上海1年

「損切丸」的投資シナリオの検証 其の2- 中国、香港、韓国、「消えていく」銀行と投資銀行業務、不動産、etc.

6.中国と香港、韓国

 米国と対峙している中国。米中交渉の中で、やや脅しに近い米国の関税攻撃に対し、驚くほど頑固に抵抗している。上海の株式市場が3,000ポイント近辺で長期間低迷している(標題添付、↑ )のをNYダウと比較すると、経済的にもかなりのダメージがあるはずだが、株価などというものは資本主義的な指標に過ぎず、意に介していないのだろう。やはり10億人の内需を抱える国の強みか。内需市場がしっかりしている以上、通貨安も新興国ほどのダメージは受けない(むしろ輸出に有利)。正直、トランプ大統領も中国のここまでの抵抗は予想していなかったかもしれない。

 一方、いわゆる中国の「衛星国家」は難しい立場に立たされている。まずは通貨を米ドルに連動させる「ドルペッグ制度」を採用している香港。ドルペッグのお陰で2019年中頃までは中国の景気減速を一部遮断できていたが、ハンセン指数の推移を見ると、徐々に上海指数の動きに引きずられてきていることがわかる( ↓ ハンセン指数1年チャート)。名実ともに「中国の香港」になってきており、その中での最近のデモ騒動だろう。

香港1年

 もっと微妙なのは韓国。文在寅政権になってから露骨に親中国路線に舵を切っており、産業界も中国向け輸出に傾倒してきた。通貨ウォンも対ドルのレートより対人民元のレートが重要になってきており、さながら「人民元ペッグ」である。ただ韓国は中国のような大きな内需市場を抱えていないため一旦中国への輸出が途絶えると途端に苦しくなる。事実、中国では電化製品など内製化を推し進めており、日米と袂を分かった事がこれからどう影響してくるのか、余談を許さないところだ。ドル建の輸入や借入が多い以上、対ドルで通貨が安くなるのは問題には違いないのだが、過去の例にならってドル・ウォンの@1.200だけを通貨危機の臨界点と見るのは早計かもしれない。極論すれば今は中国向輸出が順調なら問題は深刻化しないとも言える。

7.「消えていく」銀行と投資銀行業務

 リーマンショック以降、銀行業界を取り巻く金融規制は厳しくなる一方で今後の展望はあまり明るくない。資本規制によるコストの増大は銀行のリスク許容度を下げ、流動性規制による余剰流動性の保有コストも大手行1行あたりで数千億円と莫大だ。「消えていく金利」も銀行の金利利鞘を圧迫し、頼みの「決済機能」も電子マネーや仮想通貨により浸食されていくだろう。

「マイナス金利政策」下の欧州では、口座維持手数料の増額やマイナス金利「付与」(実際は利息徴収)の動きが広がっており、日本の銀行も追随しそうだ。事実、みずほ銀行はそれでなくても高い「振込手数料」をまた上げた。これでは顧客離れが加速しても止むをえまい。電子マネーも普及し、これから出てくる仮想通貨を運営する会社が安い手数料で振込サービスを始めたら一体どうするつもりなのだろう

 こういった状況下、銀行内で1番割を食いそうなのが投資銀行業務だ。儲からないのだから後は人件費を削るしかなく、給料の高いトレーダー達が真っ先に削減対象になる。大手行では軒並み万人単位のリストラが見込まれており、「損切丸」のような「元トレーダー」が巷に溢れそう(苦笑)。こういう状況だと、どうせ首になるのだから、と勝負に出るトレーダーもおり、特に新興国のような流動性の低いボールドマーケット(Bold Markets)に仕掛けてくる輩が増える。変な噂や作り話も出てくるので要注意だ。主要市場の米債市場でも「逆イールド騒ぎ」を起こして儲けようしたぐらいだから。

低金利で苦しいのは保険業界も同じ。そこに今回の台風19号のような災害が重なると、まさに泣きっ面に蜂。このような災害発生時は「保険に入っていて良かった」と思うものだが安心するのは早い通常時でも支払いの悪い保険会社だが、業績の悪化する中、更に保険を払い渋る懸念もある。まして保険会社が破綻すれば掛けた保険はパーになる - このデフォルトリスクは常に頭に入れておかなければならない。「激甚災害」に指定されて国が支援するケースも結局は国の借金が増えるので、ツケは国民に回ってくる

8.不動産

 売買金額が高く、換金性も低いのであまり一般的な話題にならない不動産だが、インフレ対策としては有効な投資の1つである。但し、このところ頻発している「数十年に一度の災害」から、洪水リスクなど立地の価値の見直しが進むのは確実。物件によって立地の悪い方から良い方への大幅な資金移動も見込まれ、その点は研究してみる価値があるかもしれない。

-総括(まとめ)-

 国家、特に先進国による「インフレ政策」を主軸に現時点での「損切丸」的投資シナリオは下記のように想定:

A. NYダウや日経平均など、流動性、換金性が高くインフレに連動して上がる投資商品が主流。状況にもよるが、調整売りなどで下がった時に根性を出して仕込むのがベストだろう。最終的には行き場のない「過剰流動性」が還流してきて相場を支える蓋然性が高い。

B.  高金利通貨など新興国市場は危険デフォルトリスクまで考えると本当に投資価値があるのか、慎重な検討が必要。年末に向け、ファンドなどの「追い込まれたトレーダー」が仕掛けてくるリスクもあり、余程感情を押し殺して取り組まないと餌食になるだけ「過剰流動性」による恩恵も少なく、もし今回経済危機が訪れるとすれば、アジア通貨危機型の地域的なものになりそうだが、IMFなどが以前のように金融支援してくれるとは限らず、そこは全くの未知数でどうなるのか読めない。ちょっと空恐ろしい。

C. 「新通貨発行」のニュアンスがある「リブラ」など、これから出てくる仮想通貨は(条件や規制の状況によっては)有望。今後のニュースなどは漏らさずチェックしていく必要がある。日英米を中心とする陣営と中国-欧州を中心とする陣営に分かれつつあり、激しいバトルが繰り広げられそうだ。ユーロ崩壊を危惧するドイツ、フランスの動向が鍵を握るかもしれない

D. 預貯金、引いては銀行を「安全資産」と考えるのは危険。特に1,000兆円にも上る多額の預貯金がある日本では、いずれ国による、これも1,000兆円強の借金の「請求書」が国民宛回ってくる。「請求書」は政治的に不人気な増税ではなく「インフレ税」になる可能性が高く、依然デフレ型に傾倒しすぎたままの預貯金中心の資産構成はあまりにもインフレに対して脆弱だ。マイナス金利政策による実質「預金課税」「インフレ税」の一部であり、業績の悪化している銀行も口座手数料などの徴収に動いてくるだろう。つまり預貯金は持っていても、今後目減りしていく一方なのである。

 2019年も終わりに近づき、マーケットもやや無節操になってきている印象だ。11月決算のファンドや12月決算の銀行は業績も悪く、それこそ血眼になって市場に挑んでくるだろう。「損切丸」もここで改めてあらゆる市場を総括し、見落としがないよう臨むため今回の作業を改めて行ってみた。

 ピンチはチャンスでもある。切り抜ける方法は必ずある。

 

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