見出し画像

2冊目の本『絶望しないための貧困学』が発売されました!

本日(7月9日)、僕自身にとって2冊目の単著となる『絶望しないための貧困学』が発売されました。

この本は、2015年に初単著として刊行した『すぐそばにある「貧困」』を、新書化したものです。
新書化にあたり、一部、加筆しているほか、データ等をアップデートし、巻末で表紙のイラストを描いてくれている漫画家の柏木ハルコさん(小学館ビッグコミックスピリッツで『健康で文化的な最低限度の生活』連載中)と対談もしています。

実は、初の単著となる『すぐそばにある「貧困」』を出版したあと、正直、なかなか次の本が書けず。依頼をもらっても遅々として進まないことが続いていました。

2017年には、合同出版から〈もやい〉として『先生、貧困ってなんですか 日本の貧困レクチャーブック』を刊行し、この本はかなりの部分を僕が書いているので、まあ、執筆したと言えるのですが、単著ではなく。(名義も団体名なので)
2018年には丸山里美編『貧困問題の新地平 〈もやい〉の相談活動の軌跡』(旬報社)で第1章を書きましたが、まあ、これは一章分しか書いていないので。

本の執筆依頼はいくつかの出版社からいただいたり、そのなかで進められそうな話もあったりはしたのですが、自分のなかで書くべきルートが見えなかったというか、迷いがあったのは事実で、理事長をつとめる〈もやい〉の団体運営や、貧困問題をめぐる発信や政策提言に追われ、着手できずにいました。

そんななか、『すぐそばにある「貧困」』の出版元であるポプラ社より新書化の話をもらいました。最初は一度出した本なのでもう一回出すのはどうなんだろう的な戸惑いがあったのですが、あらためて自分で自分が書いた本を読み返してみて、原点に帰ることができたというか、気づくことができたことがあったので、新書化の話をお引き受けすることにしました。

■支援の現場のリアルを描く

『絶望しないための貧困学』は、副題を、ルポ:自己責任と向き合う支援の現場、としています。この本では、僕自身がなぜ貧困問題に取り組む活動を始めたのか、そのきっかけとなるストーリーや、2010年頃からの路上や生活困窮者支援の現場を描いています。

初めて参加した新宿での「炊き出し」と「夜回り」。ホームレスのおじさんと待ち合わせをして初めて福祉事務所に行って、「生活保護の申請同行」をしたときのこと。ホームレスの人の「おうち」にお邪魔したり、貧困ビジネスのような「施設」に行って実態に驚いたり、一緒に「アパート探し」に奔走したり。

毎日のように都内各地で相談支援の活動に携わって、そこで出会ったいろいろな人たちのこと、僕自身の葛藤や失敗、というか支援の「成功」ってなんだろう、みたいなことも含めて、正直に、率直に、かっこ悪いことも含めて描いた本です。

この本にでてくる人々は、実際に出会った人々をモデルにしています。もちろん、さすがにそのままではなくて、何人かの人を組み合わせたり、印象的なできごとを組み合わせたりして物語にしていますが、一つひとつのセリフや、そこで見た風景や出来事は、いずれも実際に起こったことをベースにしています。

相談の現場で出会う人々は、さまざまな苦しさや課題を抱えていることが多いのですが、当然、彼ら・彼女らは社会課題という「記号」ではありません。

一人として同じ人はいませんし、それぞれが個別の事情や理由を抱えているものです。もちろん、生活困窮する背景には、「社会課題」がたしかに存在しますが、人生のさまざまな選択において、時には「自己責任」と呼ばれるような出来事や、過ちをおかして貧困におちいる人もいます。滑稽なできごともあれば、むしろ、こちらが悲しみに打ちひしがられることもある。そういったことも含めて、生の言葉、生の出来事、生の感情(その人のだけではなく僕の感情も)にこだわって、書いた本です。

そういった意味でも、僕にとっても思い入れも強く(それはこの本自体が僕自身の成長物語的にも読める側面だからというわけではなく_これは濱口桂一郎さんに評されたのですが)、あとがきにも書いていますが、相談や支援の現場で出会った人々からバトンを託されたような想いで書きました。そして、それは今も変わりません。

■貧困をめぐる状況は変化をしたのか

2015年にこの本を最初に書いたときから4年経ちましたが、貧困をめぐる状況はどう変化したでしょうか。
この本の冒頭で、2006年の竹中平蔵さん(当時、総務大臣)の言葉を引用しています。

「貧困が一定程度拡がったら政策で対応しないといけませんが、社会的に解決しなければならない大問題としての貧困はこの国にはないと思います」(朝日新聞2006年6月16日付)

この10年、もしくは、15年で、貧困をめぐる社会の状況、環境は大きく変化しました。

いま、日本に貧困がない、という人はほとんどいないでしょう。政府もさまざまな政策を始めていますし、民間の取り組みも少しずつですが拡がっています。特に、子どもの貧困の分野では、予算がついたり、地域での実践や、支援団体の取り組みの拡大も著しく、限定的ですが給付型奨学金が創設されたり、これまでなかった施策の流れもあります。

では、日本の貧困はこのまま解決に向かうのでしょうか。
残念ながら、僕はそう簡単であるとは思いません。(もちろん、解決に向かうにこしたことはないですが)

■「自己責任」と切り捨てても問題は解決しない

たとえば、給付型奨学金は創設されましたが、現状ですべての子どもが利用できるわけではありません。予算の限りがあり、成績要件などで一部の子どもに限定されます。もちろん、政策で「全員に対して無条件に提供する」ものでない限り、かならず線引きが生まれます。しかし、その線引きは政治的で恣意的です。(財源とか社会の理解とかに影響されます)

そして、線の内側に入れた子どもと外側に残された子どもは一体何が違うのでしょうか。決して、努力の結果といって切り捨てることが合理的であるとは言えないでしょう。「自己責任」と言うのはあまりにも冷淡です。

では、すべての子どもが無償で進学できたり、給付を受けて学業を続けることができる社会になるかと言うと、「努力していないやつに税金が使われる」「財源が足りない」などといった意見によって妨げられてしまいます。

僕には、これらの議論は「記号」をもとにした実態をともなわない空虚なものにしか思えません。実際に、そこで制度からこぼれて進学をあきらめることになる子どもたちは、僕にとっては何百人、何千人という数字ではなく、一つひとつの人生であり、名前と顔を持つ大切な友人であり、同じ地域や社会で生きる仲間だからです。政策を議論するときには「記号」で語りがちですが(僕も記号で語ることが多いので自己矛盾もありますが)、その「記号」が持つ意味について考えることも重要です。そして、人はえてして相手が「記号」になると冷淡になり、容易に切り捨ててしまいがちです。

そして、この本の末尾の対談で強調していますが、「自己責任じゃない人はいない」という想いも、こういった背景からきています。そして、「自己責任」と切り捨てても問題は解決しません。
むしろ、社会の分断を進め、一方で、まったく支援が存在しないわけでなく限定的な支援でもその恩恵に授かる人も存在するわけですから、結果的にある一面でしかない「現実と乖離した物語」を紡いでしまうだけだとも思います。

■その人の物語をどう読むのか

数年前にあるラジオ番組で生活保護削減を牽引していた国会議員と対談する機会がありました。(対談と言うよりは「バトル」だったかもしれません)
そこで、その議員は、「私がある人から聞いた話では○○という生活保護利用者がいて……」「私の地元の支持者が言うには生活保護利用者が○○をしていて……」と、自らの主張を正当化するために「人から聞いた話」をもとに語っていました。

その議員が語る「不正受給」や「不逞外国人(嫌な言い方ですね)」「怠惰な生活保護利用者」は、その議員が言うように、実在する人物かもしれません。この本に登場する人々も、味方によっては、凶悪な人や、違法なことをした悪い奴、税金泥棒や自己中心的な人々に見えるかもしれません。でも、それは、その人の「一面」にしかすぎない、僕はそう思っています。

重要なことは、物語を読み込み、要約し、ある特定の解釈をしたものを提示することではなく、できるだけ生の状態で、物語を読んでもらい、それぞれの読み手がどう考えるか、どう感じるかを提供することなのではないか、と考えます。
もちろん、僕も支援者であり活動家なので、僕のフィルターで描いていますが、この本では「不都合なこと」もできるだけ起きた出来事に忠実に残したつもりです。(もちろん、特定のバイアスがかかっていることは否めませんが)

その人の物語をどう読むか。その積み重ねが、私たちの社会の在り方について考える時に、貧困問題について考える時に、大きなヒントになる。そういった願いから、この本は描かれています。
そして、そうした一人ひとりのさまざまな物語から積み重ねられた「記号」をもとに、政策の在り方や支援の在り方を議論する、そんなことができたらいいなと思っているのです。(まあ、なかなか実際には難しいことは理解していますし、少し理想論過ぎるかもしれませんが)

このあたりのことは、実は、新書化にあたっての「はじめに」でも書いています。
これ以上書くと、ネタバレ的でもあるし、ある意味、まだ未読の方は、僕の「色」がついて読んでしまうと思うので、このあたりで控えたいと思います。

少し長くなってきたので、そろそろしめますが、『絶望しないための貧困学』は、僕にとって、ぜひ読んでもらいたい、大切な本です。

『絶望しないための貧困学』、想いをこめて出版しました。ぜひ手に取っていただけたらと思います。また、読んだうえで、感想や意見を寄せていただければうれしいです。

大西連

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?