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夏だから少しコワイ話

昔から怖い話、いわゆる霊やらおばけやら不思議なものが好きだった。
語り部としての才能もなかなかのものらしく、わたしが怪談話をすると皆が黙り込み、固唾を飲み息を殺し、最後のオチのところになるとうわ〜!ぎゃ〜!!!と悲鳴が教室中に響き渡った。
もうやだ!夜トイレに行けなくなる!
お風呂に入ってる時、鏡が見られなくなる!
夜眠れなくなっちゃう!
ありとあらゆる恨み言を聞きながら一人けけけと笑っていたものだった。


大人になってからはそんな話をすることもなく、そういうものから遠ざかっていたのだが、パート先でそれは起こった。
(パート先でいろいろあった話はこちら。よかったらお読みくださいね)

その店舗は以前は全国チェーンの電気屋さんだった。
撤退した後に居抜きという形でそこにすっぽりと出店した形だった。
店舗は2階で1階は買取してきた家具や什器置き場、バックヤード、そしてゴミ置き場として利用されていた。
もちろん外部からはシャッターを上げない限り入ることは出来ない。


わたしはその場所が嫌だった。
古い姿見が置かれていたり、その奥にあるトイレも、荷物も段ボールに何個も積み重なられていて埃っぽかった。
空間がねじれているような眩暈を誘うような空気感、照明をつけても薄暗く感じられ、そして誰かに見られているような視線を感じていたたまれなかった。


その日も商品が店に出されて段ボールが何箱も空いたので、それらを縛って階下に下ろさねばならなくなった。
ついでにゴミも載せた台車を押して古いエレベーターの前まで行き、↓を押す。
1Fにランプが止まったまま動かない。
誰か乗ってくるのかとぼんやり思って見続ける。
2Fにランプがついた。
すぐに開くはずの扉が開かない。
あれ??故障かしら。この荷物を階段で下ろすのは大変。
そう思った瞬間、誰かが頭をポンと触った気がして振り向いた。
誰よ〜。

笑顔で振り向いたが誰もいなかった。


その瞬間、チンと扉が開いた。
ビクッとして狐につままれた顔のまま、仕方なく台車を乗り入れる。
古くてガタガタいうエレベーター、年季の入ったそれには安全確認のための鏡がちょうど
上の角についている。
見ちゃダメだ。
誰かが鏡の中からこちらを窺っている気がする。
そういう時の勘は当たるのだ。


心を無にする。
きっと誰かが一緒に乗っている。
見えないカオナシとか。
心を無にしてゴミ袋に集中させる。
チンと音がして扉がごわんと開く。
いつになく薄暗いぼんやりした明るさ。押しつぶされるような圧迫感が凄い。
やばい。
早くここから立ち去らねば。
無心でゴミ袋を投げ飛ばす。段ボールもうりゃあと投げる。
台車を急いでエレベーターに突っ込み、2Fを押し閉ボタンを押しまくる。


いつもよりゆっくり閉まり、ガタガタと上へ昇っていく。

いる。間違いない。


それがゴキブリであっても構わない。
むしろゴキブリであって欲しい。
上についている丸い鏡の存在を心の中から消す。
早く2Fへ着いて!
これで扉が開かなかったら洒落にならん。
幸い扉は開いた。
台車ごと飛び出す勢いでダッシュで店内に戻る。
その話をパート仲間に聞いて聞いてと話しまくる。


するとひとりが声を潜めて小声で囁いた。
オラヴちゃん、見て。
彼女の手首には魔除けの水晶のブレスレットが二重に巻かれていた。
ここ凄いよ。

霊の溜まり場だよ。


ああ、だから負のオーラが漂って、人の悪口ばかり言う人が増えたのか。
早くここから脱出しなくては。
わたしはまもなく退職し、今はのんびりとお茶を飲み、おやつを食べながらこうしてnote三昧できる職場でのんびり過ごしている。


でもそうとばかりはいかない。
まだ鍵のあいていない自動ドアが人を感知して鳴る音がしている。
ピンポーンピンポーン。
いったい、まだ朝だというのに誰が入ってきたのだろう。

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