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「面とあんこ」

中国東北部の旧満州、瀋陽の南、海に近い街に合弁会社をつくった。胡錦涛から習近平に交代したころ。政府への申請手続きや会社の立ち上げで毎月のように通った。近くても文化が違う国。餃子や地元の食材に興味があったこともあり、そこからも中国という国を理解しようとした。

餃子は水餃子。山盛りの一皿は500グラムで、200円から300円と安い。寒いところだから、あつあつを食べると生き返る。日本で食べなれたのと比べ皮はやや肉厚、これが主食だから「餃子ライス」はない。「あん」の種類も豊富で、豚、羊、アヒルの肉、白菜やニラなどの野菜やキノコなどがたっぷり。安いからどんな肉や野菜が入っているか疑ってしまう。香辛料を強くすれば臭いも隠せる。

「トラもハエもたたく」という反腐敗キャンペーンが始まった頃のこと、月餅の売上げが落ちた。このお菓子は外皮が薄い面で、中に「あんこ」が入っている。あんこは、小豆やハスの実、アヒルの卵などが代表的だ。中秋の贈答品で賄賂の定番、現金を見えないように二重底の下に「あんこ」にして入れた。

小麦粉でできたものを面(メン)という。たとえば麺。昔は小麦粉を水でこね、少しずつ、コヨリを撚るように細く長く伸して紐状にしてつくった。だから麺は面条(メンタオ)。粉を練ってパンのように蒸した饅頭(マントウ)は面包(メンパオ)。名の通り面を包みあわせたもの、「あん」がはいったものとないものがある。餃子や小籠包など、中のあんを面の皮で包んだ小ぶりのものは包子(パオズ)という。

合弁会社をつくる前は、中国から輸入していた。日本に着いたコンテナを開けてみたら、約束とちがうものが入っていたことも一度や二度ではない。中の「あんこ」の姿を見ずに取引ができない時代でもあった。ひとつひとつ、包を開いて確かめる、なら、自分でつくろうと工場をつくった。その頃からみれば、彼の国はめざましく成長して世界の経済大国になった。

新彊ウイグル地区での人権問題、新型コロナ発生起源の武漢調査、政府の政策を批判して表舞台から姿を消したアリババのジャック・マー。「強面」の習近平は3期めの独裁体制に入った。この「面」は厚くて硬い。見せたくない「あんこ」は、包子のようにすっぽり包み込んでしまう。時は過ぎても、食の大国はかわらない。