日の名残り第33話1

「Born in a Trunk」(ボーン・イン・ア・トランク)②~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第33話



~~~ 三日目・午前 大村PA ~~~



よかったね、パーキングエリアがすぐあって…

なんだろう、この煙は…

車の調子は特に変わってないし…

ナンボク、ちょっとトランクを開けてみてよ。

なんでワイやねん!

動物虐待で訴えたるわ!

たぶん俺のアタッシュケースじゃないか?

アタッシュケース?

俺たちスパイのアタッシュケースは、48時間一度も開けることがないと、自動的に消滅するようになっているのだ。

機密情報漏洩防止のためにな。

ああ!そうだった!

俺のもマズい!

トランクを開けるぞ!


(バン!)


うっ…

ゴホッゴホッ…

酷い煙だ…

ああ、人が集まってくるよ…


皆さ~ん!

何でもないですよ~!

事故じゃありませんから~!

げなげな~!

ああ、よかった…

俺のは無事だった…

よかった…

そんなに大事なもんなんか、そのアタッシュケースっちゅうのは?

当たり前だ。

ここには様々な秘密機能が収納されている。

スパイにとっては命の次に大切なものだ。

よかったね、カヅオさん…

本当によかった…

ハードディスクも無事だ…

ハードディスク?

妹の大切なビデオ映像も入れてあったんだ…

そんなのあったのか!早く言えよ!

む、昔のやつだけどな…

ここ数年会ってないから…

いいから見せろ!

じゃあ、この歌動画でも…

『Somewhere Over the Rainbow』
covered by Cathy&Victor

オカッパじゃない!

いつ俺の妹がオカッパだと言った?

だって、これだと…

誰だ、これを作ったやつは?

・・・・・

しかしむっちゃ仲良さそうやんけ…

なんかムカつくな…

まあ、他に身寄りのない二人っきりの兄妹だからな…

辛い時も悲しい時も、どんな時もずっと一緒だった…

問題も解決したんで、そろそろ出発しますよ。

みんなトイレは大丈夫?

おい!カヅオ!

お前、罰として「びわソフト」買って来い!

あそこにノボリが見えるやろ!

なんの罰だよ…



~~~ 三日目・午前 大村 ~~~



びわソフト、めっちゃ美味かったわ。

帰りも買うていこ。

あ!見て見て!

長崎空港だ!

このまま順調に行けば、あと40分くらいで長崎港に着くかな。

じゃあそれまで『Born in a Trunk』メドレーの続きを解説してくれよ。

ええっと、どこまでやったかな…

ジュディが独り立ちさせられたとこまで!

ああ、そうだったね。

では劇中劇の続きを見てみよう…

Judy Garland『Born in a Trunk』Medley

まず歌われるのはスタンダードナンバーの『アイル・ゲット・バイ』だ。

『I'll Get By』
Written by Turk & Ahlert

I'll get by
As long as I have you
Though there be rain and darkness too
I'll not complain, I'll see it through

私はきっとやっていける
私にはあなたがいるのだから
たとえ雨に濡れても闇に包まれても
決して弱音など吐きません
私はきっとやり遂げてみせます

ここの「you」は誰のことだかわかるよね?

大工やないほうのオトンや。

だね。

次に回想の語りが入る。

I learned very quickly the tricks of the trade
I practiced after everyone was gone
And with the tricks, I learned traditions
And the hardest one of all, is no matter what
The show must go on!

私はダンスのコツをすぐに習得した
皆が帰った後もずっと練習したから
伝統舞踊だって一生懸命勉強した
だけど一番大変だったことは
たとえ何があろうとも
このショーは止められないこと!

ここは何のことなの?

たぶん「宮清め」だろう。

イエスがエルサレム神殿で激しく暴れた一件だ。

神殿内で多くの商売が行われ、おカネのやり取りがされていたことにイエスが激怒したんだったよね。

アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』でも、阿呆ぼんのフィリップが、こん時のイエスを真似とったな。

「イエスの宮清め」も、多くの映画で使われるモチーフだ。

『太陽がいっぱい』のフィリップは普段は優しいんだけど、ぶちぎれるシーンが二ヶ所あった。

上の写真の「ムチを持つシーン」と、船の上で「論文をバラ撒くシーン」だ。どちらも「イエスの宮清め」のことだよね。二度に分けて描写したわけだ。

そうだったね。

そして語りはこう続く…

As time went by, I looked for jobs
And was kicked from pillar to post
I haunted all the agents offices
And I almost ended up a ghost!

その後、私は売り込みに行った
役をもらいにあちこちへ
エージェントのオフィスを駆けずり回った
死にそうなくらいにね!

ここでのポイントは「job」だね。

「job」には「仕事」という意味の他に、旧約聖書の「Book of Job(ヨブ記)」という意味がある。

「ヨブ記」もよう出てくるな。

「ヨブ記」って義人ヨブの究極の受難物語だから、「仕事」とダブルミーニングにしやすいんだ。「仕事の大変さ」を大袈裟にアピールするために。

だから「job」は「post」という言葉とセットで使われることが多い。「post」には「役」の他に「書き記す」という意味もあるからね。このセットで「苦難の歴史を語る」って意味になるんだよ。

この表現もよく使われるから、覚えておいて。

ブ~ラジャー!

そして旧約聖書「ヨブ記」の3人の友人との受難問答は、そのまま新約聖書の悪魔による3つの「荒野の誘惑」に対応してる。

だから劇中劇でも「3人のエージェントへの誘惑」が描かれるんだ…

『You Took Advantage Of Me』
Written by Rodgers & Hart

I'm a sentimental sap, that's all
What's the use of trying not to fall
I have no will, you made your kill
'Cause you took advantage of me

まず最初のエージェントオフィス。

全く無関心なエージェントのおっさんに対し、ジュディは精一杯「アピール」をする。

私はおセンチで情にもろい女
こんな私がどうやったら落ちるというの?
私には「こうしたい」とか「ああしたい」とか
何にも欲はないの
あなたをがっぽり儲けさせてあげる
すべてあなた次第なのよ

Agent「No!」

なんかすごい「売り込み」だね…

ジュディの自虐ネタやな…

十代の頃のジュディは役をもらうために「あらゆる手段」を尽くしたらしい。

どんなオーディションにも「落ちない」自信があったみたいだね。プロデューサーやお偉方を、女を武器に「落として」いたから…

だから自伝的映画『スタア誕生』でも、それを美談化せずに劇中劇として描いたわけだ。リアルに描くと各方面に波紋が広がるから、劇中劇でコミカルに描いたんだね。

そして「1人目のエージェント」シーンは「荒野の試練」の「第三の誘惑」だな。

悪魔がイエスをエルサレム神殿の天辺へ連れて行き、ここから飛び降りてみろと「誘惑」するやつだ。

悪魔は「地面に落ちる寸前で神が助けてくれるだろう」と「誘惑」するが、イエスは「神を試してはいけない」と断る。

だから歌詞に「trying not to fall」「I have no will」「you made your kill」といったフレーズが出てくるというわけだ。面白いよね。

2人目のエージェントは?

1人目の失敗を反省して、ジュディはさらに大胆にアピールする。

「デスクの上に乗る」っちゅうのも意味深やな…

「2人目のエージェント」のシーンは「第一の誘惑:人はパンのみにて生きるにあらず」だね。

リンゴに置き換えられてるけど。

I'm just like an apple on the bough
And you're gonna shake me down somehow
So what's the use, you've cooked my goose
'Cause you took advantage of me

私は木になる食べ頃リンゴ
ひとつ揺らして落して頂戴な
私は何にも気にしないから
だって私は「まな板の鯉」…

Agent「No!」

ジュディ、あっぱれや。

ようここまで己の黒歴史に向き合うた。

女優魂というか、ひとりの女としての逞しさを感じる…

そして極めつけは「3人目のエージェント」のシーン。

一番コミカルに描かれるんだけど、歌詞の内容はもう完全に「あっち」の話になっている。

ここは「第二の誘惑:私にひざまずくなら、全てを手に入れることができる」だね。

I'm so hot and bothered that I don't know
My elbow from my ear
I suffer something awful each time you go
And much worse when you're near
Here am I with all my bridges burned
Just a babe in arms, where you're concerned
So lock the doors, call me yours
'Cause you took advantage of me

体が火照ってどうにかなっちゃいそう…
もう「耳から肘」よ…

耳から肘?

こういうポーズになっちゃうってこと。

さとみおねいさん!

間違った。こっちだ…

でも「耳から肘」やったら、やっぱりマリリン・モンローやろ…

そういう勝負をしてるわけじゃない…

翻訳を続けるよ。

あなたが行ってしまう時
私どうかしちゃいそうになるんです
だけどあなたがそばにいる時は
もっとオカシクなっちゃいそう

宇能鴻一郎か!

あなたの中に体を埋めた私は
まるで抱かれた赤子のようね
あなただけのベイビーよ
さあドアに鍵をかけて
私をあなただけのものにして
あなたは私をどうにでもできるんだから

Agent「Yes!」

Judy「No!」

まさか「荒野の誘惑」を「己の黒歴史」に重ねるとはな。

これを見た時、ハリウッドのお偉方はハラハラしたに違いない。自分をモデルにしたキャラが出てくるんじゃないかと…

ジュディはハリウッドの「暗部」を知り尽くしていましたからね…

さて、ジュディはようやく「job」を見つける。

しかしそれは自慢できるような役ではなかった…

So I got into a tap show
All I did was kick my feet
You'd hardly call it a chance to sing
But at least it was a chance to eat!

そして私はショーに出演することになった
ひたすら足を踏み鳴らすだけだけど
これを「成功へのステップ」だと
あなたは呼ばないでしょうね
だけど少なくとも私にとっては
食べてくためのステップだったの!

ジュディさんも、こんな感じだったの?

そうだね。

十代の頃のジュディが出演した作品は、当時「裏庭ミュージカル」と呼ばれたB級作品ばかりだった。裏庭で作られたような低予算劇ってことだね。

もちろん『オズ』のようなメジャー作品もあったけど、大半はB級ミュージカルばかりだ。

特にB級コメディ俳優ミッキー・ルーニーとのコンビで、チープな恋愛コメディ映画が大量生産された。

じゃあ「イエスの物語」的には、ここはどうなるの?

伝道の旅を始めたことだろうね。

イエスはひたすら歩いて、教えを説いてまわったから。

ユダヤ教の保守層パリサイ派からすると、会って話をする価値すらないような人々に、イエスは積極的に関わっていった。

次に歌われる『ブラック・ボトム』は、まさにそういう社会の「下層」とされた人たちの歌だ。

1920年代のニューヨーク・ハーレム地区で花開いた黒人文化「ハーレムルネサンス」から生まれたダンス「ブラック・ボトム」だな。

その通り…

『Black Bottom』
Written by DeSylva, Brown & Henderson

They call it black bottom
A new swisher, a sure galloon, an old sister
They clap their hands and do the raggedy trot
Hot!
Old fellows with flamenco
And young fellows the way they go
They jump right in and give it all that they've got

みんなこれをブラック・ボトムと呼ぶの
お尻を突き出して振りまくり
派手なレースや羽飾りをつけてバカ騒ぎ
イカした女はみんなやってる
手を鳴らし、ジプシー女みたいに見せつけるの
最高!
オバサンたちはフラメンコだけど
ナウい女はみんなこれ
みんな夢中!頑張っていきまっしょい!

ここにも違う意味が含まれてるの?

『Black Bottom』というタイトルからして、もうバレバレだけどね。

なんで?

「bottom(ボトム)」って、レズビアン用語で「受け」のことなんだ。

受け?

「タチとネコ」の「ネコ」のほうや。

ひろし?

ワザとやろ…

バレたか(笑)

そして「A new swisher」は「新しいゲイの男友達とSMをした」って意味があるんだよね…

ハァ!?

「swish(スウィッシュ)」には2つの意味があるんだ。

1つは「ムチを鳴らす」。

そしてもう1つは「女性っぽいゲイの男性」。

そういえばwikiにも書いてあったな…

最初の離婚は旦那がジュディに「ついていけなかった」ことが原因だったと…

ジュディ・ガーランドが「ゲイ・アイコン」になったのも、ここに起因する。

まさにそうなんですよ。

前に紹介したように、ジュディの葬儀は、1979年6月にニューヨークで行われた。

その次の日にニューヨークのゲイ・タウン「クリストファー通り」で暴動が起こる。この「ストーンウォール蜂起」では『虹の彼方に』が歌われた。

そしてジュディの一周忌と暴動一周年を記念したパレードでは「レインボーフラッグ」が掲げられた…

第26話で詳しくやったな…


実はジュディ・ガーランドの作品には、あちこちに「LGBT」や「特殊な性癖」のサインが隠されていたのだ。

まだ当時は公に表現することができなかったんで、様々なレトリックを駆使して描いていたんだな。

今と違い「孤独感や疎外感」が強かった「そっち系」の人たちは、ジュディの映画を観て励まされていたってわけだ。

じゃあ他の歌詞の言葉もそうなの?

そうだね。

「a sure galloon(レースの打ち紐)」は「a sure gal loon」だろうな。

「マジで狂ったギャル」って意味だ。彼女の性癖と薬物中毒は、ハリウッドで有名なくらい深刻だったからね。

「an old sister」もレズビアンのことかな。

赤裸々…

でもジュディは、そういう人たちを大切にしたんだ。自分と同じように世間から蔑まれている人とか、心に「弱さ」を持つ人たちを…

そういう人たちへ向けて歌っていたんだね。

イエスもそうだったでしょ?

なるほど…

そして劇中劇では、こんなことが起きる。

Then one night something happened
Dame fortune showed her face
The star got sick and I was told to go on in her place

But, she recovered.
Oh well!

ある夜、何か奇跡みたいなことが起きた
運命の女神がついに私のほうを向いてくれたの
花形スターが病気になって
代役はお前しかいないって言われたの

だけど彼女は回復した…
ああ、なんてこと!

ラザロやろ。

ラザロだな。

ラザロだね…


だけど落ち込んでいたジュディに、別のチャンスが訪れる。

ニューヨークでの仕事だ。


But finally I got an offer to sing in New York
And I wired I'm on my way
I had visions that this would be
A fabulous, famous cafe
Filled with high society
Elegant, and spruce
And I pictured me the epitome
Of a very chic chanteuse

だけどついにオファーをゲットした
憧れのニューヨークで歌う仕事
私は運命の糸は再び繋がったの
あの時は、こんな風に期待したわ…
私が歌うのは、すっごくお洒落な有名カフェ
そこにいるのは上流階級の人ばかりで
みんなエレガントにおめかししてて…
私はこんな想像をしてたわけ
パリのシックなナイトクラブの
シャンソン歌手みたいな世界を…

でも違ったんだよね…

派遣されたのは、そのへんの普通の店で、しかも歌わされるのがアフロ・キューバンの歌謡曲『南京豆売り』や…

しかも酔っ払いのオヤジに絡まれる始末…

この歌は日本でも昔とても人気があった。

美人双子姉妹ザ・ピーナッツのテーマソングでもあったんだ。

The Peanuts『The Peanut Vendor』

ザ・ピーナッツ以外にも多くの流行歌手が、この歌をカバーした。

だけど、いつの頃からか日本人には全く歌われなくなった。

なんで?

実はこの歌が「春歌」だったからだよ。

ええ!?

また「春歌」!?

当時は海外の情報がほとんど日本国内に入って来ない時代だったんで、何も知らない日本人は、この歌を勘違いして歌っていたんだね。本当に「ピーナッツ売り」の歌だと思って。

でも実は「超エロエロの歌」だったんだ…

マジですか!?

こういう雰囲気で歌うのが正しいんだよね。

『El Manisero』La Bembé y su Gozadera

確かに「ピーナッツ売り」の雰囲気ではないね…

明らかに違うことで盛り上がってるような…

英詞だと、こんな歌詞なんだよ。

細部がちょっと違ういろんなバージョンがあるんだけど、一番よく出来てるやつを紹介しよう。

『The Peanut Vendor』

Written by Marion Sunshine / Moises Simons / Gilbert Wolfe
日本語訳:おかえもん

In Cuba each merry maid wakes up with this serenade
Peanuts (they're nice and hot)
Peanuts (he sells a lot)
Peanuts

キューバの浮かれた娘たちは
こんな歌声で目を覚ます
ピ~ナ~ッツ!
(あっつあつで美味しいよ)
ピ~ナ~ッツ!
(たっぷり召し上がれ)
ピ~ナ~ッツ!

「あつあつ」とか「たっぷり」とか、オッサンがそうゆう風に言うさかい、そうゆう風に聞こえるやんけ!

だから、そうゆう風な歌なんだってば。

If you haven't got bananas don't be blue
Peanuts in a little bag are calling you
Don't waste them (no tummy ache)
You'll taste them (when you're awake)

もし今あなたのお部屋に
バナナが無くても寂しがらないで
この小っちゃな袋に入ったピーナッツが
ほらほら、あなたを呼んでいる
捨てちゃダメだよ
(おなか痛くならないから)
たんと召し上がれ
(そそられた時に)

なんでバナナ?

バナナ…

そして「a little bag」に入った「peanuts」?

お前ら気付けよ。

「peanuts」とは「小さな種」のことを意味してるんだ。

顕微鏡じゃないと見えないくらい「小さな種」をな。

しかもカトリックの地域なんで「捨てたらダメ」と言ってるんだ。

ええ!?

For at the very break of day
The peanut vendor's on his way
At dawning the whistle blows
(through every city, town and country lane
You hear him sing his plaintive little strain)
And as he goes by to you he'll say
(Big jumbos) big jumbo ones
(Come buy those) peanuts roasted today
(Come buy those freshly roasted today)

まだ日も昇らぬうちから
ピーナッツ売りはやって来る
夜明けの始まりは、あの口笛の音
(彼の歌はあまねく世界に響き渡る)
(哀愁を帯びた物悲しい声が聞こえる)
あなたのそばまで来ると、こう言うよ
(めっちゃおはよう!)
朝のビッグなジャンボをどうぞ
(かなりイケますよ)
ローストしたてのピーナッツ
(煎りたてのホヤホヤ)

なんだこの歌は…

「朝のビッグなジャンボ」って…

わざとそっち方面に聞こえるように訳してるんじゃないのか?

まだ疑うんですか?

では決定的な証拠となる、続きの部分をどうぞ…

If you're looking for a moral to this song
50 million monkeys can't be wrong
(Peanuts do bop do bop)

もしやあなたはこの歌を
真面目な歌だと思ってるんじゃない?
サルでも間違うはずがないのに!
(ピーナッツ!ドゥバドゥバ!)

うわあ…

なにこれ…

「do bop do bop」んとこは作者も想定外やろ…

日本語の偶然や…

実にケシカラン歌だよね…

For breakfast (or dinnertime)
For supper (most anytime)
The merry twinkle in his eye
He's got a way that makes you buy
(Each morning) that whistle blows
(Are you more than I sell)

朝食にどうぞ(夕食にも)
夜食にもどうぞ(いつでも召し上がれ)
あなたを見つめる彼の瞳が
キラリキラリと輝いたなら
あなたはもう彼の虜
(毎朝毎朝)口笛が聞こえる
(おかわりはいかがですか?)

そして歌はこう締め括られる…

If an apple keeps the doctor from your door
Peanuts ought to keep him from you even more
(Peanuts) we'll meet again
This street again
We'll eat again

You Peanut Man, that peanut man's gone
(Peanut, peanut, peanut)

もしも「一日一個のリンゴで医者いらず」なら
ピーナッツは医者を永久に遠ざけてくれる
(ピ~ナ~ッツ)
お会いしましょう、また
この小道で、また
またとまたを合わせて幸せ

ピーナッツマン…
あなたは今日も行ってしまった…
(ピ~ナ~ッツ…)

なんちゅう歌や…

こんな歌だったのか…

『南京豆売り』は…

だから歌われなくなったんだな。全編下ネタ満載の歌だから。

しかもピーナッツ売りにはイエス・キリストが重ねられている。ラテン系ならではの、実にあっけらかんとしたノリだ。

こんな春歌をジュディが歌わされているということは、ジュディが雇われた店は、「パリにあるみたいな一流クラブ」とは程遠い「イマイチな店」だということ…

酔っ払いオヤジに、

「メランコリー・ベイビーを歌え!」

と絡まれるくらいやさかいな。

この酔っ払いオヤジの「Sing!Melancholy baby」ってセリフにも、深い意味があるんだよ。

次の歌のタイトルだけじゃなくて?

「Melancholy baby」ってイエスのことなんだよ。

だから酔っ払いオヤジは、

「歌え!イエスよ!苦渋に満ちた歌を!」

って言っているんだね。

どうゆうこっちゃ?

「melancholy」って単語はギリシャ語由来の言葉で、「黒い(melan)+胆汁(choly)」って意味なんだ。

むかしギリシャ医学では「胆汁が黒くなると気分が憂鬱になる」って考えられていたんだね。

だから、誰かが物憂げな表情をしてると、

「それは君の黒い胆汁のせいだね」

って言われたらしい。

どんな慰め方だ…

イエスはいつも物憂げな表情だったから、きっとよく言われたに違いない。

イエスの周りにはギリシャ語が堪能な人もいたからね。

そしてイエスが磔になった際、ロンギヌスという兵士がイエスの死を確認するために槍で体を刺した。

『キリストの脇腹を槍で刺すロンギヌス』
フラ・アンジェリコ

その時に刺した場所が「胆嚢」だと言われている。

そうだったのか…

ここまで作品を丁寧に解剖されたら、ジュディも草葉の陰で喜んでいるだろうな。

ちょうど今年は、LADY GAGA主演でリメイクされるらしいしね。

ワイらの世代としては、マドンナにやってほしかったな。

20年前くらいに。

マドンナ版『スタア誕生』は観たかったね。

おっと、もう諫早だ…

あと20分ちょっとで長崎に着いてしまう。

急いで『スタア誕生』を終わらさなければ…

そういえば、今回はついにカズオ・イシグロもボブ・ディランも出て来なかったな。

そういう日もある。



――つづく――



『スタア誕生』(@Amazon)




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