なぜゲーム実況者・KUNのYouTubeチャンネルはBANされないのか?

ゲーム実況界において異質な存在感を放ち続けるゲーム実況者、KUN
彼のYouTubeに投稿されるゲーム動画は他のゲーム実況者とは異なり、かなり“攻めた”内容のラインナップが並びます。

50人クラフト」と呼ばれる人気企画では、『Minecraft』の視聴者参加型企画を実施。50人以上にも及ぶ個性豊かな<参加勢>と呼ばれるメンバーとの動画が人気を博していますが、その内容が異質なのです。

※ KUNが手掛ける「50人クラフト」の詳細についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。

一般的な『Minecraft』の動画では、「すごい建築物を作ってみた!」「世界を探検してみた!」といった趣旨の、子どもも安心して楽しむことができる比較的ライトな題材が人気となっています。

しかし・・・

いくつか「50人クラフト」の代表的な動画をご紹介しましょう。

「50人クラフト」の異質な動画の数々

女性参加者にバケツを近づけると牛乳が取れるMODを導入しました -NEO50人クラフト#45【KUN】

参加勢に捕まったら即搾乳、かきかま追い祭り - NEO50人クラフト#47【KUN】

といった、女性の参加勢に近づくと手に入る母乳を模したアイテムを求めてプレイヤーが追い掛け回す地獄のような企画や・・・

そっちの知識がなさすぎる参加キッズにやり方を教えます -ドラゴンクラフト#49【KUN】

若い参加勢に対して性教育を施す動画、

さらには、

女の子の絆創膏を食べる ヘアピンを盗む 歯ブラシを食う参加者現る -動物園クラフト#26【KUN】

といった「ネタであって欲しいが、残念ながら事実に基づくエピソード」という『新聞記者』も真っ青な、おぞましい動画が次々投稿されています。

いずれの動画もKUNは「アッヒャッヒャ」と大喜びで参加しています。YouTubeの視聴者もこういったテーマには抵抗感を示していると思いきや「今回で好感度めっちゃ上がった。」「搾乳された回数とか表示されたらもっと面白そう笑」などとポジティブなコメントが次々と投稿され、50人クラフト界隈の恐ろしさが際立つ内容となっています。

これ以外にも政治や国際情勢、宗教を題材に扱ったり、炎上しているトピックスをKUN独自の目線で切り取る企画なども目立ち、ゲーム実況界隈においてもある種のアングラカルチャーの気配が漂うのが「50人クラフト」の特徴です。

これだけ攻めたチャンネルがBANされずに存在し続けているのは、一体なぜなのでしょうか?

「表現の自由」に埋もれがちな落とし穴

近年、GoogleやAppleといった巨大なプラットフォームについて「表現の自主規制」とセットで語られることが多いです。表現の自由と、人種差別や暴力的・性的な描写などは天秤にかけられ、大手SNSプラットフォームや動画配信プラットフォームでは、各国の定めた憲法をも超越した独自の規制をしているのではないか、と意義を唱える人々からは「GAFA憲法」とも揶揄されています。

そのため、Google配下にあるYouTubeでもこうしたトピックスは制限されたり、何かしらの規制(例えば、関連動画に表示されづらくなるなど)が行われる傾向にあるのではないか、とまことしやかに囁かれています。

しかしながら、前述のとおり攻め続けるKUNコンテンツが規制されているような気配はなく、2021年11月にはより一層視聴数を向上させるためにチャンネルを二つに分割させ、その結果、チャンネル登録者数は増え続けています。

これにはKUNの動画において守られている<鉄の掟>とも呼ぶべきルールが存在しているのではないか、ということが推察されます。

過激な動画ととられがちな内容でも犯罪行為の正当化や暴力の肯定などは一切、なされていません。また、直接的な描写(画像や動画など)も行われておらず、人種や差別といったトピックスについても言及が行われることはありません。

国際的な問題や政治に関する題材についてもあくまでも問題提起の範疇にとどまっているのです。

生放送では一般ユーザーがあらぬ発言をすることも稀にありますが、動画化するタイミングでは、黒塗りやモザイク、あるいは該当箇所そのもののカットなどを行い、明確に回避しています。

そして、何より大きいのが著作物に関する理解度と危機管理能力の高さです。ここに、KUNが動画編集者に守ることを徹底している「鉄の掟」があるのではないでしょうか。

今年に入り、国民的人気アニメに登場するキャラクターの声を真似てゲーム実況を行う配信者のYouTubeチャンネルがある日突如としてBANされてしまう、という出来事がありました。

過激な内容や暴力的な言動があったわけではないにも関わらず、チャンネルは封鎖となってしまいました。

その理由として考えられるのが、アニメキャラクター画像の無断使用です。YouTubeではやはり著作物に対する理解が甘く、画像検索によって表示される画像をダウンロードし、そのまま動画に使用することがアウトである、という認識が薄いケースが散見されます。

もちろん、こういった著作物に関する知識やルールは、学校で教えてもらうことがないため、勉強する機会が乏しく、悪気のない動画投稿者も多く、致し方ない部分もあると思われます。私も放送局で働いていなかったら分からない知識やルールがたくさんありました。

先述の国民的アニメのケースでは、動画内やサムネイルにそのキャラクターの画像を使用してしまっていたのが致命的でした。

これには、YouTube内で誤認されたまままかり通ってしまっている知識が影響しているとみられます。

キャラクターを登場させる場合、そのキャラクターや人物にモザイクをかけたり、あるいは目線に黒みを入れて「その人物ではないですよ」と表現する動画の編集手法があります。

これは「人物やキャラクターを特定していないからセーフ」という解釈のもと、多様されている表現技法ですが、残念ながら、元の画像を無断使用し、さらに加工までしているため、完全にアウト、むしろより悪質と判断されてしまうケースなのです。

テレビなどで特定の人物を描写する際に目線を入れたり、モザイクを加えたり、といった表現で面白おかしくトークを盛り上げるケースもありますが、その場合はいずれも権利元(所属するタレントの事務所など)に許諾を得ています。

アニメの権利元からすると、自分たちが許諾していないにも関わらず、勝手にキャラクターを利用し、さらにはYouTubeの広告収益を取得しているということは、看過できず、YouTube側に申告したものと思われます。

「ファスト動画」の摘発により逮捕者が出ましたが、「プロモーションになるから」「宣伝になるから」といった理由では、権利元の許諾無しでは、いくらプロモーションといえども勝手に使用することはできません。

これは、WEBで検索した画像も同様です。例えば「お寿司」の画像を使用したかったとしても、他人のサイトや写真提供サイトの画像をそのままダウンロードし、使用することはできないのです。

「Getty Images」や「PIXTA」といった写真販売サイトを利用し、きちんと対価を払う、そのうえで、使用期間や利用規定(ネットや放送、紙媒体や有償グッズなどで異なる場合がある)を遵守することが求められます。

※ 公にならない社内限定の企画書や資料に使用する分には問題になりません。

「厳しい」「それじゃ画像を使えないのではないか?」という声もあるかと思いますが、これがルールなのです。なんとしてもチャンネル登録者を増やしたい、ブレイクしたい、ともがく配信者の方々からすると、何とももどかしいのは重々理解することができます。

海外では「STAR WARS」のMAD動画やファンアートが流行った際に、ジョージ・ルーカスは規制を積極的に行わない姿勢を見せたり、日本でも「涼宮ハルヒ」シリーズのヒットにMAD動画にニコニコ動画が貢献していたり、といった文脈はありますが、まだまだ著作物の利用ハードルは高いというのが実情です。

KUNの徹底した著作物に対するリスク回避

一方、KUNは、こうした著作物を一切使用せず、BGMや画像にいたるまで、フリーのものや参加勢から提供を受けた素材を利用しています。

中世ヨーロッパの国を300人でつくる中世建国クラフト始動します -中世建国クラフト#1【KUN】

そのため、特定の権利団体がKUNのチャンネルに対して異議申し立てを行うことはほとんど考えられず、非常にクリーンな状態で動画が投稿されているのです。

KUNの動画内で他のYouTube動画を視聴するコーナーの場合、楽曲の権利が引っかかるシーンでは、無音にする対応。さらに実写動画でも意図しない楽曲が背景で流れないか、という点については徹底的に気を配っています。

作中に登場する参加勢が身に着けているスキンは、一部、特定のアニメキャラクターのものも含まれていますが、このあたりは画像をそのまま使用しているわけでもなく、また、特定の作品タイトルをもとに動画再生を図っているものでもないので、セーフという判定がくだっているものと思われます。

※ ただし、グッズ化して販売などをする際は、確実にNGとなるでしょう。以前、ヴィレッジヴァンガードがKUNに対してコラボレーションのオファーを行ったこともありましたが、こうした版権キャラクターのグッズを販売することができると思っていたのかどうかは分かりません。

このように一見、異質だったり過激だったりという印象を与えるKUNの「50人クラフト」は非常に守備力の高いコンテンツであることが見て取れます。

誰しもが無視しては通れない著作物という壁

KUNの動画を一度離れ、その他の著作物に話題を移します。

意外な落とし穴でいうと「パブリックドメイン」が挙げられます。音楽や小説といった作品は、著作権者が亡くなってから一定期間が立つと、自由に使用することができるというものです。

モーツァルトの楽曲や江戸川乱歩の作品といったものも自由に使用することができます。「怪人二十面相」を題材にしたアニメ作品やゲーム作品も特定の許諾を得ることなく、制作することができるのです。

ただし、実演家の権利というものが存在します。例えば、モーツァルトの楽曲を東京フィルハーモニー交響楽団が演奏した楽曲の場合、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏に権利が発生するのです。

そのため、勝手に東京フィルハーモニー交響楽団が演奏した音源を使用することはできません。あくまでも自分たちが演奏する分には自由、ということになります。

先ほどの「怪人二十面相」も同様で、明智小五郎という名前の登場人物を作品に登場させたり、キャラクタービジュアルを作成し、ビジネスにすることはできますが、それを題材にした作品「超・少年探偵団NEO Beginning」を勝手に使用することはできないのと同様です。

このように著作物に関しては、非常に複雑なルールや規定が定められており、YouTubeでも例外なく、遵守する必要があるのです。

特に最近は「APEX」や「VALORANT」といったゲームのカスタム大会が開催されることも増え、出場するハードルも下がる傾向にあります。

その際、出場プレイヤーが自身のアカウントとして特定のアニメキャラクターの画像をそのまま使用しているケースが散見されます。

もちろんこういった個別の事象に対して、権利元がひとつひとつ目くじらを立てたりするほど余裕があるとは考えづらいですが、権利元と日々、取引のある企業からするとそうはいきません。

例えば、テレビ局が主催するゲーム大会があったとします。そこに国民的なアニメのキャラクターを自身のプロフィール画像として使用しているプレイヤーが参加を希望した場合、締め出しを食らってしまうでしょう。

なぜならテレビ局はそのアニメのキャラクターの権利元の出版社やゲーム会社と取引を行っている以上、無断でキャラクター使用を行っているプレイヤーを黙認したことと同義になってしまうからです。

このように直接的にゲームアカウントがBANされることはなくても、オフィシャルな大会やより大きな舞台で活躍する、といったことが難しくなってしまうため、結果的に不利益を被ることとなります。

出場機会を求めるユーザーは、自身のプロフィール画像に特定の著作物を使用することは避けることをおススメします。

最近では、プロフィール画像を書いてくれる絵師もどんどん活躍の場を広げており、有償だとしても、こういった方に依頼することでリスクを回避することができるとすれば、長い目で見れば得策を言えるでしょう。

ちなみにKUNのTwitterのプロフィール画像は、メイド服を着用し、たばこをふかす自身の写真、ということで著作物に全く触れていない完璧な状態となっています。

長くYouTubeと付き合っていく以上、動画のトークテーマや題材だけではなく、著作物に関する知識を身に着けることは、トーク力や動画編集力とも並ぶ非常に重要な守備スキルと言っても過言ではないでしょう。

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筆者プロフィール
大原 康明(おおはら やすあき)
1989年生まれ。神奈川県出身。テレビ局勤務。
番組制作部門でドキュメンタリーや音楽番組、コント番組、ドラマなど数々の番組でプロデューサーを務める。現在は、新規コンテンツ開発、イベント開発などを担当。気になる参加勢は「つぶ貝」。
Twitter:https://twitter.com/OharaSpeaking/

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