チャッターアイランド vol.9

『チャッターアイランド』はDJ/プロデューサーのokadadaとDJ/ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト/音声コンテンツです。毎月1回、月末の配信を予定してます。

『腰折れスズメ』を考える

okadada 実際にある、オレらが知らない民話を想像して、答え合わせできるっていうね。
shakke そうね。(実際の話と想像の)落差でおもしろいってのはあるね。どんなのがあります?
okadada 『腰折れスズメ』。
shakke ハハハハハハ!
okadada もうすでに荒れそうな。ちょっと1回やってみますか、『腰折れスズメ』。どういう話ですか?
shakke まずスズメは出てきますよ。で、やっぱりいいおじいさんと悪いおじいさんが出てくるよね。いいおじいさんと悪いおじいさんの家は隣どうしで、いいおじいさんはスズメにいつもエサをあげてて。そこに主人公のスズメは来てチュンチュンいってるんだけど。隣の悪いおじいさんがスズメに“うるせえ!”みたいな。
okadada あぁ、はいはいはい。餌付け禁止やと。
shakke そうそうそう。で、再三そういうこと言っていやがらせしてたんだけど、もう怒りの頂点に達した悪いおじいさんが……
okadada うん。
shakke そのスズメの腰を思いっきり折る!
okadada ハハハハハハ!
shakke で、オカダさん続きはどんな感じ?
okadada え! 交代スタイルなんですか! そもそもスズメの腰ってどこ?
shakke 背か腰かわからんけど、昔はそのあたりは全部腰って言ってた。
okadada えっと、その折れたスズメを見て、いいおじいさんは“なんてかわいそうなことを……”となって。
shakke なるね。
okadada 弔ってあげようって。
shakke え! 弔うの? もう死んじゃってんだ?
okadada そら腰折れてんやもん。脊髄損傷ですよ。ちょっと待ってよ。じゃあ、シャケちゃんバージョンのエンディング教えてよ。
shakke いや、でもオレのバージョンは、腰は折れても心は死なず、みたいな。
okadada ハハハ。不屈の精神で。リハビリもがんばって。
shakke そう。でもいいおじいさんからしたら“なんてひどいことを……”って気持ちがあるわけですよ、やっぱ。で、義憤に駆られて。悪いおじいさんを家に招いて。エサを撒くわけです、あの日のスズメのようにね。そんで、家に呼んでご飯を食べさせると思いきや……
okadada はい。
shakke 超絶な折檻。
okadada ハハハハハハ! 殺すとかじゃないんや!
shakke もう折檻、折檻で。
okadada 具体的にどういう?
shakke 腰を折る。
okadada うわ、腰折った!
shakke そんで悪いおじいさんは“これじゃ腰折れスズメだよぉ……”つって……
一同 フハハハハハ!
shakke で、腰の折れたスズメも回復して、チュンチュンつって帰っていって。隣の悪いおじいさんは腰が曲がったまんま。でも腰が折れて低い目線になったことでスズメとか生き物のかわいさだったり……
okadada 弱者の気持ちも理解する。
shakke そう。で、最後は悪いおじいさんがエサをファッって撒く瞬間でエンドロールです。
okadada ハハハハハハハ! いいエンディングっすねぇ。悪者改心エンディング。
shakke やっぱり教訓みたいものを入れたいからね。
okadada なるほどね。
shakke オカダさんはどう思いますか、『腰折れスズメ』。
okadada でもその設定、けっこういいっすね。
shakke ベタだけどね。
okadada やっぱベタがいいんすよ。『腰折れスズメ』ねぇ……。
shakke でもあるんだもんねぇ、実際に。
okadada そうそう。調べたらちゃんとした『腰折れスズメ』があるわけですから。でもシャケちゃんのそのフォーマットはいただきたい。主人公のおじいさんがスズメにエサをあげてて、隣が“うるせえ!”ってパターンからいきたい。で、隣の悪いおじいさんがスズメをバキッと。
shakke 折っちゃう。
okadada もうモナカみたいに。
shakke ハハハハハハハ!
okadada もう真っ二つですよ、スズメなんて。それを見てたいいおじいさんは“かわいそうなことや……。もう神も仏もないのか”と。お墓作ってあげて、祈るわけです。“こんなことありまっか?”。それを聞き届けた仏さまが……
shakke おお、出てきた!
okadada “それはよくない”って言って、悪いおじいさんの夢のなかに出てくるんすよ。
shakke 枕元に立つんだ、仏が。
okadada そしたら、その夢の世界みたいなとこでそのスズメに会うんですよね。で、逆のことをされるっていう。
shakke 逆のこと?
okadada スズメに腰をバキッと折られて。
shakke ハハハハハハハ!
okadada 悪いおじいさんは“ギャアアアア!”ってなって。で、ハッと起きるんです。
shakke そうか、夢だもんね。
okadada そうそう。それでスズメに悪いことしたなって思って、お墓に手を合わせるっていうエンディング。それか、その後、変わり果てた姿のおじいさんがいました、みたいなパターンでもいい。
shakke 身体がバキバキに折れたおじいさんが……。
okadada それでもいい。
shakke でも、やっぱ仏が出てくるあたりにオカダさんっぽさがあるっすね。
okadada そうですか。
shakke やっぱ仏教思想みたいなのを通ってるひとの。
okadada ハハハ。関係ないと思うけどなぁ。悪いおじいさんが腰を折られるっていうのは。
shakke 因果応報というか。で、実際の『腰折れスズメ』はどんな感じなんですか?
okadada ね。この話、『宇治拾遺物語』に入ってるらしいですよ。
shakke へえー。
okadada 『腰折れスズメ』。むかし、あるところにとても優しいおばあさんがおったと。ある日のこと、おばあさんが庭に出てみるとスズメが一羽、飛び立つことができないでバタバタしとる。そっと近づいて手に取ってみると、スズメの尾っぽ羽が折れとるんだと。
shakke なるほど。最初から折れてるパターン。
okadada おばあさんはスズメの尾っぽ羽に薬を塗り、ちんまい添え木を当ててやったと。籠のなかに入れて、水をやったり米を食わしたり、まめまめ世話したと。だんだんスズメは元気になり、そのうちすっかり治ったと。おばあさんはポカポカした日にスズメを籠から出し“ケガが治ってよかったなぁ、さあはよ、お父っつぁんとお母っつぁんのところへ飛んで行き」ちゅうて、放してやったと。スズメは、ちょっとのあいだバタバタしとったが、すぐにどこかへ飛んで行ったと。
shakke うんうん。
okadada ひと月ほど経ってから、おばあさんの家の庭にいつかのスズメが来て、チュンチュンとしきりに呼ぶそうな。“おお、また訪ねてくれたかいや”とおばあさんが庭に出ると、“このあいだは大ケガをしているところを助けてくださいましてありがとうございました。今日はお礼に来ました”。
shakke ハハハ! けっこうハキハキしゃべるやん!
okadada と言っておばあさんの前に種のようなものをホロンと落としてくれたと。おばあさんが庭に種をまいておいたら、それが芽を出し、すんすん伸びて、葉は茂るし、花も咲いて、たくさんの実がなったと。見事なひょうたんだった。取り切れんほどだったと。
shakke すごいね。
okadada “こりゃすごい。近所にも分けちゃろ”ちゅうて、配った残りを5つ6つ倉のなかにぶらさげておいたんだと。秋になって、よく熟れて皮が堅くなってから下ろそうとしたら、そのひょうたんがズッシリ重いんだと。抱えきれんから縄を切って落とした。不思議に思って、ひょうたんのヘタを切ってなかをのぞいて見ると、なかには白い米がいっぱい入っておった!
shakke おお!
okadada 米は食べても食べても尽きないのだと。おばあさんは米を売って、毎日、花を作ったり、こどもに話を聞かせたりして、一生安楽に暮らしたと。しゃみしゃっきり。
shakke ハハハ。しゃみしゃっきり。
okadada これ、ちょっと聞いたことあるかも。
shakke あと似た話……スズメじゃなくても、いわゆる『かさこ地蔵』的な流れだよね。恩返し的な。
okadada でも“腰折れ”じゃなかったですねぇ。
shakke そうねぇ。
okadada 風切羽がないってことでしょ。で、飛べないっていう。『腰折れスズメ』って言われたらねぇ、バキッ! っていうのを……
shakke こっちは折りたくなっちゃうもんね。

各回タイトルから端を発して

okadada 気にもしてないんやけど、前回の録音が全然伸びひんなって思ったときに、こういうことを気にした結果、YouTuberとかのコンテンツが似ていくんやろうなっていうのがすごいわかったっすね。

shakke たしかにねぇ。前回とかだったらタイトルどうすればよかったんだろうな。
okadada 意外といちばん聴かれてるなっていうのが『彼氏ヅラしないでね』と『“しか勝たん”カルチャー』の回。これやっぱね、小見出しがキャッチーなんですよ。
shakke キャッチーだねぇ。
okadada でも、あんまりそれに振り回されるのもイヤだねっていう。
shakke そうねぇ。どうせ今回も昔話の話題とかあんまり引きのないやつですよ。いまの話で思ったのは、Clubhouseやってると、あれってもうルームのタイトルでどれだけ聴かれるかが左右されるみたいなところがあって。ビュー数が増えるようなタイトルを狙うムーヴがこの1週間だけでも変化があったなって。
okadada 絶対そうなるんですよね。クラブとか音楽とかは形式に合ってるからいいっていうのがあるわけじゃないですか。“踊る”という機能に向かっていくからこそ、いいものができる。そういうことももちろんあるわけなんで、全部が全部悪いとは言えないんですけど、やっぱりイヤな部分もある。いま2分半くらいの長さの曲が増えたのはSpotifyで再生されやすいから、みたいな話もあるじゃないですか。で、昔の曲が長いのは、12インチができて、それやったら片面フルで使う曲を作ろうって感じで、そういうふうになっていくもんじゃないですか。そういうふうに変わっていくこと自体はいいんですよ。“最近の曲はよくない。短くなったことでインスタントになってる”って意見もあるけど、60年代の曲なんてほとんど3分ない曲ばっかりですから。それは7インチに収まる長さだからとか、ラジオがメインのカルチャーだったからラジオでかけやすいとか。もういまとまったくいっしょなんですよね。
shakke フォーマットにアジャストしていくっていうね。
okadada そうそう。それ自体は悪くないけど、とはいえ、よくないと思うこともある。たとえばYouTuberのサムネが全部似ちゃうとか、ジャンプカットの編集が全部いっしょになるとかはやっぱ見てて気分はよくないっていう。
shakke それって平均化だもんね。
okadada あとはここ最近、ウェブで連載しているマンガの文字のフォントが大きくなってて。コマ割りが変わってきてるんです。コマ数が減ってるんですよ。スマホで読むからコマを割ると小さくなって読みにくくなるんですよね。だから見開きとかが減ってるっていう。これって、音楽でいったら音圧を上げるみたいなことやなと思って。
shakke たしかに。
okadada “みんなスマホのイヤホンで音楽聴くからこういう音にしよう”みたいなことに近い。ちょっとオレはそういう最近のマンガの変化を見ててちょっとイヤだなと思って。自由度が減ってると思っちゃって。
shakke うん。その変化がそのまま表現に直結していればいいと思うけどね。でも、フォーマットに順応するせいで表現が甘やかされてるんだったら、それはあんまりよくないっていう。
okadada それはめっちゃそうですね。マンガも“そうなんねやったらこうしよう”ってなるんだったらわかる。でも、本当はもっとコマ割って豊かにできるのにスマホで読まれるからできないっていうのはイヤっすね。ちょっとそういうこと考えちゃいました。ただ、なんでもかんでも形式が作るわけじゃないねんなと思いつつも、“形式が悪いわけじゃない、音楽は自由や!”みたいなことともちがうと思う。どこの国で作られたかとか、だれが聴くかとかで、音楽の価値は変わるし。
shakke そうだねぇ。

okadada スマホで見られるんならこういうマンガを描こう、みたいなことはすごくいいっすよね。建設的。韓国とかで流行ってるウェブコミックは縦に延々と連なってるわけですよ。
shakke スクロールしていくってことか。
okadada そうそう。スクロールで読まれるならこういう表現をしよう、みたいな。たとえば右側にだけコマが左が空白、縦にスクロールすると、左側にコマがあるとかね。それは体験としていいじゃないですか。読んでて気持ちいいし。『タテの国』っていうマンガが少年ジャンプ+で連載してるんですけど、それは縦スクロールなんですよ。で、話の舞台が上にも下にも続いてく塔に住んでるひとたちの話で。
shakke なるほど。ちゃんと縦スクロールが物語の構造にもリンクしてるんだ。
okadada そうそう。そういうのはやっぱすごいですよね。
shakke 必然性ってことですよね。



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