『チャッターアイランド』はDJ／プロデューサーのokadadaとDJ／ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト／音声コンテンツです。毎月1回、月末の配信を予定してます。今回は写真家で嫁入りランドとしても活動するmieuxxxこと寺沢美遊さんをお迎えしてお送りします。

※今回のチャッターアイランドはテキスト、音声ともに現在上映中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:II』のネタバレを含んだ内容となっております。

バキバキの目したおじさん

mieuxxx 『シン・エヴァンゲリオン劇場版:II』（以下、『シン・エヴァ』）の感想ね。じゃあシャケちゃんから。
shakke いやぁ……めっちゃよかったよ……。
okadada 涙ぐんどるがな。
shakke さっきみゆととには言ったんだけど、今日さ、朝早めに起きて。7時くらいに起きて、ネット見たら、８時30分からの上映回があるなと思って。もう１回、朝一で行ってきましたよ。
okadada ２回目？
shakke そう、2回目。でも２回目もベタクソ泣いてましたね。
okadada どのタイミングから泣いてんの？
shakke １回目は冒頭のパリのシーンから“アニメーション！”って思いながら泣いてた。
mieuxxx ハハハ、こわっ。
okadada なんや、コイツ……。
shakke でも、あのシーンめっちゃ気持ちよくない？
okadada 楽しい楽しい。あそこらへんはテレビ版を観てるときの楽しい感じ。ぼくも普通によかったです、『シン・エヴァ』。“みんな、おつ！”って感じ。“おつかれ、すべてのエヴァンゲリオン”っていう。
shakke ニュアンスとしては“おつ！”くらいの感じよね、オカダさんは。
okadada そうそう。“おつかれさまでした……！”っていうかは“みんな、おつ！ 解散！”くらいの感じでしたね。
shakke 前もみんなで話したけどさ、“おつかれさまです”のニュアンスもやっぱりひとによって違うなと思っていて。オレとかは庵野とか関わったひとたちに向けて“長いことおつかれさま”っていうのにプラスして、やっぱり“自分、おつかれさま”みたいな。
mieuxxx あぁ、そうかぁ。
shakke それはやっぱすごく思ったかな。そういうニュアンスもちょっと入りますね。
okadada で、みゆととさん。これ、気になるひともいると思うんですよ。まわりにそんなに発生しにくいタイプやから。
shakke ほぼほぼ『シン・エヴァ』から入ったひとの感想。
okadada これまで観てないと言っても過言ではない。
mieuxxx そうですよねぇ。観に行こうと思ったきっかけが、日テレの深夜の通販番組みたいなので、エヴァのコラボグッズの紹介かなんかをしてて。で、そこで宇多田ヒカルの主題歌（“One Last Kiss”）が流れてて。“え、なにこれ？”って思って。音が全然違うわけ、普通のテレビで流れる音楽と。なんか質感が全然違うぞと。で、さらに映画の予告の映像がめちゃくちゃキレイで。ここで逃したら一生観ることないなと思ったのが３月５日だったんですよ。
okadada 公開いつやったっけ？
mieuxxx ３月８日か。
okadada ３日後や。
mieuxxx ３日後の映画館のチケットってもう取れるじゃん。そこでもうチケット取って。しかも公開初日の朝いちばんの回。
shakke じゃあ、ハードコアなエヴァオタクに囲まれて。
mieuxxx 熱気に包まれながら。初心者みたいなもんなのに、そういう感じで観て。で、感想ですよね。いやぁ……普通に泣いたんだよね。
shakke ハハハハハハハ！
okadada イカれやな……。
mieuxxx イカれとるよね。でもこれはピュアな感想じゃないなと思って。35年生きててさ、いろんなカルチャーの蓄積があるわけですよ。音楽とかもいろいろ聴いてきて、そこで補完した結果、感動してる。だからエヴァンゲリオン自体のストーリーとかキャラクターには一切思い入れなく、もう作品としての強度が単純にすごいと思ってて。
okadada すごいなぁ、それは。自分なんかはもう文脈なしでは観れへんやん、どうやったって。エヴァなんかは特に。だから文脈がないひともいいって言ったらそうなんやろうなと思う。
mieuxxx バイアスが逆にないからね。
okadada そうそうそう。
shakke めっちゃ新鮮な意見だよね。オレが『シン・エヴァ』観て号泣するっていうのは、やっぱり25年とか26年の積み重ねがあって泣ける、みたいなとこはあって。思い入れも含めね。それでいったら、そうじゃなくても感動するんだっていうのは新鮮。
okadada でも、思い入れゼロ状態で『シン・エヴァ』行ったひと、めっちゃいると思うんですよ。
shakke このタイミングで、ってひとはいるだろうね。
okadada うん。でも、そういうひとはあまり発言しないと思うな。長文のブログ書いたりとか。
mieuxxx できないでしょうね
shakke 棒でぶん殴られると思っちゃってんじゃない？
okadada ああ、そういうこと言うと？
shakke そう。エヴァ棒でぶん殴られると思ってるんだよ。
mieuxxx どうなんだろうね。でも、わたしみたいな感想はたぶん作った側のひとは喜ぶはずなんだよな。
shakke たしかにね。だし、やっぱそういうひと向けにある程度フレンドリーに作っていると思うんだよね。
okadada 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版：序』を作るときの所信表明みたいなのにも書いてありましたよね。“最終的にはだれでも楽しめるようなものにしたい”って。
shakke もう世代がぐるっと回ってるからね、25年経って。それこそ『シン・エヴァ』公開直後にこの３人とFNMNLでライターやってる山本くんでエヴァの話をしたくて集まったんだけど、山本くんは21歳か22歳くらいで。彼はこれまでのエヴァとか後追いで観てるけど、その世代でも感動するっていうね。世代が一巡しても、いいって感じられるっていう。
mieuxxx でも、山本くんぐらい若いひとたちはどういう部分に感動してるんだろうね？
okadada なんて言ってたっけ？ なんかすごいバキバキの目したおじさんにめちゃくちゃ生い立ち語られて、最後に“きみもがんばりなよ”って言われたみたいな感じ、って言ってたっすね。
一同 ハハハハハハハ！
shakke フフフ……それ、こわいよね。
okadada 目バキバキっていい表現だなと思って。たしかにそんな感じするなぁ。で“きみもがんばりたまえ”って。
shakke “はい”と言わざるを得ないっていうね。
mieuxxx でも、わたしもそれに近いかもしれない。
shakke “がんばりたまえ”的なメッセージを受け取った？
mieuxxx めちゃくちゃ受け取ったよね。やんきゃいけないんだと思った。

Facebookでの結婚報告

okadada こないだひさびさにClubhouseでしゃべって。そこでちょっとエヴァの話とかしてたんやけど、今回の『シン・エヴァ』に怒ってるひともやっぱりいて。
shakke 旧劇場版（以下、旧劇）原理主義。
okadada そう。いるんですよ、やっぱり。めちゃくちゃいる。
shakke でも、わかりますよ。やっぱ旧劇のほどばしり方ってインパクトあったし、多感な時期にあれ観せられたらそりゃあねっていう。
okadada たぎっとるよねぇ。
shakke 今回はそういう意味でいったらすごくキレイに畳むもんね。
okadada マジでこんなこと言ってもしょうがないけど、『シン・エヴァ』観てて、最後のほうは順番にカウンセリングみたいになるやん。みんなが心情を吐露していくシーン。あんなん、20年前にやっとけよとは思ったな。
shakke こんくらいできるだろってね。
okadada でも、怒ってるひとの心理としては、なんか……たとえるのむずいけど、若いときに共依存で付き合ってたパートナーと何十年ぶりに会ったら、すごい健康になって結婚してて、“きみもはやく結婚しなよ！”って言われたみたいな感じって言ってて……
shakke なんなら向こうはヨガとかはじめてるくらいの感じでね。
okadada たしかにそんな感じする。けど、オレの『シン・エヴァ』の印象は怒ってるオタクとはもうちょっと違うくて。“わたしたち結婚しました”ってFacebookに書いてあるのを見て怒ってるみたいな感じなんよ、どっちかといったら。“庵野が説教くさい”とか“保守的な価値感がマジ最悪”とか“結局、村かよ！”、“結局、家族かよ”って怒ってるひといてるけど、保守的ではあんねんけど、結局“オレはこうやってこうなった”って話やから、そこを怒ってもしょうがなくない？ っていう。教条的に“これが正しいからみんなもやれ”ってメッセージだとみんな思いすぎてるなっていうのは思った。“庵野がさぁ！ 言うんだよぉ！ こども作れってぇ！”みたいな。
mieuxxx ハハハハハハハ。
okadada それはニュアンス違うっていう。そこは大事やなと。
shakke オレもそう思うっすね。これは25年かけた庵野の個人史であり、セラピーなんだよね。
okadada そうそう。“ぼくはこうして立ち直りました”っていう感じ。だから“ひさしぶりじゃん！ まだそんな話してんだ？ はやく結婚しなよ！”って受け取ってるけど、Facebookの結婚式の写真を見て怒り狂ってる感じしますよっていう。まぁわたしの所感のひとつとして、それは思いますね。ただ、旧劇がさ、あんな直接画面を映しちゃうみたいなことやってたから、まぁそう受け取るひともいるわなっていう。『シン・エヴァ』も過剰にそういうふうに言ってきてるんやって思っちゃうのもしかたないっていうかね。
shakke 旧劇インパクトがあったがゆえにね。たしかに観てるあいだ、いつオレらがスクリーンに映るかヒヤヒヤしてたもんね。
mieuxxx ハハハ。
shakke でもさ、さっき言ったFacebookで結婚報告って話でいうと、いわゆる考察厨とか、〇〇エンドがいいとか言ってるのって、その結婚報告に“別の子と付き合えばよかったのに”みたいなこと書くみたいなことでさ、無粋じゃないですか。そういうことですよ、やっぱ。そういうこと言うもんじゃないよなっていう。
mieuxxx そうだよねぇ……大変だなぁ。
okadada でも、みゆととも旧劇を観たらなんとなくわかるでしょ。昔はあの映画がすごい衝撃的だったっていう。
mieuxxx わかるわかる。
okadada いまだにDV被害者みたいな感じになってるっていう。昔よく殴られてたからビクビクしちゃってるみたいなことがあるんやろなって。オレは旧劇で殴られへんかったから平気やけど。
shakke オレはけっこうボコボコに殴られてたからなぁ。
okadada そうそう、そういうひとが多いからこそ、呪詛を生むひとも多いかなぁと。けど、いろんなこと言ってるの見たけど、やっぱイヤだな、ああいうのは。いくら“これは愛です”って言われても、これが愛なら愛などいらぬって気持ちになっちゃうなぁ。あんな呪詛はダメよ。庵野に対する罵倒とか不幸になれとか。言うなよ、そんなことって思いますけどね。『シン・エヴァ』を認めない派閥の過激派が“まだこの戦争は終わってねえよ”みたいな、連合赤軍化してる、みたいなこと言ってたけど、よくよく考えたら、連合赤軍とかは思想でやってるけど、そういうひとたちは思想でもないからテロリストでもない。通り魔。
mieuxxx そうだねぇ。
okadada テロリストはあくまで思想に殉じるひとやから。これはもう通り魔化しとると。すごいっすよねぇ、作品とかキャラクターのファンになるひとっていうのは。逆説的にいえば、物語とキャラクターっていうのはこんなにも人を動かすんやなぁって。
shakke それこそ旧劇の時代よりもある意味で深まってるというか、より内在化しちゃってるっていうか。
okadada “推し概念”って言葉がこんだけ一般化してるわけで。それはそういうことに近いじゃないですか。
shakke だから『プロフェッショナル 仕事の流儀』で庵野が言ってたある種のあきらめみたいな話にもちょっと通じてるよなと思いますねぇ。

フル音声は以下より