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女性が走れば思い出す

 今朝、通勤途中に走る女性を駅で見かけて、ふと中学生のころを思い出した。記憶というのはいつも脈絡なく、唐突にフラッシュバックする。女性はしっかりと後ろで結ばれたポニーテールが、走るテンポに合わせてゆらゆらときれいに揺れていた。

 当時、僕は胸が大きい女の子と付き合っていた。中学時代なので、胸の大小などで好きになったわけではなかったけれど、友人たちからも「岡本は巨乳好き」などとからかわれたりした。

 僕にとって初めての彼女だったこともあり、彼女のことはとても好きだったのだけれど、体育の授業や運動会などで彼女が走る姿を見るのは苦手だった。というより、嫌いだった。
 理由は明らかで、彼女が一生懸命走るほどに胸が大きく揺れるからだ。僕は何だかその姿を見るたびに、身内をからかわれているような、あるいは男子みんなが胸に注目しているような気がして居心地が悪くなり、適当に走ってくれないかなんて思ったりしていた。

 当の彼女はあっけらかんとした性格だったので、胸のことはあまり気にしていないように感じられた。もちろん、当時の僕もあからさまに胸を触ったりすることもなかったから、そんな話題をすることはつゆほどもなかったけれど。

 僕は通勤電車の中で、地下鉄の窓の暗い向こう側をぼうっと眺めながら、彼女が再び走る姿を想像した。胸のことばかり気をしていたけれど、彼女はとても走るのが早かったな、とそんなことを思い出した。

 ともあれ卒業以来、彼女と連絡を取ることはなくなった。当然、彼女を走る姿はもう何十年も見ていない。彼女もあれから、結婚したりもしくは離婚したり、子どもができたりはたまた独身のままだったりするだろう。そして、時には走ることもあるだろう。そんなイメージとしての後ろ姿を思い浮かべながら、彼女が今も幸せに暮らしているといいなと思った。

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