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『バートン・フィンク(BARTON FINK)』コーエン兄弟

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コーエン兄弟・徹底解剖その4~カンヌ3冠の傑作『バートン・フィンク』って、どんな映画なの?

ほれ見ろ。やっぱり『バートン・フィンク』が来たで。 映画史上に残るあの傑作を、おかえもんはどう料理するんだろう。 やあ君たち。 デビュー作の『ブラッド・シンプル』と、どちらから片付けるか迷ったんだけどね。 でもやっぱり何と言っても『バートン・フィンク』はコーエン兄弟の代表作だから。 BARTON FINK('91) それに「最新作」の『SUBURBICON(邦題:サバービコン 仮面を被った街)』とも非常に深い繋がりのある作品だ。ほぼ同じテーマが使われている。

コーエン兄弟・徹底解剖その5『バートン・フィンク』②「Gut!Gut!Gut!」

それにしても前回は驚いたね。 まさか映画冒頭の芝居が、あんな構造になっていたなんて… コーエン兄弟・徹底解剖その4『バートン・フィンク』① せやな。 しかしホンマにニューヨークが「エルサレム」で、ロサンゼルスが「ローマ」なんやろか? ふふふ。まだ疑うのかい? 僕とコーエン兄弟の波長は見事なまでに重なり合っているというのに… その自信は、どっから来よるん… だってコーエン兄弟は、デビュー作『ブラッド・シンプル』でも同じことをやっているんだもん。 へ? こ

コーエン兄弟・徹底解剖その6『バートン・フィンク』③「"CHET!"って何?」

さて、いよいよロサンゼルスでの物語を解説するよ。 前回のニューヨーク編はコチラ~! しかし『バートン・フィンク』の解説記事で、ここまでニューヨークのシーンに重きを置いて解説しとるのは見たことないで。 だってNYのシーンは、この映画の肝だからね。 メインのLAでの物語を読み解く上でのヒントが全て用意されているんだ。 NYシーンを正しく理解すれば、LAでの物語がバートン・フィンクの「妄想」だということがよくわかる。 ホントにそうなのかなあ… さて、LAシーンは「

コーエン兄弟・徹底解剖その7『バートン・フィンク』④「621号室と623号室の謎」

さて、チェックインを済ませたバートン・フィンクは「621号室」へと向かった… 前回を未読の人はコチラ! 「”CHET!”って何?」 「621」っちゅう数字にも意味がありそうやな… もちろん。隣人チャーリーの部屋番号「623」もね。 どんな意味が隠されてると思う? 「階数」の「6」は「十戒」の「第6の戒律」やったから、「21」と「23」は… それぞれの戒律の詳細な項目じゃないの? 「戒律第6条、第21項:前項の目的を達するため、銃剣鈍器その他の凶器を保持しな

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖5「めくれる壁紙とヌメヌメの謎」

さて、今回はバートン・フィンクとチャーリーによる「最初の会話」から解説しよう。 前回を未読の人はコチラから! その④「621号室の意味とは?」 衝撃的な回やった… 毎回のことやけど。 隣室「623号室」の男が苦情に対する文句を言いに来たと思い、ビビりながらドアを開けたバートン… だけど、隣人はそんなに悪い男ではなかった。 ちなみにこのポーズは、フラ・アンジェリコ『受胎告知』の中に描かれていた「楽園を追われるアダム」のポーズだった! その通り。 バートンの

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖6「猛烈早打ちタイピストおばちゃんの謎」

さて、今回こそはガンガン進むぞ。 もう「バートン・フィン編」の6回目なのに、まだチャーリー(ジョン・グッドマン)の初登場シーンだもんね! マジでお願いしますよ! 早よせんと『サバービコン 仮面を被った街』の公開日になってまうで。 『サバービコン』公開記念で始めた企画だからね。まかしといて。 前回を未読の方は、まずコチラからどうぞ… さて、チャーリーと初めて「会った」夜が明け、昼近くにバートンは映画プロデューサーのベン・ガイズラーに会いに行く。 このシーンの始

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖7「同業者W.P.メイヒューと15の秘密」

さあ、映画の最重要人物「W.P.メイヒュー」の登場シーンを解説するよ。 前回を未読の人はコチラをどうぞ! 第6回「このおばちゃん、いったい何者?」 あの「猛烈早打ちおばちゃん」には驚いたな。まさかあんな重要な役割を担っとったとは… この映画はホント凄いよね。細部の細部まで完璧に作りこまれている。無意味な描写やセリフがひとつも無いんだ。あらゆるものが絡み合って、壮大な物語を紡ぎ出している。 さすが、史上唯一のカンヌ主要部門三冠作だな! さて、W.P.メイヒューの

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖8「肉体の悪魔ーThe Devil in the Flesh」

さて、バートンはトイレで言われた通りにW.P.の部屋を訪ねたんだけど、W.P.は酷い泥酔状態で、とてもじゃないが「レスリング映画」の話を聞くことはできなかった。 その代わりにバートンは、W.P.の秘書兼愛人「オードリー」と仲良くなれたんだったね。 後日改めて会うことにして、この日はホテルへ帰った。 前回を未読の人はコチラ! 徹底解剖・第7回『同業者W.P.と15の秘密』 次のシー​ンは、バートンの部屋「621号室」での「差し入れ」のアップやったな。 フロント係

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖9「チャーリーの話が下世話に聞こえる人は心が不潔です」

大変だ!もう第9回!? 急いで終わらせないと5月4日の『サバービコン 仮面を被った街』公開日が来てしまう! コーエン兄弟のお蔵入り脚本『サバービコン』という物語を本当に理解するために始めた企画だったからね… ほっといたら1本の作品の解説を何十話にもわたって延々と書く男や。しかも完結せずに違う作品に手を出す… ホント気を付けなきゃ。さて、前回を未読の方はコチラをどうぞ。 第8回『The Devil in the Flesh 肉体の悪魔』 前回は「処女懐胎」だった

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖10「チャーリーのレスリング講座」

さて、前回を未読の方はコチラをどうぞ。 第9回「チャーリーはカンザスシティで何してたの?」 チャーリーの「武勇伝」が、実は聖書の「某有名シーン」の説明だったとは驚いたね。 そんでもって「レスリング実演講座」は、聖書で「最も有名なシーン」の再現になっとるっちゅうハナシやったな… その通り。さっそく解説を進めるよ。 チャーリーによる「主イエスの変容」の説明を途中で遮ったバートン・フィンクは、暗い顔で、こう語る。 「君が羨ましいよ。君の仕事は単純だ。やることも、やり

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖11「海水浴をする女とネブカドネザル」

さて、チャーリーと「妄想レスリング」を行ったバートン・フィンクは、脚本のヒントとなる「何か」を掴み、タイプライターの置かれている机に向かった… 衝撃の「妄想レスリング」解説はコチラ! 徹底解説第10回「チャーリーのレスリング講座」 そしてバートンの頭の中で「打ち寄せる波の音」が鳴り響く。 壁に飾られている『The Bathing Beauty(海水浴をする美女)』の写真から、新しいイメージが湧いてくるんだね。 そして新たな妄想が始まる。 再び「アル中作家W.P

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖12「妄想ピクニック前編~オードリーの秘密」

さて、今回は映画『バートン・フィンク』の最重要シーン「バートン、W.P.メイヒュー、オードリーによる妄想ピクニック」を徹底解説しちゃうよ! シーンの冒頭3秒間で行われるクロスフェードをこれでもかと解説した前回はコチラ! 第11回『The Bathing Beauty』 シーンの「つなぎ目」をここまで語るやつ初めて見たわ。 しかもテクニカルな話は一切なしで。 ふふふ。 さて、バートンの部屋に飾ってある『The Bathing Beauty(水浴をする美女)』がフ

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖13「妄想ピクニック中編~預言者たちの午後」

さあ、映画『バートン・フィンク』最大の見せ場… 「W.P.の歌う『オールド・ブラック・ジョー』と、バートン&オードリーによる会話が織りなす魅惑のハーモニー」 を解説するよ! 前回を未読の人は、まずコチラから~ 第12回「妄想ピクニック前編:オードリーの秘密」 せやけどホンマかいな… 酔っ払いオヤジのW.P.メイヒューが、歌詞の中の「たったひとつの単語」だけ変えて歌っておって、それによって歌が二人の会話と「コール・アンドレスポンス」の関係になっとるっちゅうのは…

コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖14「妄想ピクニック後編~オールド・ブラック・ジョー」

さあ、いよいよ映画『バートン・フィンク』の山場ともいえる重要なシーンだ! 「妄想ピクニック」の後半、W.P.メイヒューが歌う『オールド・ブラック・ジョー』の徹底解説だよ! 日本語字幕や吹替えではなぜかコーエン兄弟の意図が完全にスルーされてしまった「問題の場面」なので、日本の映画ファンは必見だぞ! その前に、前回を未読の方はコチラをどうぞ。 第13回「預言者たちの午後」 さて、秘書兼愛人のオードリーに「汚物」扱いされたW.P.は、ムキになって強がりを言った… 「