スタジアムへ行く前の3本勝負

私はサッカーが好きだ。
Jリーグが誕生した1993年から清水エスパルスをずっと応援している。ちなみに旦那さんもエスパルスのサポーターで出会いは当然ながらスタジアムだった(もう20年ほど前の話ですがね)
それはさて置き、今年もJリーグの開幕がやってきた。すでに第1節が先週末に開催されているのだが、実はサポーターはこの日を迎えるために様々な葛藤と勝負を経ている。それを今回はお話しようと思う。

まずは昨年の末に前シーズンが終わるとすぐ始まる契約の更新、退団、引退、新戦力の入団……とチームの正式発表に一喜一憂する。
贔屓の選手が移籍したらどうしよう?と友達に言われるが、こればっかりはどうしようもない。好きすぎて移籍先まで追っかける人もいるけれど。
そんな話を「へー」と聞きながら、今年はどうなるんだ?と旦那さんと話したりもする。

これが1月末から2月になると試合日程が発表される。
基本的にJ1なら土曜日開催でJ2やJ3は日曜日開催となるが、日本代表の強化試合やルヴァン杯の日程によっては平日の夜に開催するもある。それに昨シーズンから金曜日の夜に先行試合が開催されることになったので、夜の試合が増える場合もある。
ちなみに加盟数はJ1が18チーム、J2が22チーム、J3が15チームとなっている。
J1では年間35試合+ルヴァン杯+天皇杯で少なくとも40試合を戦うことになる。が、前年のJ1リーグ成績上位3チームと天皇杯優勝チームはAFCチャンピオンズリーグというアジアのクラブ上位国とのリーグ戦も間に組まれているので、よりハードな日程となるのだ。

この日程が第一の勝負どころとなる。
ホームゲームはいつか?
アウエーはいつ、どのチームと当たるのか?
今シーズンはどれだけ参戦することが出来るか。
この話題で軽く数時間は葛藤するのである。

ホームゲームなら何時に家を出て、帰りはどのルートを行けば渋滞に引っかからずに帰れるのか、を考える。ある人は電車かもしれないし、車かもしれないし、自転車や徒歩というケースもあるだろう。車なら駐車場の確保は最優先事項だ。できれば満車のことを考えて複数の候補があるといい。駐車場がなければ遠い場所に止めて、バスでスタジアムへ行くしかないな、とか。ある程度のシミュレーションも必要だろう。
アウエーの試合へ行くのならここは日帰り、ここは泊まりで翌日は観光して美味しいもの食べて……と計画を立ててゆく。ひとりでもいいが、気の合う仲間と行くのも楽しい。
そうなると、宿と交通手段は早く抑えないといけない。新幹線なら直前でもまぁ何とかなるが飛行機ではそうも行かない。それでなくても今年はGW近辺が10連休になるため、他のレジャーに行く人と争奪戦をしなくてはならないのだ。
宿泊先にしても日時によっては「うわ、宿がない!」という事態を引き起こす。アーティストのライブと重なった日には離れた場所しか空いていないこともままある。特に某国民的アイドルと重なってしまったらもはや絶望しかない……。
学生の頃って金はないが時間はそれなりにあったので、GWや盆暮れ時の渋滞に巻き込まれなければという条件はつくが、誰かの車に乗り合いで行くのが一番安く、そして楽しかった。対戦カードによってはバスをチャーターして人数を集めて乗り込むこともあるが、最近はないなぁ……とこの文章を書きながら遠い目をしてしまう。
周りには九州まで車で行く猛者もいるから、その辺は好き好きなのだと思う。 高速代とガソリン代を割り勘にすればかなり安くなるから、と車で日本中を飛び回るサポーターを何人も知っている。

もう10年以上前の話だけど前日の夜に東京へ集合して、夜に高速道路を飛ばして新潟へ行って、早朝についてから軽く観光してからスタジアムに移動し、夜にサッカーの試合を観てそのまま車で帰るという事を仲間達とやったことがあるが、今では絶対にできない(笑)
あの頃は本当に若かった……。

閑話休題。
年間スケジュールを組んでから、第2の勝負どころが職場である。
誰もがみんな土日祝日と休めるわけではない。医療従事者でシフト制の私はいちいち希望休みを伝えないとならない。しかも大抵は月に2日ないし3日以内にね、と釘を刺される。夜勤明けでスタジアムに行って現地で仮眠とか、半日で終わらせて駆けつけるとかそれぞれにやりくりに苦労している。それは仕事あってのサッカー観戦なので致し方ないのだが。
うちの旦那さんは、上司に「サッカーへ行くから週末は休む!」と言い切って仕事を自分の予定に合わせている(その分無遅刻無欠勤と絶対に穴はあけないから、許されていると思われる)が、あくまでこれは例外だから良い子は真似をしないように。
仕事と折り合いをつけ上司にぶつぶつ言われながらも休みを取る。中には身内の不幸と言って休む人もいたりする……昔、遠征先から「忌引きで休みます」という連絡をした猛者がいたが、これも万が一の時に休めなくなると困るので推奨できません。
ただしエスパルスの地元・清水では「サッカー?行ってらっしゃい!」と好意的に送り出してくれる会社が多かったりする。さすがはサッカー王国(実体験込み)

これで行ける……のではない。第3の勝負は家族である。

我が家のように夫婦で同じチームを好きだったら問題ないのだが、夫と妻で好きなチームが違ってしまうと「この日は夫、この日は妻」と調整する必要が出てくる。勝った負けたで夫婦喧嘩の元になるかもしれないし、サッカーにのめり込みすぎて離婚した、という話も聞いたこともあるし、趣味の範囲を超えるのは危険だと他人事ながら思うのだ。
もっと困るのは家族がサッカー観戦を歓迎しない場合である。これは実家の母がそうだった。私が実家にいた頃、サッカーへ行くと言うと「またサッカーなの?」って言われたものだった。禁止、ではないのだが「遊んでばかりいないで勉強しなさい」が大きかったのだと今ならわかるけれども、アルバイトしてチケット代などを捻出していた身としては余計なお世話と思ったものだ。
真面目で通っていた私がただ一度だけ1996年のヤマザキナビスコ杯決勝戦が行われた時、病院実習をこっそりと早退して国立競技場まで行ってしまった。優勝を間近で見られたのはよかったのだが、家に帰ったのが深夜になってしまい、翌日の実習がヘロヘロになってしまったのも、今ではいい思い出となっている。

この他にも長い間サポーターをしているから、サポーターの常識は世間の非常識というか、もう思い出せばキリがないくらいに勝負への執念……というか情熱が行きすぎたエピソードはたくさんある。
相手チームのビジターチケットを取るためにコンビニの券売機を占拠したり、開門前の場所取りのために早く家を出たり、夜勤明けで寝ずにスタジアムに行ったり、朝から酒盛りして飲みすぎて寝てしまったり、試合を見ずに帰ってしまった友人もいたり……。興味のない人から見たら何でそんなことまでしてサッカーへ行くの?と思うだろう。
目的はただひとつ。
俺たちのチームの勝利をスタジアムで見たい。
ただ、そのためだけにここまで頑張るのがサポーターなのだ。
本当にバカしかいない。
私もそんなバカのひとりだ。
バカで結構。好きじゃなければここまでやらん。
もう20年以上当たり前のようにやっている。
スタジアムから離れた時期もあったけれど、あの歓喜の瞬間をまた味わいたい。仲間と分かち合いたいと、結局戻ってきてしまう。それはずっと変わらないんだろうな。

さあ、今年はどんな勝負が見られるのかな。

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