半分だけ

ちょっと前に見た夢(最近夢についての記憶が曖昧でいつ見たのかもわからない)。

 僕に録音機材一式を譲ってくれた先輩は飲食店に商売がえして、その後なんのかんのを経て十年前にラーメン屋を開業してそれなりにやっていたのだが、今回縁あって奥さんの郷里に店を移すというので、引越しの手伝いに来た。
 奥さんは先に向かったとのことで、先輩と二人で家財道具を積んだ車で高速に乗る。都心から数時間の移転先の村は思ったよりも田舎で、新しい店があるのはメインストリートだと言われたが、他にろくに店もないし人どおりもない。
 まずは住居へということで店からさらに奥まった山の中へ車を乗り入れて三十分。元は藁葺きだったらしい傾斜の強い屋根の平屋についた。近所には意外に家がある。繁華街のはずのメインストリートと人口密度が変わらないくらい。
 長方形のシンプルな平屋だがそこは田舎のことで中は広い。宴会用に襖を取り払って一間にした内部は小学校のプールくらいの空間だ。地元の人か親戚の人か、大勢の女性がちょっと変わった着物で食事をしていた。
 先輩は台所へ奥さんを探しに行った。空いてるところに座っていろと言われたが、周りが知らない女性ばかりで落ち着かない。どうも、と中途半端な挨拶をして玄関から上がって一番最初の空席に腰を据えた。目の前には膳がある。鉢がいくつかと盃が並んでいる。
 隣の女性から酌をされて飲みはじめた。やはり着物がただの和服ではない。胸のあたりから締め損なった帯のように布が垂れている。布は人によって色々だが垂らし方は全員同じに見える。
 宴会はかなり進んでいるらしく、どの膳を見ても手をつけた跡がある。精進料理のようで、鉢は緑や赤の野菜の煮物やおひたしだが、あまり見覚えのない野菜で、空腹にも限らず手を伸ばす気になれない。
 ふと隣の酌をしてくれた年の頃は先輩くらいの女性の膳を見ると、全ての料理が半分ずつ食べられている。おあがりなさいと勧められたので、恐る恐る箸をつけ、何かの芋のような物を半分だけかじった。
 咀嚼しながら箸を置いたところ隣からひょいと箸が出て来て、その半分になった芋をさらっていった。
 呆然としながらも隣を見ると、さあ、早く他のものも半分にしてくださいな、と言う。自分の常識にはない事態に思考が止まってしまったが、よく見ると周りの女性が全てこちらを見ている。さあさあ早く半分に半分に。
 半分になったものしか食べられないというか。
 その理屈がわかった途端に目が覚めた。

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