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「お金のマニュアル」 -損をしないコツ- 其ノ22 国家政策とインフレ税①

 <日本の国の借金と多額の銀行預金>

 皆さん、インフレ税という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。

 其ノ9日本国債編で巨額の国家予算の事にも触れたが、政府が特効薬と考えているのが、このインフレ税だろう。1,000兆円もの政府の借金のほぼ半分にあたる国債を、これまた国自身とも言える日本銀行が買い支える構図は、まるで蛇が自分の足を食っているようで異様である。お札を刷っているのも日本銀行だし、国の予算や税制も政府が決めているのだから、実はお金の勉強をしようと思えば、国家財政のことは避けて通れない部分でもある。

 財務省も国の借金が地方も併せて1,000兆円を超えているから大変、とホームページなどで訴えているが、実はさほど危機感がないのではないか

 何せ日本人の預金が1,000兆円以上もあり、国の借金のほとんどが国内で賄われているのだから。いざとなれば預金封鎖預金税などをかければ一瞬で回収できるからだ。ただ現実にそんなことをすれば社会不安を増大させ、政治的にも受け入れ不可能であろうから、今一生懸命消費税を上げ財政健全化(のアピール?)をしている。

 しかし8%や10%の消費税では ”焼け石に水" なのは賢明な官僚諸氏には自明の理。本来医療費など社会保障費の大幅削減に切り込みたい所だろうが、それはそれで問題、特に政治問題が大きく今は踏み込めまい。

 <量的緩和政策とインフレ税>

 其ノ18でも触れたが、リーマンショック以降、主要国の中央銀行は「お金」を市場にジャブジャブに供給する量的緩和策」を協力に推進している。筆者は政策の隠れた目的はこのインフレ税ではないかと疑っている。

 まず日銀が市場に出回っている国債を買い、買える国債が市場で尽きると、次にETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託。日経平均などの株価指数に連動するものが多い) の名の下にを大量に買った。

 その次:さすがに直接土地や商品を買うわけにはいかないので(もっとも "ヘリコプターマネー" なるお金のばらまきを一時議論していたようだが)、REIT(Real Estate Investment Trust、不動産投資信託。取引所に上場されて取引が行われる)を通じて不動産にまで手を出している。

 其ノ13大量の株式を銀行が買い占める「裁定取引」について説明したが、今はこれを国が行っていると考えればわかりやすいだろう。2018年末で日銀のETF保有残高は約25兆円、日本株全体の時価総額の4%に達していると推計されている。我々銀行が行っていた裁定取引など及びも付かない程の巨額であり、ここ数年の日本の株式市場上昇の原動力になったと考えられている。REITを通じた不動産市場への底上げ効果も同様にあったであろう。

 <お金の価値を下げる>

 中央銀行が大量に資金を市場に供給し、株や不動産価格を上昇させることは相対的にお金の価値を下げることになる。それでは貨幣価値が下がって得をするのは誰か? それは取りも直さず巨額の借金を抱えている国であり、現金や預金保有者はその逆となる。

 実際に日銀の当座預金については超過準備預金には@▼0.10%が課され、国債もほとんどがマイナス金利であることを考えると、お金の保有には実質ペナルティーが課されていると考えるのが合理的だ。

 どの国でも財務省と中央銀行は人事交流も含め密接に連携しており、日本では黒田総裁を始め、歴代日銀総裁には財務省出身の人が多い。米国やドイツと違い、法律(日本銀行法第四条)で「政府との意思疎通」を義務づけられている日本銀行であれば、国家財政に関わる部分はおそらく「あ・うん」の呼吸で理解しているだろう。

 多額の借金をしている国家にとってインフレ=貨幣価値の減少は借金を減らす有効な手段なのである。表だって増税する必要もないので政治的な負荷も小さいし、国民の現金資産から徴収するのと同じ経済効果が得られる。まさにインフレ税である。預金の足りない欧米諸国と違い、奇跡のように1,000兆円もの借金と預金が国内で両立している日本では、このインフレ税成立の可能性はより高く、期待も大きい。

 其ノ23は引き続き国家政策とインフレ税について。戦後すぐの実例などを交えて。

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