第14回:なぜディクソンのママはドナルド・サザーランドの映画と髪が好きなのか?『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説
さて、「挙動不審なペネロープ」によって観客にアンジェラの存在を気付かせるシーンが終わると、物語は一気にスピードアップする。
「挙動不審なペネロープ」については前回をどうぞ。
「死んだ娘がメッセージを伝えようとしている」ということは、映画『スリー・ビルボード』において非常に重要な設定だ。
なぜならこの映画は冒頭からラストまで「アンジェラからのメッセージ」で埋め尽くされているのだからな。
それを登場人物たちが結局最後まで気付けないところが実に愉快で面白い。
だからこの映画の真の主役はアンジェラということになる(笑)
登場人物たちだけやのうて、ほとんどの日本人も気付けんかった。
なぜだろうね…
アンジェラ憑依前と憑依後のペネロープを見れば一目瞭然なのに…
あの爽やかなペネロープがあんなふうになっちゃったのは、下品なアンジェラが中に入ったからとしか考えられない…
オープンカーの助手席で爽やかに手を振っていた「きれいなお姉さん」ペネロープは、あんな「はしたない飲み方」をするわけないよな!
あれはペネロープじゃない!
間違いなく、育ちの悪いアンジェラだ!
いっそ「ペネンジェラ」とでも呼ぼうか(笑)
ですね。
さて、ペネンジェラ登場シーンの次に来るのは「ディクソンと母」のシーンだ。
ここも短い場面だけど、この映画の狂言回し役であるディクソンは、またもや重要な発言をしてくれる。
いつもテキーラを飲みながらテレビを見とるディクソンのオカンのキャラは最高やったな。
この時は赤い派手なシャツを羽織っとった。
あの顔とあのショートヘア―やさかい、どっからどう見ても年季の入ったレズバーのママさんや。
我々が日本に来たら必ずお忍びで行く新宿2丁目の店にもよく似た人がいる。
この日の彼女の服装も「伏線」なんですよね。
まずディクソンは、テレビで映画を見てる母にこんなことを言った…
ディ「おい、勘弁してくれよ!またドナルド・サザーランドか!何なんだこれは?今月はドナルド・サザーランド月間か?」
母「私は彼が好きだ。特にヘアーが」
ディ「ヘアー!?」
なんでディクソンは「髪」に驚いたの?
「ヘアー」という言葉が2つのジョークになっているんだよね。
まず「hair(毛)」としてのジョーク。
この場面でディクソン親子が観ていた映画『DON'T LOOK NOW(邦題:赤い影)』もそうだけど、ドナルド・サザーランドは長髪が魅力の俳優だった。
だけどディクソンのママの風貌はドナルド・サザーランドではなく、息子のキーファー・サザーランドそっくりなんだよ(笑)
アハハ!ホントだ(笑)
そしてもう1つの「ヘアー」は「hare(野ウサギ)」の駄洒落だ。
映画『スリー・ビルボード』では、様々なところに「hare」が隠されている。
例えば広告代理店の壁のポスターだったり、お土産屋の商品だったり…
春の風物詩「イースターラビット」とは「復活したイエス」の象徴だからね。
欧米人は、春になると巣穴から出て来る野ウサギを、春に墓穴から復活したイエスに喩えたんだよ。
だからこの映画にはウサギがたくさん出て来るんだ。死んだアンジェラの「復活」を伝えるために…
広告代理店ではミルドレッドの背後に何度もウサギが映り、土産物屋ではウサギの置物を投げつけられ、自宅ではウサギのスリッパを履いているのにな…
それでも気付かんフランシス・マクドーマンドは相当なトンマやな(笑)
フランシス・マクドーマンドがトンマなのではない!
ミルドレッドがトンマなのだ!
トンマなミルドレッドを見事に演じ切ったフランシス・マクドーマンドは二度目のアカデミー主演女優賞を獲得した!
二度の主演女優賞といえば、イングリッド・バーグマンやヴィヴィアン・リー、エリザベス・テイラー、そしてメリル・ストリープら錚々たる名が並ぶ!
フランシス・マクドーマンドはまさに歴史に残る大女優なのだ!
わかったか!このツルピカはげ丸め!
お、落ち着け公園兄弟…
なんでお前らが熱くなっとんねん…
ちなみに「ドナルド・サザーランドのヘアー」といえば「陰毛」のことでもある。
この日放送されていた映画『DON'T LOOK NOW(邦題:赤い影)』は、当時はタブーとされていたセックスシーンが話題となった作品だ。
他にもドナルド・サザーランドは数多くの映画で露出の激しい大胆な濡れ場を演じた。
残念ながら日本ではボカシ付きになってしまったけどね…
ちょっと懐かしい言い方をすれば「ヘア男優」ってところかな。
でもなんで数あるドナルド・サザーランドの出演作の中から『DON'T LOOK NOW』が選ばれたんだろう?
この映画『スリー・ビルボード』に大きく関係してるからだよ。
ディクソン母子の会話はこう続く…
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