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#176『なつかしく謎めいて』アーシュラ・ル=グウィン

 私に物語というものの力強さ、素晴らしさ、可能性を教えてくれた作家はミヒャエル・エンデ、アーシュラ・ル=グウィン、ポール・オースターの三人であった気がする。その頃の自分の貧相な想像力や陳腐な表現力のはるか先にこの人たちはいた。大学生の頃のことである。
 本書はお気に入りの本で、多分今回で4回目くらいである。再び楽しむことが出来た。もっとも年齢を重ねたせいで、ちょっと退屈だったり大袈裟だったり作為的すぎたりという印象を持つものもあった。本書は短編集なのである。でも総じて良い作品で、知性とユーモアに満ちている。過去に読んで良いなあと感じた所は変わらず良かった。それはどういう所なのかというと、話のひねりとか仕掛けではなくて(どっちかと言うと、その辺りのことは不手際を見抜けるくらいに大人になってしまった)、著者の息遣いとか感情が感じられるそれとない部分だった。「ここで改行するんだ」とか「いいなあ、この言い回し」とか、そういうちょっとした部分である。
 本書は全て、こしらえられた空想なのだが、著者の饒舌が際立っている。ちょっと滑り過ぎている時もあるにはあるが、読んでいて素朴に「楽しかっただろうなあ、こんなに空想を逞しくして」と感じた。
 この本を初めて読んだのは23歳とかそれくらいの頃だった気がするが、そののち、自分もまた空想の世界に浸って物語を書くようになった。勿論、こちらはただの素人である。しかしもう一つの世界を思い描いて、その中に入っていき、逍遥する。これは恵まれた幸運というもので、著者もまさしくそのように感じ続けていたのであろうということが、いくつかの小品から伝わってくる。生きている間にあと一度くらいは読み返す気がする。

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