美味しかったことだけは覚えている。なけなしのお小遣いで買った田楽は、今まで食べた田楽のなかで最も美味しかった。


そして自他ともに認める“山ガール”となった7年前、帰省ついでに登った淡路富士。たしかに登山道は森の中で視界は悪い。でもあの頃とは違った。

「あ、この辺りはジメジメしているから、ちょっと植物が違うな。」とか、「日の当たらない所にはお花は咲かないんだな。」とか、視界の悪い道にも沢山の気付きがあった。楽しかった。
山頂からはよく知っている街が見え、純粋に綺麗だと感じた。登って良かったと思った。

あの頃の「嫌だ」「しんどい」という気持ちを、「楽しかった」「登って良かった」に上書きできた。


〜〜〜

今、スイスの山を歩いている。車でもアクセスできる所は家族連れも多く、小さなお子さんも沢山いる。

モワリー氷河が間近に見える絶景トレイルでは、ほとんどの子供達が楽しそうに歩いている。そのなかで、泣きながら歩いている女の子がいた。

お母さんと手を繋いで下り坂を歩く。数メートル進むと大泣きして止まる。家族総出で何とか楽しませて、また歩き出す。そしてまた泣くの繰り返し。


そうだよね。ここ急な下り坂だから、こわいよね。
ああでもどうか。山を、歩くことを嫌いにならないで。
たとえ嫌な思い出として残っても、もっと大きくなったら、素晴らしい景色だと思えるから。きっとすごい場所だったと思えるから。
あなたにとっていつか、この記憶もキラキラしたものに変わるから。


泣きながら歩いている女の子と、あの頃のわたしへ、言葉を送った。




(写真は、故郷・淡路島と沼島のものです。)

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