「お金のマニュアル」-損をしないコツ- 其ノ3 「清貧思想」と日本人の投資②

 <株、買っちゃった!>

 実話になるが、2007年の後半頃、母から突然株を買った、と事後報告的に打ち明けられ仰天した事がある。株など知識も経験もほとんどないのに。誰かにそそのかされて株を買ってはみたものの、値下がりして困って電話してきたようだ。(株が上がっていたら電話はなかっただろう...)

 当時、私の担当していた銀行間市場=銀行同士がお互いの資金繰りのため資金を融通しあう市場、の現場では既に異変が起き始めており、プロの間では特定の金融機関の資金繰りについて非常に不気味な噂が飛び交っていた。そしてその翌年2008年にはいわゆる「リーマンショック」が起きて世界中大変なことになるわけだが、その1年以上も前から株式市場も世界的に下落基調に転じていた。

 そのタイミングでの母の告白。なぜ買う前に相談してくれなかったのだろう、と強く憤ってはみたが、文句を言ってもしょうがないのですぐに株を全部売るようにアドバイス(強制指示?)した。危うく大惨事になるところだったが損失も最小限度で済んだと自負している。

 他にも多くの方がそんな事知るよしもなく嵐に巻き込まれた。噂は根も葉もないことも多いが、時にとんでもない事実が隠れている事もあるので、市場の動きはあまり馬鹿にせず、常によく見ておいた方が良い。

 <だってお金で持っていても利息もつかないから...>

 さすがに腹に据えかねてなぜ株なんかに手を出したのか聞いてみたところ、「だってお金を持っていても利息もつかないから...」という返事が返ってきた。人生の殆どを銀行の預金金利が5%とか7%の時代に生きてきたため、お金に金利が付かない、という事態に堪えられなかったらしい。

 確かに「利息」「利回り」は高齢者達を騙すための殺し文句でもある。

2007年当時も預金金利はほぼゼロだったが、物価は今よりも明確に下がっていたのでこんな説明を試みた:

「確かに見た目の金利はゼロだけど、今は物の値段が下がっているから現金で持っていると得なんだよ。例えば今100万円持っていて、1年後に100万円の車が80万円に値下げになったら20万円利息が付いたのと同じになる。だから無理に株なんか買う必要ないんだよ。わかる?」               母:「そんな事言われても難しくてわかんない。だって利息はゼロでしょ。」

 昭和世代の金利に対する理解の典型ではないだろうか。おまけに見栄があるから人にも聞かないし、確認するのもお金に執着しているようでみっともない。こんな事が日本中で起きている気がする。何だかなあ、である。

其ノ4では「昭和の高度成長期」について少し触れてみることにする。

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損切丸

福島県郡山市出身。日本の銀行から某外資系銀行東京支店の投資銀行部門へと転職。いわゆるマネーマーケットで資金、金利取引に従事。欧州通貨危機、リーマンショック、東日本大震災など多々ひどい目に遭いながらも何とか20数年生き延びた。当局(日本銀行、金融庁、財務省等)とのやり取りも多数。
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