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何度見ても不思議に思わなかったこと

2022年北京冬季オリンピック、カーリング女子は惜しくもイギリスには敗れたものの、堂々の銀メダルだった。技術とチームワークとそれに集中力が勝負のスポーツで、他の競技とはちがった楽しみ方ができる。

日本の試合は欠かさなかったし、今回のオリンピック以外にもこれまで何回もテレビで見た。なにも不思議には思わなかった。ところが、100年近く続いている「論争」があったという。

「ストーン(石)はなぜ曲がるのか」

だって、投げるときカールさせてるじゃない。回転させれば曲がる、不思議はない。

物理学からみると、曲がる方向が逆なのだそうだ。左にカールさせる、つまり半時計まわりに石を回転させると、反作用で時計回りに摩擦力がかかり、結果右に曲がる。これがふつう。カーリングストーンは左に曲がる。これが解けなかったらしい。

立教大の村田次郎教授は、これまでだれもデータ検証してなかったのをデジカメで撮影し、精密測定技術を駆使して結論を出した。

「ふつう」とちがう原因はふたつ、リンクの氷の表面に水をまいて水滴を凍らせた点突起があること。それに、石の底面が平面接地ではなく、細いリング状になっていることだという。つまり、ドーナッツ状のものがイボイボの突起のある氷に引っかかりながら進む。左側が引っかかれば左に、右側なら右に曲がろうとする。これに反時計回りの回転がかかると、左側の速度が遅くなって、より突起に引っかかることがわかった。結果、左に曲がるというもの。

長野の御代田で一度だけ、カーリング石を投げたことがある。リンクの整備は入念で、最後にジョウロで水をまく。すぐに水滴が凍って手で触ると確かに凸凹を感じる。黄色の取っ手を右手で軽く握り、手を伸ばして石押すように体を滑らせる。そう、藤澤五月選手のように左ひざを立て、右足を後ろに伸ばして。そして、投げるというより手をはなす直前にそっと左にカールさせる。口では簡単だが、石を持たずに体を滑らせることだけだって大変だ。

左にカールしたかどうかは、覚えてない。石をカールさせるからカーリング、だから、カールさせれば曲がるものだ。それだけだった。物理学者の村田さんは1998年の長野オリンピックで見て、「曲がる方向が逆じゃないかと気持ち悪かった」という。ちがいますねえ。

この説を学会誌に発表した。1924年に初めて提起された問題、さて、100年ぶりに決着がつくでしょうか。