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「仮想通貨」と「国家主権」と「覇権」其の3 - 米・中を中心に各陣営が激しい駆け引き。

 2002年に世界最多の利用者数で有名なオークションサイト「eBay」に買収された「PayPal」LIBRAからの脱退を表明した。リブラ協会からの離脱が明らかになる直前の10月1日、同社が中国人民銀行から承認を得て、中国への本格進出を決定したことが原因、とも報じられている。CBDC(Central Bank Digital Currency)構想との関連もあろうし、ここでも「米中覇権争い」の影響が見て取れる。アメリカの企業であっても米国寄りと限った訳ではないことが証明され、各陣営の駆け引きがかなり激しくなっきた

 これで現在のLIBRA加盟企業数は27社となる。MaterとVisaのカード会社2社もLIBRA参加の可否を再検討する、という報道もあり、目標とする100社からは一歩後退した印象だ。ガーリングハウス・リップルCEOも、「LIBRAは規制の影響に直面しており、2023年までローンチできないだろう」とのコメントを出しており、具体的な時期はともかく予定された2020年6月の発行は延期を余儀なくされそうである。

 これに対してLIBRA協会は10月14日に加盟企業と会合を開く予定にしており、そこで同協会に関心を寄せる1,500社と情報を共有すると発表した。また開発担当のCalibra社では、数週間以内に新たな加盟企業を発表するとしており、この14日の会合で決定が下される、との報道もある。マネックスなど日本の企業も候補に挙がっている模様だ。

 「バスケット通貨の構成比」で比率を落とされた格好の欧州(18%)は、相変わらずLIBRAに対しては否定的だ。それもそのはず、EUは統一通貨EUROによって域内経済統一が図られており、LIBRAの登場はEUそのものの存立に関わってくる懸念もあるからだ。そうでなくてもギリシャやスペイン、イタリアなど財政難に苦しむ国々からは、「EU基準」について不満が渦巻いており、LIBRAが登場すればそれらの国々から一気に資金が流出し、混乱が拡大する懸念がある。

 一方、同じ財政難でも単一通貨の日本やイギリスは立場が全く異なる。いずれもアメリカの親密同盟国ということもあるが、LIBRAの登場が国家の通貨政策を阻害するような大きなデメリットは見受けられない。それどころか財政立て直しのためにインフレ=法定通貨価値の減価を目論む、という意味合いでは有益でさえある。特に物作り大国日本にとっては円高リスクを軽減できる点でも有益性があり、同じ職人国のドイツとは立場が大きく異なる

 PayPalもそうだが、今回のLIBRAに関しては中国との距離感をどう保つのか、が最大の腐心点であろう。それは賛成に回っている日本や英国も同じである。やはり10億人のマーケットは無視できない。

 ビットコインやリップルなど既存の仮想通貨企業はもっと複雑。世界中で「消えていく」法定通貨の金利は、「金利のない」仮想通貨の普及には願ってもない市場環境だし、LIBRAの登場は業界として成長の起爆剤になる可能性がある。だが一方で、自分達の通貨のシェアを奪われるリスクもあり、各社にとって今後の見通しは甚だ不透明である。実際この戸惑いの中で、最近の仮想通貨相場は不安定な動きを続けている

 結局のところ、LIBRAに関する駆け引きは「米中覇権争い」の行方に帰結する。各社、各陣営ともこの流れを見極めているところではないか。日本流に言うとまさに「関ヶ原の戦い」。優劣をどこで見極めて寝返る陣営が出るのか、といったところだろう。誰だって勝つ陣営に残りたいのである。

 2020年11月3日の米大統領選挙の向けてあと1年強。果たしてトランプ大統領がどう出るのか。それとも「ブラックスワン」がどこかで舞い降りるのか。みんな固唾を飲んで見守っている状態だ。(含.「損切丸」

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