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2023年5月20日の乾杯

2023年5月20日の乾杯。
初夏を思わせる日も冬に戻ったような日もあるなかで、おじさんとお姉さんで観た桃月庵白酒師匠と三遊亭兼好師匠の二人会、ふたりが日を違えて観たゲキバカの公演、おじさんが圧倒されたルサンチカの公演などをじっくりと語ります。

👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。よろしくお願いします。
👨お願いします。先日は落語会でお会いしまして。
👩そうですね。面白かったですね。
👨私は桃月庵白酒師匠も三遊亭兼好師匠も大好きなので。
👩はい。
👨三鷹芸術文化センター星のホールでの会だったのですけれど。
👩やっぱり落語はいいですね。たまには行きたいなぁと思いました。しかも私は初めて白酒師匠を観たので。兼好師匠は以前にも観たことがあったのですけれど。
👨そうですね。兼好師匠は前にも落語教育委員会で聴きましたものね。兼好師匠と喬太郎師匠と、あと・・。
👩歌武蔵師匠との3人会で。
👨はい。白酒師匠はいかがでしたか。
👩いやぁ、その語り方がすごく柔らかくて。とても穏やかに噺をされる方だなぁと思いました。ただ、いろいろ新しいものに対しても敏感というか、そのCHAT AIのお話しとかもされていて。
👨そうそう。
👩今日のネタはなにがいいですかって訊いたらやたら「芝浜」を勧めてくるって。「粗忽長屋」か「芝浜」を。とにかく「芝浜」を勧めてくるって。
👱あははは、そうそう。でもなんかその辺りの新しさが自然に出るのがいいよね。
👩うん。
👱そうかぁって。
👩面白かったですよね。
👱でも、その一方で、兼好師匠にしてもそうだし白酒師匠にしてもそうなのだけれど、割合と私基準ではスタンダードな噺をやることが多いんですよね。まあ、独演会などでたまに聴いたこともないようなネタをやられることもあるみたいなのですけれど。
👩はい。
👱まあ、同じ三鷹でも喬太郎師匠なんかと比べるとね。喬太郎師匠の場合は勉強会という看板を掲げているということもあるのかもですけれど、時としてとんでもなく噺が尖ったりするじゃないですか。
👩ああ、そうですねぇ。ソリッドな。
👱そうそう。
👩ソリッドだから大変。
👱なんかね、それはそれでたっぷりに魅力はあるのだけれど、たとえば白酒師匠みたいにね、今回のネタにしても『花色木綿』と『笠碁』だったじゃないですか。
👩うんうん、そうですね。
👱ああいうなんか、『花色木綿』あたりは若い二つ目さんなんかもよくやられるネタなので、そういうネタを上手い噺家さんがやるとこんなに違うのよみたいに見せてくださるのもいいなぁって思ったりもして。
👩そうですね。『花色木綿』、なんか久しぶりに聴いたなぁ。
👱裏は花色木綿っていうね。
👩そう、花色木綿、うふふ。
👱あと、兼好師匠の『佃祭』というのはネタ的には大きい印象があって、あれを最後にしっかりと聴かせていただけたのもよかったし。
👩楽しかったですね。これからの季節を感じてというか、こういう季節になっていくなぁというのも相まってとても良かったです。
👱あと、今回は前座のけろよんさんもなかなかにお上手で。
👩ああ、そうでしたね、名前が凄いけれど。
👱うふふふ、というかいまどきけろよんっていってもなかなかオリジナルが思い浮かばないでしょ、若い人は。
👩兼好師匠のお弟子さんですよね。
👱まあ、師匠から頂いた名前については抗うことができないわけでね。今大人気の女流落語家に蝶花楼桃花師匠がいらっしゃいますけれど、彼女だって前座時代は春風亭ぽっぽさんだったし、二つ目になってからは春風亭ぴっかり☆さんだったわけで。
👩変わったお名前の方っていますからねぇ。まあゆくゆくは、お名前も変わっていくから。
👱そうそう。まずは覚えてもらえてなんぼみたいなね。
👩うん。
👱まあ、あと話は戻るけれど、なんかね、私は白酒師匠を見ていると噺家としてのすわりのよさみたいなものを感じるんだよね。
👩うんうん、そうですね。
👱お姿もそうだけれど、落ち着いて、観る側を安心させて高座をすすめていくような感じがあって。
👩うんうん。
👱それで、なんていうのだろう、濁りがない。
👩ああ、確かに。そうかも。
👱すごくすっきりとした語り口で物語が進んでいくんで。ちゃんと面白いところがまっすぐに抽出されてくるようなところもあって。喬太郎師匠や兼好師匠同様に、最近ちょっとはまっているんですよ、白酒師匠に。
👩うふふふ。いや、とても良い会でした。
👱三鷹はね、やる会がもれなく面白いですからね・
👩うん、凄いなぁって思う。
👱ほんといい人を呼ぶなって感じがしている。。それは噺家さんに限らず、劇団などもそうですけれど。
👩うんうん、
👱なんか先の予定なんかも観ていましたけれど、面白そうなものをやるなぁと思いましたし。まあ、先々にはね、喬太郎師匠なんかもありますし。白酒師匠も独演会とかやられるみたいだし。
👩あぁ、ありましたねぇ。
👱あの、独演会になると今度は白酒師匠のお弟子さんとかが出てくるんですよ。
👩うん。
👱そうすると師匠どおしとはまた違う白酒師匠を見ることができたりしてね。
👩へぇ。
👱弟子の高座のあとには、ちょっと師匠としての戒めの言葉なんかも聞けてね。
👩ほう。
👱独演会にはそういう魅力もありますけれどね。まあなにはともあれ、年に何度かああいう会にいけると人生楽しいなぁと思いますけれどね。
👩そうですね。観たことがない方は一度観て頂きたい。うん。
👱あの、ライブ感がほんと良いので。
👩いいですね。
👱枕とかにはテレビの収録とかでは話せないこともたんと出てくるので。
👩たしかに。
👱その場にいた人だけが楽しませて頂けますので。
👩そうですね。面白かった。
👱うん、ところで話は変わるけれど、そうそう、ゲキバカもご覧になったのですよね。
👩はい、観に行きました。

中野 ザ・ポケット


👱私も違う日というか、さっきの落語会の前に観に行きましてね。その日は中野から三鷹への中央線ツアーだったのですが。
👩ああ、そうだったんだ。
👱ゲキバカはもう解散が決まってしまっていてね、解散ロードツアーみたいな最終公演までの道筋のことも掲示されていましたけれど。
👩そうですね。ちょっと久しぶりに観ることができましたけれど、いやぁ、良いものを観たと思いました。おもしろかった。
👱とても雑な言い方だけれど完成度が高かったですよね。
👩うん、そうですね。なんかいろんなことを考えたのだけれど。ゲキバカさん。感想についてはまだ言葉になっていないなぁとはおもうのですよ・・・。
👱そういう中でも、どのあたりが一番印象に残りましたか。
👩あぁ、なんだろ、ちょっとまってくださいね。ああ、なんか一番最後のシーン。
👱はい。
👩あの、歌うシーンがあるじゃないですか。歌うシーンというか今までのせりふをリフレインじゃないけれどひとりひとりが言っていくみたいな、もう命はなくなっているであろう人達が歌うのだけれど、最後にそのシーンを観て、そこだけではないのだけれど凄く涙が出て、改めてね。
👱うん
👩途中には辛い場面はあるし、すごい涙がぼろぼろ。まわりのみんなが鼻をすする音があちこちから聞こえてましたし、私も涙がぼろぼろだったのですけれど、なんかその一番最後に、なんだろなぁ、その繋がっているじゃないけれど、こうなんか全然違うところの話みたいだけれど、そうじゃなくて、まあ過去、舞台上で行われた過去と私たちの時間が繋がっていてだから一緒なのだなぁって。がんばってる、なにかを目指してひたむきに生きた人達、それって今だってそうだし、それがそのままそうだっていうわけではないと思うけれど、私にとっては観終わった後に。あの、西川康太郎さんは俳優をもう引退されることが、卒業されることが決まっているじゃないですか。
👱はい。
👩その西川康太郎さんの役柄もあって、なんか一つ違った見方、その西川康太郎さんの芝居、演劇人生みたいなところも勝手にこちらが感情移入というか感じてしまって、最後のほうに西川康太郎さんがひとりでしゃべるシーンがあるじゃないですか。
👱あぁ、はいはい。
👩正直私が一番ぐっと来たのはそこなんですけれど。なんかね。
👱彼って。私はそんなにたくさん西川康太郎さんの舞台を観ているわけではないのですけれど、これは前にも話したかもしれないけれど、昔大阪に遊びに行ったときにたまたまTAACのお芝居を観たんですね、彼がご出演されていた。
👩うん。
👱その前から彼が良い俳優だということはなんとなく知ってはいたのだけれど、あの舞台を観たときに彼は本当に良い俳優だなって思って。すごくクールな役をやったりとか、あと冷たい部分を持ったキャラクターを演じたりもするのだけれど、なんだろ、冷たさをちゃんと作ることができる暖かさみたいなものが彼にはあるんですよ。だから、単に冷たいって感じて観る側が拒絶したりそこに留まったりするのではなくて、その冷たさを観る側が受け入れてその人物について考えられるような雰囲気を彼は作れるのですよ。
👩うんうん。
👱今回のお芝居の中には、観る側には歴史を見ることや知識とすりあわせることが物語を受け取る中で求められる部分もあるのだけれど、それが舞台に強いられるのではなくて、自然にそのように舞台を受け入れていける温度、なんというか単に客観的に観るのではなくて観る側が客観的な歴史の出来事への想起を主観的に感じることが出来る温度がお芝居にはあって。で、上手く言えないのだけれど、そういう物語の語り口って誰にでもできることではない気がするのですよ。
👩うん、そうですね。
👱彼が特にこの座組の中だからできるというか。だから、俳優の方にはそれぞれに色が合ったり雰囲気があったりもするのだけれど、この人だからこうやって伝わってくる感覚があるっていうものを持っている俳優っていうのは観客にとっても、そして多分作る側にとっても貴重で。まあ、それを言い出したら私が先日劇団のお別れ会に足を運んだ志賀廣太郎さんなんかもそうだったのだけれど、彼からしか訪れない感覚みたいな物、やっぱりさ、俳優の中でもそういうものを持っていらっしゃる方って言うのは強いですよね。
👩なかなかね、持とうと思っても持てるものでもないとおもうし。
👱その、自然にというか、根にあるものみたいな部分もあって、私は俳優の方のことなんてわからないけれど、それは神様から授かった部分というかとても良い意味で変えられない部分っていうか色が彼にはあったのかも知れないなぁって思う。まあ、そんなことも考えながら、この舞台が俳優としての彼の最後になるということをとても残念だなぁという想いと共に観ていたのですが。
👩うんうん。
👱その、勿体ないなんていうのも失礼な話で、それは彼がたくさんに考えて選んだことだと思うし、彼の人生なのだし。
👩そうですね、
👱でも、一方で観客としては
👩もっと観たいと思うのもね。
👱もっと観たいというか、今だけではなく、そのころまでこっちが生きているかどうかは別にして、たとえば50才とか60才に至ったときにどんな俳優になっているかというのは観たかったよね。
👩それは、観たかったですね。
👱まあ、叶わぬことかもしれないけれど、いつか復活してねというのは観客のひとりよがりな希望として思っている。
👩いつかしてくれたらいいなぁと思うのはいいけれど、してねは駄目。
👱もちろんそう。「してね」は駄目だね。
👩うん「してね」は駄目。
👱「して欲しいなぁ・・・」みたいな。というのもあって。ただ単純に良い俳優が舞台を去るということの哀しさ以上のなにかを巡らせながら舞台を観ていましたね。
👩なんか、絶対ね、そういう風に決めるまでにはさ、いろんな考えだったりとか時間があったのだろう。絶対そうじゃないですか、誰しもそうだけれどさ、なんかね、客席にいる人間としてはそうかって。舞台を観に行って見送るしかないのだなぁっていうのは切ない話ではありますが。だから、「推しは推せるときに推せ」なんだなって。いつだって、いつだってそう思う。
👱そうね、その言葉が実感としてわかりますよね、今回は。
👩そうですよ、今言ったって遅い、まあ遅いことはないよ、観ることができるのなら。
👱まあ、なんだろ。俳優ってやっぱりなまものですからね。
👩うん。
👱特に舞台というのは、本当に一期一会でもあるし。今回は特にそういうことも思いましたけれどね。
👩でも、どうでした?なんか、全体の印象というとかいうよりは、単純に好きなシーンとかありましたか。
👱私はねぇ、ほら、卵を盗みに行く前の逃げ出したみんながいろいろに困りながらも共同生活をしている場面があるじゃないですか。
👩うん。
👱それぞれの暖かさの作り方がものすごく上手いなぁっておもったのね。なんかサウンド・オブ・ミュージックみたいだなんて話もしていたじゃないですか。
👩ああ、出ていましたね。
👱あの、サウンド・オブ・ミュージックみたいな家族というか共同体の色や温度を紡ぐって、お芝居としては意外に難しいとおもうのですよ。しっかりと作り込まないとすぐ薄っぺらくなってしまうからね。
👩うんうん。
👱俳優達ひとりずつの個性が生かされて、それがうまく互いを塗りつぶさないように組み合っていかないと多分ああいう雰囲気って作れないから。あの舞台って、みんなでやっているというよりは一人ずつの個性とか脳力が舞台に生きていて、それが観る側でちゃんと家族の態として感じられる説得力をもってやってきた気がするのね。それは演出の巧みさだとも思うし、しかもさりげなくこの舞台の俳優達ってそれぞれのここ一番のキレッキレがさりげなく織り込まれているじゃないですか。一つの台詞にしても、ちょっとしたダンスシーンにしても、嘘やろっ!!ていうような切れのよさがすっと出てくる。そういうところも含めて、彼らのテイストに捉えられたしレベルが高いなぁって思った。
👩なるほど。
👱それは『ゲキバカ』という団体が、自らを研いできた、自分たちのスタンダードを作ってきた、そのレベルを維持し高めてきたというのを目の当たりしていることでもあって、やっぱり老舗というか歴史を持った団体というのはこういうところで力がわかってしなうのだなぁって思いましたけれどね。
👩うん。
👱そうして、部分毎のいろいろに見惚れつつ、物語も綺麗に繋がっていたしね、
👩そうですね。私、鈴木ハルニさんと西川康太郎さんのふたり、おじいちゃんと孫のシーンもすごく好きでしたね。おもしろいというか息がつけるじゃないけれどそう思っていたのが後半ね、ほんとに鈴木ハルニさんって凄いなぁって、ふざけていたりとか、おじいちゃんですごくやわらかい演技をしていたと思ったら、ピリッって、本当に、こう空気が変わるお芝居をされて。凄い見応えがあるお芝居をされるなぁって思った。
👱はいはい。
👩と思えば卵ね、西川さんに卵飲ませるし。
👱あははは。あれねぇ。生卵を3つ飲むのはきつかっただろうなぁって思う。
👩うん、まじできつかっただろうと思うよ。
👱それも、ワンナイトステージだったらいざしらず、毎回飲むんでしょ。
👩ですよね、きっとね。あとね、お兄ちゃんが死ぬじゃないですか。その前のおじいちゃんの昔話の入りからの、そのなに、シーンを挟んでこうだったんだって語り始めたときの切り替えというか、私の話だったのですって辛い思い出のはずなのだけれど、入りにはそれだけの年月がたっていたんだなぁというのを感じさせたし、でも話し始めればそれはやっぱりまだ、なんだろうな、もう治らない傷じゃないけれどその一辺倒じゃないんだよな、そうなんだよって。時が癒やしてくれるところもあれば、もう絶対に変わらないで残っているものもあるし。
👱うん。
👩ただ悲しいだけではなくて、その。やっぱりずっと、自分にとっての光というか尊敬するもの、それは命が今もうなくなっていたとしても、ここになくなっていたとしても変わらないんだなぁっていう。その年齢をかさねたあとでも、キラキラとそれを語るおじいちゃんの姿とかね。
👱観る方って観ているときには全然意識していないのだけれど、その重さの残り方みたいなものは彼がうまく作っているんだよね。時間の重さとか、悲しいことと楽しいことのトーンとかね、舞台のベースになることはちゃんと彼の語りで観るがわの無意識に導かれていたんだなぁって思ったものね。。
👩そうですね。なんか最初の時に、おじいちゃんがこの話が終わったあとにあなたを待っているのは奇跡ですよって孫に言うじゃないですか。その段階でもしかしたら、これからの話で出てくる中で、その出来た子供はその孫に繋がっているんですみたいなことなのかなぁ、ギミックはとは思ったのですよ、正直。
👱ああ、はいはい。
👩あるじゃない、そういうのあるじゃない。
👱はい。
👩でもまさか、まさかそうなるのかとは思ったの。おばあちゃん、要はその、その孫にとってのおじいちゃんは話をしてくれている人だけれど、おばあちゃんがその人だったとはとおもいましたね、
👱うふふ。
👩そうなんだ、生き残るのはその彼女なのかって。
👱うんうん。
👩はぁ、そうかぁってなるとまた、紡がれてきた舞台の物語がもう一回蘇ってきて、なるほどそういうことかぁ、そういうことか、そうなるんだなぁって思ってね。だから楽しかった。其所が繋がっているのかぁって。ほんと、孫とおんなじ気持ちになった。
👱物語がしっかりわかるのにステレオタイプじゃないんだよね。おっしゃるとおりで、たとえば卵を盗みにいってあとをつけられたことは想像ができて、そのあとなにが起こるかも分かっていても、その先に導き出されてくるものは意外なところからボンと来るし。そういう揺さぶりみたいなものがあざとさにならずほんとに上手く作られたお芝居でしたね。
👩うん。面白かった。
👱だから、観終わってそうだったのかぁというのが残るじゃない。あれはやっぱりよく仕掛けられたお芝居を観る醍醐味だと思うのね。
👩そうですね。
👱しかもそれがまったく奇想天外に思えないところが凄い。
👩うんうん。
👱ちゃんとしっかり繋がっているというか、観る側が納得できてしまうのが凄いと思いました。。
👩はい。
👱こうしてお話をするとなおのこと、おもしろかったですね。ゲキバカ。
👩いやぁ面白かった。観ることができてよかった。
👱ほんとよかったですよね、うん。
👩はい。
👱そうそう、観ることが出来てよかったといえば、アトリエ春風舎でルサンチカを観たのですよ。京都の劇団なのですけれどね。

アトリエ春風舎


👩はいはい。
👱三好十郎の戯曲で『殺意(ストリップショウ)』というお芝居を上演したのね。
👩うん。
👱女性のひとり芝居で。上演時間は100分くらいかな。
👩はい。
👱それを渡辺綾子さんという方が演じられて。ひとりのナイトクラブのダンサーが今日はそのお店の最後の日ですよということで、お客様に挨拶をする態で彼女の半生を綴っていくという舞台なのですけれど。
👩ふんふん。
👱アトリエ春風舎ってああいう劇場じゃないですか。
👩ああいう劇場って?
👱ああいう劇場ってなんやという話だけれど、おしゃれなイメージはあまりないじゃないですか。
👩ああ、はい。
👱あそこにここはどこかと見紛うようなとてもおしゃれなステージが建て込まれているの。
👩うふふふ。
👱床なんか9枚の色が変わるライトが仕込まれたパネルが張られていてね。
👩うんうん。
👱それから上手には大きなミラーボールなども吊られていてね。彼女はナイトクラブのダンサーなのだけど、その雰囲気がきちんと舞台としても作籬込まれていて。で、ふるさとで過ごした時間、お兄さんやお母さんの話から始まって、戦時中に母や兄や想う人を失って、東京に出て左翼の先生の所で過ごすことになって、その左翼の先生が転向をする話になって、戦後その先生が左翼の人物として活動するのを彼女が見つけて、彼を信じてきた彼女の近しい人のことを思い彼女は殺意を描くのだけれど、先生をつけ回すうちに彼がゲスな男であることを知って殺意が失せるみたいな話なのだけれど。
👩はあ。
👱で、その(ストリップショウ)というのは彼女がストリップのダンサーだということに加えて、きっと彼女が自分の身上を一枚ずつ自ら剥いでいくというニュアンスなのだけれどね。
👩ああ、なるほど、なるほどね。うんうん、おもしろい。
👱なんかひとり芝居とは思えない濃さというか密度があってね。渡辺綾子さんはもう随分昔に王子小劇場で昔拝見したときにも存在感のある方だと記憶していたのだけれど、その時とはとは俳優としての貫禄というか訪れる物がもう全然違っていて、昔っていうか10年以上も前だから当たり前なのかもだけれど、俳優の方は10年でこれだけ役者筋がごりごりになるのかと思った。なによりも作品がひとりの女性の生きる姿ということだけではなくて、国の体制とかに拘わる話でもあるし、男性の矜恃も本性も描き出されていくし、女性が体を売る中で女性として目覚めていくような部分も描かれていて。そういうものが全て彼女の語りの中に織り込まれながら、戦前から戦後の時代とそこに生きる女性の存在を観る側に描き出し焼き付けていくような舞台だったのね。
👩うんうん。
👱三好十郎の戯曲を観るたびに、一筋縄ではいかないというか、人物の下世話さから社会や国家が照らしだされていくようなボリューム感というか立体感を感じてはいるけれど、舞台は極めつけで。まあ、西川康太郎さんとはニュアンスが違うのだけれど、ひとりの俳優が舞台で描きうるものというのはほんとに凄いなあと。
👩はい。
👱渡辺綾子さんはクラシックバレエの素養なんかもあるように思うんだよね。端々に差し入れられる身のこなしなどを観ていると。
👩ああ、なるほど。生かされているんだ。立ち姿とか?
👱うん、それもだし。あと、チョットした所作からでも、舞台に立っている人がダンサーだということが観る側の無意識で自然に納得できるのよ。そうすると、彼女がダンサーになるに至った話とか、ダンサーをしている中での出来事にもとても自然に取り込まれてしまうんだよね。戯曲と俳優の細微なお芝居の作り込みが交わることでの舞台の厚みにうわぁっとなってみていましたけれどね。ほんと100分があっという間だった。カーテンコールの拍手をしていてなんか目が乾いていることに気がついて、文字通り瞬きも忘れて観ていたのだと思う公、帰る間際に慌てて目薬をさした。
👩あはは。
👱あと、俳優だけじゃなくて照明も良くて、ストーリーの流れを更に導いていたし。
👩ふーん。
👱床のパネルの色の変化もそうだし、バックから客席を照らすライトも何基か仕込まれていて、そこに不思議なスモークのたき方をもしているらしくて、ここ一番でライトがキラキラと瞬くように輝いてみえるんですよ。
👩へぇ。
👱シーンの切れ目なんかでは彼女がその光の中に消えてしまうような演出もあってね。
👩うんうん。
👱でも、アトリエ春風舎なんだよね。
👩うふふふ。
👱あのスペースであんなお芝居までできるのかって、それにも感動してしまって。
👩うふふふ。
👱その中で、戦前、戦中、戦後の混乱期までを、ひとりの女性の語りの中で途切れることなく流れるように語っていくというのは、俳優の力はもちろんなのだけれど、もうひとつ演出の力でもあると思うのだよね。なんというか、観ていて思考がはずれることなく集中を切らすことなく閉じ込められてしまうというか。いろんな時代のトーンがしっかりと描かれていて、いっぽうでそれらの歩みに途切れることなくのめりこんでずっと観ていられる。ベタな言い方だけれどほんとうに良かったです。
👩うんうん。
👱まあ、私の良い芝居に当たる運は健在だとほくほくしながら帰りの電車にのっていましたけれどね。
👩うふふふ。
👱さてと、ちょっと今後のお勧めもお話ししましょうか。
👩はい。
👱まずは、今回二人が落語を聴いたのと同じところで、劇団普通の公演がありますね。劇団普通は私的に絶対に見逃せない団体になりましたね。
👩ああ、嵌まってるんですね。
👱嵌まっているというか、経験則的にまた良き舞台を観ることができるという期待がすごくある。あと、青年団よりも静かな演劇だからね、それも魅力。
👩うふふ。そうですね。
👱しかも今回は新作みたいだし。
👩ほかに気になっている公演ってありますか?
👱あとはMCRですね。
👩ああ、MCR。MCRは観たいですね。
👱今回、五反田団の後藤飛鳥さんもご出演で。私はMCRでの後藤飛鳥さんのよく切れた一瞬や醸す温度が大好きなんですよ。彼女の台詞で密度がガラッとかわるというか。
👩うふふ。また観ることができますかね。
👱今回の公演は再々演だけど、前回と同じ役をされるのであれば、それはもう楽しみ。
👩うん。ほかには?
👱あとは吉祥寺Gorillaとかですかねぇ。
👩それは初めてだなぁ。どんな団体なのですか?
👱以前に王子小劇場での公演を観たことがあって、その時も舞台の使い方とかがとてもおもしろくて、ぞくっとするほど切れてた。今回はコメディということらしくてどんな作品になるのかが楽しみで。
👩それは面白そうですね。ご紹介ありがとうございます。
👱あと『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』がまもなく封切りで、それも観に行きたいし。
👩ああ、それは私も観にいきたい。
👱まあ、ほかにも観たいものはてんこもりなのですけれど、並べはじめたらきりがないし。今回はそんなところですかねぇ。
👩そうですね。
👱では、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👱梅雨入り前とはいえすでに相当暑い日もありますので。
👩みなさん、お体には気をつけてくださいね。

『岸辺露伴  ルーヴルへ行く』広告@新宿駅自由通路


 
(ご参考)
・桃月庵白酒・三遊亭兼好二人会
2023年5月13日 @三鷹市芸術文化センター星のホール
 元犬(けろよん)
 桃太郎(兼好)
 笠碁(白酒)
 ―仲入りー
 花色木綿(白酒)
 佃祭(兼好)
 
・ゲキバカ『ララ・バイ』
2023年5月10日~14日@ザ・ポケット
脚本・演出: 柿ノ木タケヲ
出演:西川康太郎、鈴木ハルニ、
豆鞘俊平、山咲和也(以上、ゲキバカ)、
acha、相沢海心、海田眞佑、
浦谷賢充、井上千鶴、大谷海仁、
梶川七海、韓ユリ、作井茉紘、
佐倉はなほ、来瞳舞夢、土矢兼久、
中野亜美、橋本浩太朗、服部大成、
南大空、メイロー
 
・ルサンチカ『殺意(ストリップショウ)』
2023年5月15日~23日@アトリエ春風舎
脚本:三好十郎
演出:河井朗
出演:渡辺綾子
 
(今後のお勧め)
・MCR『死んだら流石に愛しく思え』
2023年5月26日~6月4日@ザ・スズナリ
脚本・演出:櫻井智也
出演:川島潤哉、奥田洋平、後藤飛鳥(五反田団)、
小野ゆたか(パラドックス定数)、澤唯(サマカト)、堀靖明、
わたなべあきこ(劇26.25団)、川久保晴、
櫻井智也、おがわじゅんや、北島広貴、
上田房子、伊達香苗
 
・劇団普通『風景』
2023年6月2日~⒒日@三鷹市芸術文化センター星のホール
脚本・演出:石黒麻衣
出演:用松亮、岩瀬亮、浅井浩介、安川まり、
坂倉奈津子(青年団)、鄭亜美(青年団/ハイバイ)、
岡部ひろき、泉拓磨、早坂柊人、
青柳美希
 
・吉祥寺GORILLA『お待たせしました』
2023年6月2日~4日@吉祥寺シアター
脚本・演出:平井隆也
出演:平井泰成(24/7lavo)、山下真帆、一嶋琉衣(yhs)、
日下麻彩(常民一座ビッキンダーズ)、長友美聡(:Aquamodeplanning:)、
榎本悟(シアターキューブリック)、岡野優介(クロムモリブデン)、
河村凌(猿博打)、黒沢佳奈(火遊び)、小島あやめ、
中野亜美、村松ママンスキー(劇団鋼鉄村松)、
渡邉とかげ(クロムモリブデン)

映画岸辺露伴 ルーヴルへ行く
2023年5月26日公開
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
出演:
高橋一生、
飯豊まりえ
長尾謙杜、安藤政信、美波エマ
池田良、前原滉、中村まこと
増田朋弥、白石加代子
木村文乃


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