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おはぎの話


いつブリーダーさんのところに顔を見に行っても、ほかの兄弟はみんな遊んでいるのにすみっこで踏みつけられながら寝ていたり、みんなはごはんを食べているのにひとりで遊んでいたり、そのマイペースさがとてつもなくかわいくて、同じ時期に生まれた、母犬違いのきょうだいを含め十数匹のなかから、家族で何度も会いに行って、小さな柴犬のおんなのこを家族に迎え入れたのはちょうど、2年前の秋のこと。

我が家はちょうどその年の冬、14年ともに暮らしたしばいぬの女の子を老衰で亡くしたばかりで、そりゃあ14年も一緒に暮らしたものだから、家族の悲しみも寂しさもひとしおで。

よぼよぼしながらも、それでももう少しは元気でいてくれるかな、と思っていた矢先の、本当に急な旅立ちだった。両親は口をそろえて「こんな想いをするから、もう犬は飼わない」と言っていたし、亡くなってすぐのころは、わたしも同じ気持ちだった。

もういないはずなのに、そこにいる気がする。

たとえば夜更かしをした日、あつい紅茶をふうふうしている時の足元だったり、休日の昼下がり、雑誌を読んでふと顔を上げたとき、廊下をカシャカシャと歩く足音を聞いた気がしたり。

心細さに根を上げたのはわたしがいちばん最初。帰って抱きしめる相手がいない暮らしは、想像よりずっとさみしかった。

先代犬「メルさん」は、とてもクールな犬だった。日本犬らしいというかなんというか、つねに人ふたりぶんくらいの距離をあけて寄り添う女の子で、我慢強く、すこしだけ頑固で、亡くなる前日、すっかり足腰が立たなくなっても散歩に出かけたがって、外でおしっこをしたがった。

家では絶対に粗相をしない子だったので、最期まで嫌だったんだろうね、頑張り屋さんだったよね、とはいまでも家族みんなで話をする。

新しい家族「おはぎ」は、そうしてメルさんを亡くして半年とすこしほど経ったころ、我が家にやってきた。

誰にでも一発で覚えてもらえる名前はわたしがつけた。

おはぎ、こむぎ、ちまき、きなこ。

名前をなんにしようと家族は沸き立った。

最終的にわたしが出したおはぎと妹が出したちまきで、どちらにしようという話になった。ちまきもなかなかにかわいい名前なので、もし次に家族を迎えたり、それかおはぎが母犬になったときは、いっぴきはちまきにしよう、ということになっている。

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我が家にやってきた日、不安そうにすみっこで丸まっていたおはぎは、いまや人間のベッドを我がもののように陣取り眠り、誰より早く二階に上がり、人間が眠りにやってくるのを部屋の主人がごとく待っている。

そんなおちゃめでたのしいおはぎの話をいつ何時でも吐き出せる場所がほしかったので、思い立ってノートを立ち上げてみました。

気が向いた時、ちょこちょことおはぎの日常やおもしろかったことなど話していきたいと思います。


それでは、一番目はこのあたりで。


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