米 中国を「為替操作国」認定 - リーマンショック級大暴落(??)。

 今度は米中問題。NYダウは一時1,000ドル近く下げたが、米国が中国を自国通貨安に意図的に誘導している「為替操作国」に認定した事がきっかけと報じられている。この動きについて「損切丸」としての見解を述べよう。

 確かに下げ幅の絶対値が大きいのでちょっとびっくりするのは仕方ないが、株価そのものも大分高くなっていたのでこのくらいの下げはあってもおかしくない。油断は禁物であるが、1年チャート ↓ を見てもまだ下落基調に転じたとまでは言えない。(ただ際どい価格にさしかかってはいる)

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 買い場を探っている人には逆に絶好の機会とも言えるが、ここから下げ続けるようだと、NYダウは売りトレンドへの大転換となる恐れもあるので慎重な見極めが必要。

 それから、「リーマンショック」の再来か、と叫ぶ人達がいるようだが、「損切丸」としての結論:同じ型の「金融危機」の再来はあり得ない。当時危機の真っ只中、現場で銀行の資金繰りを管理していた者として、「危機」の実際を解説しつつ、なぜ同じような危機の再来はないのか、考察と共に理由を述べていきたい。

 銀行関係者ならおわかりかと思うが、銀行の根源的収益は「長期運用・短期調達」である。例えば10年のローンを2.00%で貸し出して、その資金を銀行間市場でO/N=1日物@0.01%で調達すれば、2.00%-0.01% ≓ 2.00%の金利差が銀行の収益となる。極めて単純なやり方だが、これは銀行に信用があるからできる手法である。(個人が毎日O/Nを借り続けることなど不可能)

 筆者の勤めていた銀行は仮にも大手行だったので、リーマンショック前はドルだけでO/Nを10兆円相当以上毎日調達していた。仮に貸出との金利差が2.00%であれば、これだけで年間収益は+200億円。はっきり言って誰がやっても儲かる仕組みのはずだったが、実はこれが大きなリスクだった

 2007年頃から銀行間市場で変な噂- あの金融機関がおかしい、等 - が流れ始め、銀行も資金調達が難しくなってきていた。そして2008年9月、遂に「リーマンショック」が起き、銀行間市場は凍り付いたお金を貸す側がどこの銀行が潰れるかわからない、と疑心暗鬼になり、1日物の資金ですら貸し渋ったのだ。その結果、「損切丸」も含め銀行の資金繰り担当者は資金調達に奔走することになり、ドルも円も上乗せ金利が+2~3%にも達した。

 これで「長期運用・短期調達」の利益は吹き飛んでしまったわけだが、収益の事を言っている場合ではなかった。資金繰りがつかなければリーマン同様破綻である。ここで感じる切迫感は、例えるなら断崖絶壁で一歩下がれば転落して即死、の状況下、風速40mの風に堪えるようなものだ。

 更に事態を悪化させたのが、お金を調達できない銀行が企業へ貸せなくなり、連鎖倒産が相次いだこと。これが大不況を招いた根本的理由で、1929年の世界大恐慌も1987年10月のブラックマンデーも同じ構図で引き起こされた。つまり全て銀行の資金繰り問題が発端だったわけである。人の体で言えば血管が詰まってしまい重度の貧血になったような状態。そこで心臓(=中央銀行)が大量に血液(=お金)を送り出すこととなった(=金融緩和)。

 その後、善後策としてFRBなど欧米の金融監督機関が銀行に対し規制を強化した。ポイントは2つ:1.流動性規制と 2.資本規制

1.流動性規制 :   銀行が資金繰り管理を適正に行うための規制。リーマンショック後、それまでに銀行で行われていた「長期運用・短期調達」が過剰であったとの反省に基づいて、強制的に銀行に長期資金を調達させ、手元資金(=O/Nで運用できるお金)を余剰にするよう指針を変更した。   つまり、上記の例で言えば金利差+2%の収益をわざわざ-2%の損を出させる仕組みに変えた。一種の「保険」である。これではどんな天才がやっても収益は出ない。欧米の大手行はこの流動性規制だけで年間数千億円のコストを払う必要に迫られ、業績は当然悪化、今もこの規制は継続されている。
2.資本規制 :   銀行が過大なリスクを取っていた、との反省に基づき、リスクに見合う資本を積むことを銀行に強制した。資金繰りのための資金調達と違って、資本調達は株式の発行など桁違いのコストがかかる。結果、銀行は資本を増やすよりもリスクを減らす方を選択した。  例えば弊著「お金のマニュアル」其ノ13 株式編③にも例示したが、銀行は株式の裁定ポジションなど巨額の資金を使って取っていたリスクを急激に減らしていった。その結果多くの収益源を失い、関連人員も大幅に整理する結果となった。

 「損切丸」が銀行株は上がらない、と主張している根拠がこれらの莫大な規制コストの負担である。その反面、「保険」効果として銀行がリーマンブラザーズのように資金繰り破綻する確率も極めて低くなり、過去に起きた典型的な金融危機は起きにくくなっている。

 今も欧米の銀行はコストを払いながら資金繰りポジションをがちがちに固めたままだし、加えて日銀や欧州中央銀行(ECB、European Centarl Bank)などの中央銀行もお金の蛇口は開けっ放しである。例えば最近業績悪化で話題になるドイツ銀行についても、資金繰りに行き詰まることはまずなかろう。銀行間市場にも筆者が経験したような緊張感は見られない。

 加えて企業サイドも過去の経験則から銀行に過度に依存するのは危険と考えを改め、手元資金を従来より厚めに保持している。社債発行を多様化するなど市場から直接お金を調達する術を拡充してきており、銀行破綻型の危機から身を守る対策をしているので、なおさら「危機」は起きにくい。

 現在、(特に日本では)巨額のリスクテイクは国が代替しているとも言える状態だが、国そのものに対する流動性規制や資本規制はない。その気になれば輪転機はいくらでも回せるわけで、リーマンショックのようなカタストロフにはなり得ない。今流行りのMMT=Modern Monetary Thoery、現代貨幣理論もこういった考えに基づいているのではないか。

 国は金融(含.法定通貨発行権)、財政(含.徴税権)などの権限を保持しているので、いざとなれば国家運営の名の下に「つけ」を国民から回収できる。筆者がインフレシナリオにこだわる理由の根源はここにある。

 10月に消費税が上がるので、山本太郎氏ではないが「リーマンショック」級を理由に増税を止めて欲しい、という気持ちは分からないではない。しかし厳しいことを言うようだが、選挙で選んだ政権であるのだから日本に暮らす以上政府には従うしかあるまい。あとは自分でできることをやるだけ。(含.日本から出て行くこと)- やるからには勝算のある勝負を挑もう。

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