#212『さんさんさん』佐々木志穂美

 三人産んだ子が三人とも障害児という母親の手になる本。どうあろうと、誰であろうと、「ただ、生きている」ことの素晴らしさがずしんと重たく心に入ってきて、たびたび目頭が熱くなった。
 肯定的なメッセージに満ちており、健常者には学びになり、障害者とその家族には大きな励みになると思う。本書に綴られているのは素晴らしい記録である。

 で、その上で、なのだが、文章が…という感じである。気にならない人にはならないと思うのだが、かなりの自由型というか、まあブログにありがちな文体で、私は苦手である。全体的な構成も、もう少し整理しても良かったのではないかとも思う。
 見ると新風舎から出た単行本を、新潮社が文庫化したという格好なのだが、この新風舎という会社、素人に金を出させることで本にして差し上げますという業態で確かに当時「新風」ではあったが、結局そういうビジネスモデルなので、ちゃんとした内容に仕上げようという意志と矜持はほとんどない。それがそのまま感じられる出来となっている。
 なんでそんなことが私に名言できるかと言うと、同業の「文芸社」から金を積んで出版したことがあるからです(笑)だから手の内が分かるのです。
 本書は「金を積んで」ではなく、新人賞を取った上での出版なのだが、だからと言って、出版社の仕事に対する姿勢がそれで変わる訳ではないので、結局、出来はぬるいものとなっている。
 まあ、しかし文体なんぞに不満を読者なんて、いないか。内容が大事なんだしね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?