虫になったアンジェラは何を伝えようとしていたのか?~『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説4
さて、3枚のボロボロ看板を見た主人公ミルドレッド・ヘイズは、そこに広告を出そうと思い、町の広告代理店へと向かった…
前回を未読の方はコチラをどうぞ!
せっかくオンボロ看板には、死んだ娘アンジェラから事件の真相を伝えるメッセージが書いてあったのにな…
何か胸騒ぎがして戻ったところまではよかった…
しかしその胸騒ぎの意味に気付けず、重大なサインの上に別のサインを書こうと考えてしまう…
この映画は、登場人物がことごとく勘違いを重ねてしまう物語なんですよ…
そしてどんどん事件解決から遠ざかってしまうんです…
まず主人公ミルドレッドは、殺された娘アンジェラのサインに気付けず、別のメッセージを3枚の看板に上書きしてしまう…
そして書き直された3枚の看板を見た真犯人のウィロビー署長は「もしやミルドレッドは気付いたのか?」と勘違いしてしまう…
ミルドレッドによる犯人を名指しするメッセージが偶然の産物だったことを知り安心したウィロビーだったが、取り調べ中にミルドレッドの顔面に吐血してしまったことで「今度こそバレる」と思い込み、自殺を決意…
ウィロビーは自殺の前にミルドレッドへ手紙を書く。その内容は「俺が死んだあとも広告を残すために1ヶ月分の料金を払っておいた。それを見たら多くの者の胸にお前への怒りが込み上がるだろう。もしかしたらお前を殺そうと考える者もいるかもしれないな…」というもの。だけどミルドレッドはその意味を勘違いしてしまう…
そしてウィロビーは、何かあった時のために手懐けていたディクソン巡査に手紙を残す。その内容は「ミルドレッドを逮捕しろ。抵抗したら殺してもいい」というもの。だけどディクソンも意味を勘違いしてしまう…
ウィロビー署長からの手紙って、そんな内容だったっけ?
すっごく感動的なものだったような気がする。
違うんだよ…
ウィロビーは夫婦の会話にもシェイクスピアやオスカー・ワイルドを引用するほど、高い教養の持ち主だった。
だから手紙の文面も、ちょっと回りくどいんだ。
文学とは無縁の世界で育ったミルドレッドやディクソンにとっては、かなり難し過ぎたんだね。
そこのところが、日本語字幕では完全に抜け落ちていたというわけ。
真犯人ウィロビーによって「殺し合い」をさせられるはずだった二人が、犯人探しのために銃を載せた車で一緒に走る…っちゅうわけか。
何とも皮肉なエンディングや。
でしょ?
とんでもなくブラックなユーモアなんだよ。
脚本を書いたマーティン・マクドナーは天才だな。
元祖天才コーエン兄弟の後継者にふさわしい…
年の離れた弟としてブラザーズ入りしちゃってもいいんじゃないですかね(笑)
さて、本題に戻りましょう。
ミルドレッドはエビング町の中心部にある広告会社を訪れる。警察署の真向かいのビルの2階だ。
この時、入口のドアが反対側から映されるんだけど、これがちょっと面白いんだ…
どこがやねん?
アルファベットを裏返しに映して、ギリシャ文字っぽく見せてるんだ。
ギリシャ語でイエス・キリストを表す「魚(イクトゥス:ΙΧΘΥΣ)」を想起させるためにね…
わお!オモロイ!
そしてミルドレッドが現れ、警察署を背にしてドアを開ける…
死んだ娘アンジェラがボロボロ看板に記した「気づいて!ここに全て書いてあるの!」というサインを勘違いしなければ、行くべきところは逆方向の警察署だったのに…
ああ…
「何か」に気付いたところまでは良かったのにな…
しかもめっちゃカッコいい西部劇風BGMをバックに颯爽とドアを開けて入って行く分、なおさら「あちゃ~」って感じ…
あのシーン、超笑えるよな(笑)
さすがうちのよめ…じゃなくて大女優フランシス・マクドーマンド。
ん?いま何て言った?
映画『スリー・ビルボード』の最重要キーワードは「後ろ・逆方向」だ。
だから「BACK」や同じ音の「BUCK(責任・お金・鹿・下っ端)」が多用される。
最初の場面でも、ミルドレッドは一度看板を通り過ぎてから「バック」して戻った…
そして広告代理店のドアが「バック」から映され、ミルドレッドは警察署を「バック」にしてドアを開けた…
さらにオフィスの中では窓際で虫が「バック」状態になっていた…
そういえば、あの虫は意味深やったな…
もがきながら何かをアピールしとる感じやった…
そんで虫の背後には、警察署…
まさかあの虫は…
アンジェラ?
そうだね。
必死で母に伝えようとしていたんだろう…
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