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僕らの復讐(M-1グランプリ2022殴り書き)

井口「そもそも芸人に品行方正を求めてくるなよ、うっとうしいな。いいか、お笑いは、今までなにもいいことがなかった奴らの復讐劇なんだから。芸人の一番の目的は復讐なんだよ!」
河本「笑いをとることでしょ」
井口「え?復讐だよ?」

m-1グランプリ2020 ウエストランド決勝ネタ

どうも。こんにちは。

今年も例年同様の盛り上がりを見せた漫才頂上決戦M-1グランプリの、超個人的感想をつらつらと述べていきます!私はお笑いは「大衆演芸」だと思っており、ある程度の”わかりやすさ”を求めております。それではよろしくお願いします!

敗者復活戦

いやー寒そうでした。ほんとに。まず触れておかなければならないのは令和ロマンでしょうね。笑いの感覚基準としては比較的第七世代的でありながらも、あれをみて面白くないという人はあまりいないだろう、と思えるほどにハマっていました。笑いが連鎖して息継ぎがしづらい状況が生まれたのは、今年の敗者復活では令和ロマンだけでした。僕は。ちなみにネタは初見でした。
一通り準々決勝のネタは見ていたので、そこと同じネタだったコンビは軒並み、この敗者復活戦でのクオリティが準々決勝を下回っていたように感じました。例えばヤーレンズとか、本来どーんと受けるはずの店名のところが乗り切れていなかったあたり、外が相当寒かったんだろうなとは思います。
とまあ、今回の敗者復活戦はそこまで波乱もなく、かなり順当な感じでしたね。僕はシンクロニシティ、令和ロマン、ケビンズに入れましたが、オズワルドが勝ち上がるのは自明でした。オズワルドに入れなかったのはシンプルに当日のウケ量からもわかる通りですし、明晰夢ネタは”脚本”のクオリティが非常に高いのでなおさら、そこに笑いが付いてこなかった場合に「大衆演芸」思想の僕としては”本末転倒”だと思ってしまったからです。


決勝戦

カベポスター(優勝予想)

ごめんなさい。「カベポスタートップバッターだけはやめてくれ」と僕が神頼みしてしまったせいでトップバッターになってしまいました。完全に去年のモグライダー枠になってしまいましたね。ぶっちゃけあまり言うことはなく、普通に順番だなーと残念な気持ちでいっぱいです。ネタは最高でした。僕は多くのファンと同様にカベポスターを優勝予想していたので、早々に外すことになりました。悔しいです。また帰ってきてください。

真空ジェシカ

真空ジェシカ、末恐ろしいですよね。僕は彼らの熱心なファンではありませんが、クオリティがいつみても安定しすぎててすごいなと思います。あれだけミートして大喜利を成功してくるのは、最早別の競技のように感じます。僕が彼らを見る時にいつも抱える違和感の正体を、松本人志が指摘していたように思います。今だ末恐ろしや、松本人志。

オズワルト(敗者復活)(3位予想)

僕は彼らの決勝初登場時のネタが最高に好きです。勿論あの年に優勝に値したのはミルクボーイだったのですが、いよいよ和牛みたいな雰囲気が出てきましたよね。多分、オズワルドはクオリティ高めすぎてて、ここからあえて粗さを残す、もしくは隙を再生産する方向に舵を切るしか、M-1で優勝する方法はないと思います。

ロングコートダディ

僕は皆さんと同じくロングコートダディが最高に好きで、僕の中ではもはや彼らは完成しています。ので、出るなとは全く思わないけれど、正直M-1に出るようなレベルの芸人では既にないと思っています。M-1を下に見てるとかでは全くなく、あくまでも”これから”の漫才師を発掘する大会としてM-1を見ているので。というわけで最高に面白かったです。

さや香

5年前?前回のM-1決勝での印象が強すぎてあまりいいイメージがなかったのですが、おとといチラッと見たここ2,3年の漫才がめちゃおもしろくて、ひそかに期待を寄せていました、たぶん、ボケとツッコミのバランスが良い方に転がったのが今回のさや香で、逆が真空ジェシカなんじゃないかと思います。今回、というか近年の僕が見たネタで主にぶっ飛びボケを担っている石井さんのほうがツッコミをした場合(明らかにツッコミ顔なのもあり)、正論で詰めるツッコミに感じられてしまい悪い意味で印象が強すぎる感があるのが、新山さんがツッコミを担うことでうまくそのえぐみが中和されていて、それがなじんできたネタ終盤で新山さんもボケだす、というのが配分として完ぺきだったと思います。一本目のネタがミルクボーイに次ぐ歴代2位の得点であったことも納得です。

男性ブランコ

正直なめてました。というのも前提としてキングオブコントで初めて見た男性ブランコのネタは衝撃的に面白くて、自分のおもろいという感性にかなり肉薄したネタをされていて一気にファンになり、漫才を初めて見た時も「漫才もこんなに面白いのか」と舌を巻いたことを覚えています。ですが、今大会もしくは今年のネタ番組で観た彼らのネタの印象はノンスタイルに近く、とにかく苦い部分を排除した極めて”笑いやすい”お笑いであり、今回のこの混戦、ほかの漫才師たちとの兼ね合いを見てもその中で爪痕を残すことは難しいのではないか、と思っていたということです。予想は裏切られました。特に白眉なのは最初の八分音符のマイム。そもそも二人の物理的な距離感が完璧すぎてビビりました。完全に刺さってました。すごかった。

ダイヤモンド

さや香とともに、陰ながら期待していたもう一組がダイヤモンドでした。彼らにいたっては当日の朝ネタを見漁って、こんなに攻めたことをしている人たちが決勝にいるんだと驚いたものです。いろいろうまくかみ合わなかった、「かかりすぎていつもより抑揚がなく、声が大きかった」云々(ナイツ塙さん)、というのが結論だとは思いますが、シンプルに別のネタでもよかったのではないか、というのが僕の意見です。Youtubeにはもっと面白いネタいっぱいありました。

ヨネダ2000

いつだって若い才能の躍動にはわくわくさせられますよね。見たことのあるネタの中ではぶっちぎりに好きでした。「もっと尖ってほしかった」みたいな意見もありましたが、僕はそうは思いませんでしたね。そういうネタのチョイスが、色物で終わらず本気で取りに来ているんだなと僕には伝わったので、とても良いと思いました。英語をああいう風にしゃべって笑いをとるなんてそんな原始的なのをあの突拍子もない本筋に組み込んでくるバランス感覚が僕は好みでした。もっと高くても良かったかもしれないです。

キュウ

「めっちゃええやん」って彼らの中では一形態でしかないんでしょうね。フォーマットを生み出し続けている貪欲さはあるのに、その中でハマったものを自分たちの代名詞にするという発想はないみたいで、その不器用さが最高ですね。彼らに対しても「何故そのネタを・・・」と思ってしまいましたが、打ち上げで大悟が言っていた「キュウは清水の顔芸」は、マジでその通りだと思うし、そこに自覚的になった時最強になると思うんですが(今の知的な雰囲気が最高のフリになる)、果たして本人たちがそれを望むのかはわかりません。

ウエストランド(準優勝予想)

一昨年のM-1決勝ネタは個人的にあんまりでしたが、その後テレビやabemaでネタをみてどんどんファンになったウエストランド。あのバランス感覚は流石だし、井口のルサンチマンをみんなで笑うという構図は敵を生まなくてマジで最高だと思っているのですが、今回その最強のフォーマットを確立した彼らが、怖いものなしにひたすら思ってることを言うことで、”奥の奥”に到達していたんだと思います。こじ開けている、うねっている感覚がありました。さや香同様M-1を感じました。

最終決戦

前述したことを踏まえて、本命はさや香でしたが、奥の奥をこじ開けて、会場をうねらせたウエストランドに、審査員としては一票を投じたいという心理が働くだろうなと思ったので、結果は予想通りでした。ウエストランドじゃなければ、さや香が優勝だったでしょう。


まとめ

毎年毎年、お笑いって最高だなと思わせてくれる芸人さんには本当に頭の上がらない思いですね。一つ言うとすれば、ウエストランドのネタは”悪口”でも、ましてや”批評”でもなく「お笑い」です。故に、この2つの言葉を絡めて否定的に発せられているソーシャルでのコメントにはほぼ例外なく、全面的に同意しかねるというのが僕の立場です(同時に、この2つの言葉を絡めた肯定的に、ある種かばうかのように芸人側から発せられている言動に関しても、僕は同意しません)。井口さんは、現代社会を生きる僕らの奥底の欲望を矢面に立って表現してくれている*1し、重要なのはそれは井口さんの”使命感”ではなく、”個人的復讐”にすぎないということです。

改めてウエストランド最高でした。ありがとうございました。


*1 この欲望というのは、ネタの内容の話ではなく、ああいう風にソースも何もない、凝り固まった個人の視点から偏見を放言したいという”欲望”のことです。普通にこの時代を生きていたら、最も抑圧されていると思われる欲望です。(2022/12/21追記)


あざます