ドル金利市場、再び動き出す - 中国製品3000億ドルに追加関税、9月1日からbyトランプ米大統領

 今年の夏休みは本当に休めなくなっている。トランプ大統領が9月1日から中国製品3000億ドルに追加関税を課す、と発表したのをきっかけに、+200ドル強で推移していたNYダウは-200ドル以下に急落、109円台だったドル円も107円台に急落した。そして前日のFRBによる利下げの前後ではほとんど動きがなかったドル金利市場も動き出した。

 金利市場は中央銀行の政策金利を基準点としているので、為替や株式市場のように売買の多数決で価格が決まる市場とは違い、中央銀行による政策金利という絶対的な基準金利を出発点にして、今後の金融政策の動向を軸に適正な市場金利が決まっていく。

 例えば昨日利下げしたFRBの政策金利は現在2%となっているおり、それをを基準点にドル金利市場は形成される。だから金利トレーダーは周りのトレーダーの意見やメディアの記事(=多数決要因)よりも中央銀行の意向(=絶対的要因)を汲んでポジションを取るのが正解。なぜなら政策金利を決めるのは中央銀行であって、市場参加者ではないからだ。(長期金利については財政など国の意向も多分に影響)

 おそらく1万人対1人でも、その1人が1万人に勝つことが出来るのは金利市場、特に短期金利市場だけだろう。中央銀行の考えを理解できていれば周りの意見は関係ない。おそらくマーケットでこんなに「意地を張れる」市場は短期金利市場だけであろう。

 中央銀行の金融施策変更はそれほど頻繁ではないため、為替や株に比べ金利市場は普段はおとなしい。それだけに、一度金利市場が動き出すと他の市場を巻き込んで大相場になるケースが多い。昨日の米国債金利のイールドカーブについて、ドル金利について寄稿した7月12日と比べてみよう。↓ 

 ここで捉えるべき大事なメッセージは、2年債よりも10年債の金利低下幅が大きく、2年-10年の金利差が0.27% → 0.16%に縮小していること。いわゆるイールドカーブの平坦化=フラットニングである。米景気減速への懸念が強まり、その結果今後FRBによる小幅な利下げが慎重に続く可能性が高い、と市場は見ているのだろう。

 もし次のFOMCで仮に0.5%あるいはそれ以上の大幅な利下げをすると市場が見なせば、2年債の金利の低下幅はもっと大きくなるはず。しかし、FRBには残り2%=200ベーシスポイントしか利下げ幅がなく、慎重になるのは当然だろう。一気に50BP(=0.5%)以上の利下げをするのはかなりの賭け。FRBによる小幅な利下げが長期間に渡る場合、期間の長い金利の方が短い金利よりも影響を受けることになるので、今回のように10年債の金利低下が2年債より大きくなる、という理屈だ。

 ↓ に単純な加重平均で2年と10年の金利計算をシミュレーションしてみた。政策金利のFFレートが今後2.00%から0.50%まで下がるとして:           ①半年ごとに-0.50%利下げ。 2年=1.25% < 10年=1.30%               ②半年ごとに-0.25%利下げ。 2年=1.63% > 10年=1.53%

 ①の場合、やはり期間の短い2年への影響が強い。まあ、10年に関しては、その期間中にFRBが利上げに転じるリスクもあるのでそれほど単純ではないのだが、シナリオ設定によって各期間の金利計算が大きく違う、ということだけ感じて頂ければ良いと思う。

 歴史を紐解くと、世界恐慌やブラックマンデー、リーマンショックなど数々の金融危機はいつもイールドカーブの傾斜化=スティープニングが伴ったドル金利急騰が引金であった

 金利低下とイールドカーブの平坦化で引き起こされた金融的惨事は、この日本で起きた「長期に渡る」デフレ危機だ。そして今各国の中央銀行が最も恐れているのが、このデフレだ。「日本のようにはなりたくない」というのが合い言葉になっており、日銀のことがよく引き合いに出される。長期に渡るデフレは金融当局にとって極めてやっかいなものであり、その事を日銀の苦闘が証明していると言える。

 まだヨーロッパ中央銀行(ECB、European Central Bank)が今のマイナス金利政策を実行する大分前であったが、筆者はフランクフルトのECB本店に招かれて日本の金融政策についてプレゼンをしたことがあったが、先方は興味津々だった。日銀の人にも聞いたことがあるが、やはりデフレとゼロ金利政策などについて海外から問い合わせが随分あったそうだ。

日本やヨーロッパでは、この夏35度を超えるような熱波が記録されているが、特に金利市場が動くときは大相場、の法則からするとマーケットもかなり暑い(熱い?)夏になりそうだ。「熱中症」にはご用心。

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