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”最古の大勝軒”はレトロな街中華(浅草橋 大勝軒/浅草橋/中華)

大勝軒というと、東池袋の ”中華そば・もりそば” の大勝軒が頭に浮かぶと思うが、実はこの屋号を使っている大勝軒はあそこがオリジナルという訳ではない。
サラブレッドのような言い方をすると、東池袋のあの大勝軒はそもそもは丸長系であり、その後に東池袋大勝軒系として広まって行った。

だが、そうした流れとは全く別の大勝軒もあり、その代表的な存在が人形町系の大勝軒だ。丸長系は戦後の焼け野原から始まったお店だが、何と人形町大勝軒は創業が明治時代にまで遡る。大勝軒という屋号の由来も「日露戦争に勝ったから」という説もあり、大勝軒系としては最古と言っていい存在である。

そして、この人形町大勝軒系には、東池袋大勝軒系とは全く違う特色があり、「ラーメン屋」ではなく純然たる「街中華」なのだ。

この人形町系は、本家こそ今では職変えして喫茶店になってしまっているが、それ以外の大正~昭和初期に創業したのれん分け店のいくつかは、茅場町・馬喰横山・三越前……と、今でも日本橋エリアを中心として街中華として生き残っている。
※読者様からのツッコミで、馬喰横山・東日本橋駅近くの大勝軒と三越前の大勝軒は閉店していると教えられました。三越前大勝軒はつい何か月か前に閉まってしまったそうです……。

前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するお店は、そんな人形町大勝軒系のひとつ、浅草橋の大勝軒でございます。

見てこの年季の入ったビルを。どう見ても昭和の時代から生き残って来たと分かる外観だが、人形町系の大勝軒はどこも街中華としては考えられないほど歴史が古く、この浅草橋大勝軒は比較的新しめなのに昭和21年創業。

なんたって本家が明治創業で、茅場町や馬喰横山の大勝軒は大正生まれ、三越前の大勝軒は辛うじて昭和だけど昭和8年と、どこも建物含めてガチレトロなのである。
もしお暇なら、人形町大勝軒系のお店を巡るお散歩でもしてみてはどうだろう。自転車があればすぐ回れる範囲にあるので、ぜひ一度それぞれの建物をその目で確認して欲しい。

外観がレトロなら店内もレトロな訳だが、面白いのがこれくらい歴史が古い街中華だと、内装がいわゆる中華屋という感じではない。定食屋だの蕎麦屋だのと言われても全く違和感がない。

おそらく、日本人の間で「中華といえばこんなん」というテンプレートが固まるより前に出来た店って事なんだと思う。

メニューは少数精鋭なのだが、一部を除いて適正価格。ラーメン550円の店なのに、クラゲ酢1,100円という値付けがちょっとよく分からん。何がどうなると値段が高くなるのか理解が及ばなかった。これが歴史の重みか。

それはそうと、この店ではメイン料理に小皿をプラスするタイプのセットがとてもお得。例えば、ラーメンに300円プラスすると白飯とおかず(選択)が付いて来たり、炒飯が付いて来たり。

今回は1人だったので、ド定番という事で半チャンラーメン(850円)を頼んでみた。

ランチタイムだったのだが、半炒飯は作り置きではなく、わざわざ半分量を炒めて作ってくれた。そのお陰でしっとりとパラパラのいいとこ取りといったクオリティ。この炒飯は1人前の量で食べたかった。
味付けはいわゆるラードで炒めて塩胡椒で調味という感じなのだが、熟練の技なのか一味違う。なんだろうこの落ち着く味わい。

そうそう、上で紹介した300円小皿と炒飯のセット(850円)なんて頼み方も出来るので、ラーメンより炒飯派という方にはそっちがオススメかも。それに瓶ビールでも組み合わせて昼間からハッスルしてしまいたい。

見てこの黒いスープ。懐かしいなあこの 「THE醤油!」ってな色合い。
一口スープをすすってみると、獣っぽさはあまり感じず、かといって魚介って事でもない。それでも旨味はしっかりしていて「あれ、そういや昔のラーメンってこういう味じゃなかったっけ?」と思い出させてくれた。

上手く喩えるのが難しいんだけど、街の中華屋というより、街の蕎麦屋で出て来るラーメンに近いのかもしれない。昔はラーメンからオムライスから、何でもやる蕎麦屋が多かったじゃない。そういう店で出て来るタイプの醤油ラーメン。

麺は殆ど縮れのないストレートな細麺で喉ごしヨシ。シンプルあっさりかつ醤油の風味の立ったスープとの相性の良さを感じた。どことなくお蕎麦の味の作り方にも似てるんだよね。

という訳で、今では減る一方の由緒正しい街中華なので、大事に通いたいなと思った次第でございます。

[店名] 浅草橋 大勝軒
[住所] 東京都台東区浅草橋2-28-10
[TEL] 03-3851-1952
[営業時間] 11:00~21:30(15:00~17:00中休み)
[定休日] 日祝


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