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人生のスコープ

光の点が連なり蛇のようにうねる梅田を、中津のタワーマンションから見下している。41階ともなると、地上では想像さえできない程の強風が頬を横殴りする。スマホに通知が来た。接近していた台風が、温帯低気圧へと変わったとのことだ。半ば無意識に、角が取れた長方形の通知を右にスワイプし、取り消しを押す。こうやって、人生におけるあらゆる取り組みや催事も簡単に消去できればいいのに、とふと思う。親指でシュッとスワイプし、ポンとタッチする。自分という個人的な生活よりはるかに大きく深淵であるはずの台風の進退でさえワンタッチで消せるのに。一心不乱に働きぬいた末、崩せない実績(それはプライドとも言える)を積み上げて来たし、積み上げてしまった。簡単には、消せない。あるいは、そうした煩雑さそのものが人生を美しく彩るのかもしれないが。もしくはそれを顧みず全てを消去することすら、美しく、彩るのかもしれないが。紫煙が強風に靡き顔を吹き付け、ただそれを感じるほかなく佇んでいる。

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