米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第12節「☆⋆⋆☆」
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さあ、名探偵の深読みを聞かせてちょうだい。
『アイネクライネ』が意味する「ある小さな夜」とやらを…
いったいどんな夜だっていうの?
う、うん…
米津玄師がこの歌のタイトルにモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を引用したのは…
この歌が「ある小さな夜」の歌であることを伝えるためだったんだ…
「本格的な夜」じゃなくて「小さな夜」…
つまり「プチ夜」をね…
なによ「プチ夜」って?
今みたいな状態だよ。
さっき歩いてた時、空が急に黒い雨雲に覆われて、まるで夜みたいになったでしょ?まだ昼過ぎなのに。
ああ、なるほどね。
確かに今、外は夜みたいに暗いもんね。
そして…
今と似たことが、ちょうど2000年くらいの前の、この時期に起きた…
ある春の日の昼下がりに、突然ね…
2000年前の、ある春の日の昼下がり?
そんな大昔の天気が時刻までピンポイントでわかるの?
記録に残ってるんだ。
マタイ 27:45
さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。
ルカ 23:44
時はもう昼の十二時ごろであったが、太陽は光を失い、全地は暗くなって、三時に及んだ。
記録って…
これ聖書じゃない。
イエス・キリストがゴルゴダの丘で十字架にかけられた時の…
そうだよ。
『アイネクライネ』という歌は、この二千年前の「昼なのに突然、夜みたいになった日」を歌ったものなんだ。
マジで?
だから歌のオチが、
「あなたの名前を呼んでいいかな?」
なんだよね。
オチ?
この歌における「あなた」とは…
その名前を闇雲に呼んではいけないとされる人物…
というか「存在」だから…
え?
だから新約聖書では「その名前」が一度も呼ばれることはない…
ヘブライ聖書(旧約聖書)には、6859回も名前が書かれているというのに…
それらを踏まえて、米津玄師は「あのオチ」にしたというわけだ…
「呼んでいいかな?」って問いかけた「あなたの名前」は…
神様の名前「YHWH(ヤハウェ)」ってこと?
そう。
日本では明治以来「ヱホバ」という名で親しまれてきた。
昔の文学作品などにも、よく登場するよね。
そういえば「ヤハウェ」とか「ヱホバ」って、聖歌とか讃美歌にもよく出て来るわよね。
祈りの言葉とかにも。
新約聖書に出て来ない名前なのに、どうして?
以前は、モーセの十戒にある「神の名をみだりに唱えてはならぬ」という文言通り、必要な時はOKだと考えられていた。
だけどそれが次第に「いかなる時も神の名を唱えてはならぬ」というふうに解釈されるようになり、イエスの生きた時代には、たとえ「YHWH」と書かれていても必ず「アドナイ(わが主)」と呼ぶようになっていたんだ。
だから新約聖書には「神の名前」が出て来ないんだけど、いわゆる「聖書」にはヘブライ聖書の主要部分も収録されている。
もちろんそこには「神の名前」が繰り返し書かれているよね。
ヘブライ語では「YHWH」と書かれていても「アドナイ」と読むんだけど、旧約聖書を他言語に翻訳する際にそのまま「ヤハウェ」としてしまった。
だから旧約を引用した祈祷文や聖歌には「神の名前」が含まれているというわけなんだ。
なるほどね。
でも近年、祈祷文や讃美歌から「ヤハウェ/ヱホバ」の名前は消えつつある。
カトリックの総本山バチカンの意向を受けて、どんどん「アドナイ(わが主)」に置き換えられているんだ。
そうなんだ。知らなかった。
でも長く親しんできたものが「オトナの事情」で書き換えられたり消されちゃうって、ちょっと寂しいわよね。
僕は、そんな事情も含めて米津玄師が『アイネクライネ』という曲を作ったんじゃないか…って読んでいるんだけど。
彼も長年親しんだ名前「ハチ」を消した過去があるから…
これぞ深読み、ってやつね。
とにかく、
「あなた=天の父」
「あたし=イエス」
として歌詞を読むと、『アイネクライネ』という歌はストンと落ちて来る。
歌詞だけでなく、米津玄師が描いたイラストもすべて。
じゃあ始めましょうか。
はい、イヤホン。
へ?
だって大きな音、出せないでしょ?
ここカフェだし、奥の部屋でライブやってるのよ。
あ、そっか…
じゃ、行くよ。
まずはどこで止めたらいい?
えーと…
「いつか来るお別れを育てて歩く」までの歌詞で…
星が4つ出て「アイネクライネ」と「米津玄師」という文字が映るとこまで…
アイアイサー。ポチっとな…
はいストップ。
あたし、わかっちゃった!
あたしあなたに会えて本当に嬉しいのに
当たり前のようにそれらすべてが悲しいんだ
今痛いくらい幸せな思い出が
いつか来るお別れを育てて歩く
この出だし部分はコレのことね!
「痛いくらい幸せな思い出」と「お別れを育てて歩く」は、自ら進んで死を受け入れ、刑場のゴルゴダの丘までの道ヴィア・ドロローサ(苦難の道)を、十字架を背負いながらムチ打たれて歩いたことよ!
そうだね。
イエスは前の晩、弟子たちに向かって、こんなことを語った。
「私は天の父のもとに帰る」
「私を見ることは、天の父を見るに等しい」
「あらゆる祝福は、私の名において父から与えられる」
自分が明日処刑されること、そして自分が神の子であることを伝えたものなんだけど、筆頭弟子ペトロをはじめ皆チンプンカンプンだった。
イエスが逮捕された時、みんな逃げちゃったくらいだもんね。
自分たちの師が十字架に掛けられる時も、男の弟子で見届けに来たのは「最も愛された弟子ヨハネ」だけだった。
それ以外の男たちは、息をひそめて隠れていたのよね。だらしない。
でもイエス自身も、この状況を受け止め切れてはいなかったんだ。
さっきの言葉を弟子に語った後、ゲッセマネの園で「この杯(運命)を私から過ぎ去らせてください」と天の父に祈るんだよね。
その時、苦しみ悶えるイエスの全身から、血のような汗が滴り落ちたと聖書には書かれている。
それくらい「罪人として処刑される」という現実は、受け入れがたいものだったんだ。
あらゆる憎しみや罪を背負うという精神的苦痛と、残虐な処刑による肉体的苦痛のダブルパンチだから…
それで米津玄師は「それらすべてが悲しいんだ」と歌ったのね…
宗教画でもイエスっていつも悲しそうな顔をしてる…
イエスがいつも悲しそうな表情をしているのは、キリスト教的にとても重要なことだ。
救世主の出現を預言したものといわれる旧約聖書の『イザヤ書』には「僕(しもべ)の歌」というのがあって、そこには「MAN OF SORROWS(悲しみの男)」が登場する。
いつか地上に現れる救世主は「いつも悲しんでいる」というんだ…
ボブ・ディランがヒットさせた『MAN OF CONSTANT SORROW(いつも悲しむ男)』の元ネタね。
コーエン兄弟が『オー・ブラザー!』の主題歌にも使ったやつ…
弟子たちは「師の処刑」という現実から顔をそむけた…
そしてイエス自身も「天の父の定め」から顔をそむけようとした…
それら二つの「背き」を表現するために、米津玄師はMVのイラストで、主人公である女に顔を背けさせたわけだ…
なんか、すっごく説得感ある。
そして「4つの星」と一緒に「アイネクライネ」というタイトルが表示される。
この「4つの星」には、何か深い意味がありそうね…
間奏ではこれだけがずっと映ってるし、ラストの決めショットにもこの「4つの星」が入ってた…
しかも「☆⋆⋆☆」っていうふうに、あえて最初と最後の星を大きくしているの…
なにか臭うわ…
いいところに目を付けたね。
どう見ても「意図」があるとしか考えられない。
「アイネクライネ」は「ある小さな夜の歌」だから…
つまり「イエスの十字架刑」に関係することよね…
十字架の数はイエスを含めて3つだったし…
あの場面で「4つのもの」なんて出てきたかしら…
しかも両端が強調されてるって、どういうこと?
「4つの星」は「4つの文字」を意味していると思うんだ。
両端が「同じ文字」の…
両端が同じ文字の4文字?
ああ!
「INRI」!
そう。
イエスの十字架に付けられていた「罪状」を表す4文字「INRI」だ。
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
「INRI」は「IESUS NAZARENUS REX IUDAEORUM(ユダヤ人の王、ナザレのイエス)」の頭文字だったわね…
それを最初と最後が強調された4つの星「☆⋆⋆☆」で表した…
「INRI」の最初と最後が「I」だから…
やるわね、米津玄師…
それだけじゃない。
「アイネクライネ」というタイトルに続けて、米津玄師は「☆⋆⋆☆」に自分の名前を被せたんだ。
僕はこの意味に気付いた時、「あ!」って叫んで椅子から転げ落ちそうになったね…
なんで?
これは米津玄師からのメッセージなんだよね…
「俺の名前4文字の両端に注目せよ」という…
米津玄師の両端?
「米」と「師」ってこと…?
あ!
「師」はイエスのことじゃん!
その通り。
そして「米」は…
「米」は…
主食だから「主」!
う~ん
ちょっと違うかな。
じゃあ、わかった!
「米」は祝福よ!
キリスト教式結婚式にはライスシャワーだから!
それも違うと思うな…
もっとシンプルに考えてごらん。
「米」という文字をよく見ると、何か気付かない?
「米」という文字?
中心から放射状になってる形ってこと?
なんか輪切りにしたフルーツみたいよね。
オレンジとかグレープフルーツとか、このレモンティーに入ってるレモンとか、柑橘系の。
その「米」という形の中に、別の文字が見えないかな?
別の文字?
それはイエス・キリストを表す文字…
神がこの世界を創造する時、最初に発した言葉が…
あっ!
もしかして「光」!?
そう。
米津玄師は、自分の名前と4つの星「☆⋆⋆☆」を被せることで…
「世の光である師」つまりイエス・キリストを表現したんだよ…
すごい…
なんて人なの、米津玄師は…
おそろしい才能だよね。
そこに気付いた僕自身にも驚いたけど。
さすが泣く子も黙る深読み名探偵 岡江 門ね。
あたし、この深読みを断然支持しちゃう。
たとえ米津玄師本人が「ちげーよ」って否定しても、あたしは岡江クンの深読みを信じる!
きっと彼は否定しないと思うな…
この先の歌詞やイラストを読み解いていけば、それは明白だから…
そうなの?
じゃあ続き続き…
今度はどこまで?
つづく
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